次世代電池だけが、トヨタの次世代電気自動車(BEV)の航続距離を延ばすのに貢献するわけではない。空気抵抗を低減する空力技術も航続距離の延長につながるとして、トヨタは開発に取り組んでいる。ワークショップで明かされた一例が、三菱重工業宇宙事業部と共同で技術検討を行なっている、ロケットの極超音速空力技術を応用した新たな空気抵抗削減技術だ。
ロケットは極超音速で飛行する際、空気との摩擦により熱が発生する。それを防ぐ熱防御技術を次世代BEVに適用すべく、研究しているのだという。三菱重工業とトヨタは定期的に技術交流を行なっており、今回のように三菱重工業側から「この技術、クルマに使えるのでは?」と提案があるいっぽうで、「ロケットのコックピットを設計するのにあたってクルマ側からアドバイスくれない?」というような問いかけがあるのだという。
ロケットの極超音速空力技術とは、薄い空気の膜(層)をつくることで空力加熱から機体を防御することを指す。ここでいう極超音速とはマッハ8(音速の8倍)の世界を指すのだが、その世界で通用する境界層制御の技術が、マッハ8に比べれば極めて低速な100km/hでも効果を発揮することが、現象の解明により判明したという。
現象解明に利用したのが、写真の風洞モデルだ。「ロケットとクルマを結びつけるのに飛行機?」と疑問に思うかもしれないが、現象をわかりやすく理解するのに飛行機の翼は適しているのだという。ちなみにこの機体、エアレースパイロットの室屋義秀さんがエアレースに使う機体で縮尺は32%。写真では隠れて(うまく隠して)見えないが、左側の翼の上面に現象を解明するための細工が施してある。ワークショップの会場では、風洞で空気の流れを可視化し、CFD(数値流体力学。コンピューターによる流れ解析)との相関をとるPIVを実施した様子を紹介していた。
この技術の狙いは摩擦抵抗(空気の粘性によって発生)と圧力抵抗(剥離した気流を引きずることで発生)を下げることだ。薄い空気の膜を車体表面に形成すると、摩擦抵抗と圧力抵抗が下がることがわかった。あとは薄い膜をつくる手段を考えればいいが、その手段についても目処は立っているという。
圧力抵抗に関しては形状に依存する部分が多い。空気抵抗を意識したクルマのサイドビューが似たようなシルエット(紡錘形に近づく)になるのは、誘導抵抗(差圧によって発生)も含めて空気抵抗低減の観点からだ。ロケットの熱防御技術を応用した薄い空気の膜を作る技術を適用すると、圧力抵抗の束縛から解放され、形状自由度が生まれる。そのメリットを生かすことで、空気抵抗の低減と魅力あるエクステリアデザイン/パッケージを両立することが可能になるというわけだ。Cd値(空気抵抗係数)は0.1台を視野に入れているという。
余談だが、風洞試験を行なっているのは、トヨタのグループ会社にある実車風洞。PIVもそこで実施。形状にかかわらず空気抵抗が低減する技術となればモータースポーツ部門で放っておくはずもなく、強い関心を示しているという。