『スペマ』のF-2戦闘機 「第8飛行隊 60周年記念塗装機」を間近に見る 『防衛百景』の現場から

築城基地に置かれる第8飛行隊の60周年塗装機F-2。8飛行隊の愛称「黒豹」をイメージしたスペシャルマーキングが施されている。
古今東西の軍隊では彼らが扱う装備(兵器)に特別な塗装を施す文化がある。それは前線の現場で自らを鼓舞するため部隊のモットーや掛け声を殴り書きしたものなどから、部隊の象徴などを綺麗に描きこむものまで多種多様だ。航空分野では昔から派手なペイントを施す傾向が強いといえる。そして航空自衛隊にも特別塗装機は存在する。今回はそのなかの一機を紹介したい。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

漆黒のボディ塗装に黄色のラインを効果的に施したF-2戦闘機。これは築城基地(福岡県)に置かれた航空自衛隊第8飛行隊の機体だ。2020年、第8飛行隊は部隊創設60周年を迎えたことから、飛行隊が保有運用する1機のF-2に記念塗装を施した。通常塗装の青色を基調としたF-2と違い、さらに精悍で鮮烈なイメージのカラーリングとなっている。

ボディの主に上面は黒色塗装、単色ベタ塗りではなく濃淡で塗り分け、ヒョウ柄を再現している。各翼などの縁には黄色線でフォルムが強調され、コントラストも強められている。

垂直尾翼には黒豹の顔が描かれている。これは第8飛行隊の部隊愛称「ブラック・パンサーズ」のシンボルマークだ。黒豹をシンボルとするのはその昔、部隊のコールサインに「パンサー」を使っていたことに由来するという。機体の黒色もこれに倣っているわけだ。そしてボディ上面の黒色は単色ベタ塗りではなく濃淡で塗り分け、ヒョウ柄を再現している。

黒豹の顔の下、垂直尾翼の基部には過去に第8飛行隊が置かれてきた日本各地の航空基地の来歴も描かれている。小松基地(石川県・1961〜1964年)、岩国基地(山口県・1964〜1967年)、小牧基地(愛知県・1967〜1978年)、三沢基地(青森県・1978〜1983年)、そして築城基地(1983〜2016年〜)。築城基地の位置には黒豹の全身像が描かれている。ちなみに第8飛行隊の創設は1960年で、当時は第5飛行隊として編成され、その内部に部隊開設準備室が作られていた。

垂直尾翼には黒豹と飛行隊の来歴を示すペイント。垂直尾翼下方の胴体後尾には黒色で日本列島も描かれているという。
操縦席、キャノピーのアウトラインにも塗装は施され、イエローラインも細かくレイアウトされている。

スペマ機となった機体番号「13−8558」機はこのまま飛行訓練などに飛んでいた。塗装機体を披露されたのが2020年12月、筆者がこの機体を撮影取材したのは2021年4月、半年弱この塗装で飛び続け、防空の任に就いていたわけだ。黒色塗装により洋上迷彩は低下すると思われるが、どうなのだろう。塗装のデザインは部内での考案を主力に外部のサポートも得たようだ。

ここで少し「装備(兵器)への特別な塗装」について見てみる。空自では、航空戦闘の技量向上等を目的として行なわれる戦技競技会(戦競)へ出場する機体に特別な塗装を施すなどしている。これは「スペシャルマーキング」などと呼ばれるものだ。最近では略して『スペマ』などと呼ばれるようだ。スペマは競技会仕様から記念塗装などの催事仕様といえるものまで広範囲なものが存在するようだ。デザインや塗装の担当者となった者は心血注いでアイデアを具体化させる。ときには、ここまでやっていいのか? というものや、ハズれた? と感じるものまで登場するのが面白い。なかにはエスカレートして「痛車」のような状態になるものまで現れたこともある。 

こうしたスペマは実機のファンや撮影愛好家などに注目されるばかりか、プラモデルの世界でも一定の人気がある。デカール(シール)で精密に再現したスペマキットにはスケールモデラーの愛好家やコレクターも多いと聞く。

前脚格納カバーにはビリヤードのエイトボールを模したと思しき図柄。胴体下に吊り下げられた増槽の右側には「第8戦術戦闘飛行隊」の文字、増槽左側には「BLACK PANTHERS」と書かれた。胴体後部下面の翼には黒豹の足跡が描かれている。
正面から見た「スペマ」機。漆黒塗装で引き締まり、より精悍さを増している。

スペマの範疇からは外れそうだが忘れられないものがある。諸外国空・海軍などで使われ、先ごろ空自を引退したF-4EJ/EJ改(F-4ファントムⅡ)は機首に「シャークティース(シャークマウス)」と呼ばれる鮫の歯を描かれることが多かった。シャークティースとF-4ファントムⅡの機首形状との相性は良く、ペイントで猛々しくなる全体の雰囲気も好まれたようだ。シャークティースはそもそも第二次大戦時期の米軍機P-40ウォーホークから始まったとされる。空自機ではF-4のほかF-104JやF-1、F-15Jにも描かれたことがある。

また、大戦時代のレシプロ・プロペラ戦闘機や爆撃機などの機首にはグラマラスな女性の姿などを描いたものがあり、これらはのちに「ノーズアート」と呼ばれ独自文化として定着、愛好家や研究家などは世界的に多い。

訓練飛行を終えて帰投した特別塗装機。このまま任務飛行、訓練飛行に用いられていた。スペマは本来、戦技競技会や航空祭などで披露され用事が済めば元どおりに戻される。が、コロナ禍で各種催事は中止等の措置を受けており、本来の出番を失っているともいえる。

シャークティースやノーズアートをスペマの範疇でくくるのには異論のある方も居られるかもしれない。ここでは兵器になんらかの絵画やカラーリングを施す文化として広く捉えてみた次第です。また、いわゆるスペマは航空機分野だけでなく、戦闘車両や艦艇に施される例なども認められるので、随時紹介してみたいと考えています。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…