漆黒のボディ塗装に黄色のラインを効果的に施したF-2戦闘機。これは築城基地(福岡県)に置かれた航空自衛隊第8飛行隊の機体だ。2020年、第8飛行隊は部隊創設60周年を迎えたことから、飛行隊が保有運用する1機のF-2に記念塗装を施した。通常塗装の青色を基調としたF-2と違い、さらに精悍で鮮烈なイメージのカラーリングとなっている。
垂直尾翼には黒豹の顔が描かれている。これは第8飛行隊の部隊愛称「ブラック・パンサーズ」のシンボルマークだ。黒豹をシンボルとするのはその昔、部隊のコールサインに「パンサー」を使っていたことに由来するという。機体の黒色もこれに倣っているわけだ。そしてボディ上面の黒色は単色ベタ塗りではなく濃淡で塗り分け、ヒョウ柄を再現している。
黒豹の顔の下、垂直尾翼の基部には過去に第8飛行隊が置かれてきた日本各地の航空基地の来歴も描かれている。小松基地(石川県・1961〜1964年)、岩国基地(山口県・1964〜1967年)、小牧基地(愛知県・1967〜1978年)、三沢基地(青森県・1978〜1983年)、そして築城基地(1983〜2016年〜)。築城基地の位置には黒豹の全身像が描かれている。ちなみに第8飛行隊の創設は1960年で、当時は第5飛行隊として編成され、その内部に部隊開設準備室が作られていた。
スペマ機となった機体番号「13−8558」機はこのまま飛行訓練などに飛んでいた。塗装機体を披露されたのが2020年12月、筆者がこの機体を撮影取材したのは2021年4月、半年弱この塗装で飛び続け、防空の任に就いていたわけだ。黒色塗装により洋上迷彩は低下すると思われるが、どうなのだろう。塗装のデザインは部内での考案を主力に外部のサポートも得たようだ。
ここで少し「装備(兵器)への特別な塗装」について見てみる。空自では、航空戦闘の技量向上等を目的として行なわれる戦技競技会(戦競)へ出場する機体に特別な塗装を施すなどしている。これは「スペシャルマーキング」などと呼ばれるものだ。最近では略して『スペマ』などと呼ばれるようだ。スペマは競技会仕様から記念塗装などの催事仕様といえるものまで広範囲なものが存在するようだ。デザインや塗装の担当者となった者は心血注いでアイデアを具体化させる。ときには、ここまでやっていいのか? というものや、ハズれた? と感じるものまで登場するのが面白い。なかにはエスカレートして「痛車」のような状態になるものまで現れたこともある。
こうしたスペマは実機のファンや撮影愛好家などに注目されるばかりか、プラモデルの世界でも一定の人気がある。デカール(シール)で精密に再現したスペマキットにはスケールモデラーの愛好家やコレクターも多いと聞く。
スペマの範疇からは外れそうだが忘れられないものがある。諸外国空・海軍などで使われ、先ごろ空自を引退したF-4EJ/EJ改(F-4ファントムⅡ)は機首に「シャークティース(シャークマウス)」と呼ばれる鮫の歯を描かれることが多かった。シャークティースとF-4ファントムⅡの機首形状との相性は良く、ペイントで猛々しくなる全体の雰囲気も好まれたようだ。シャークティースはそもそも第二次大戦時期の米軍機P-40ウォーホークから始まったとされる。空自機ではF-4のほかF-104JやF-1、F-15Jにも描かれたことがある。
また、大戦時代のレシプロ・プロペラ戦闘機や爆撃機などの機首にはグラマラスな女性の姿などを描いたものがあり、これらはのちに「ノーズアート」と呼ばれ独自文化として定着、愛好家や研究家などは世界的に多い。
シャークティースやノーズアートをスペマの範疇でくくるのには異論のある方も居られるかもしれない。ここでは兵器になんらかの絵画やカラーリングを施す文化として広く捉えてみた次第です。また、いわゆるスペマは航空機分野だけでなく、戦闘車両や艦艇に施される例なども認められるので、随時紹介してみたいと考えています。