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新エンジン搭載の第2世代e-POWERがいい
新型は家族で楽しめるミニバンらしさに磨きがかかっているし、e-POWER車は電動駆動車としての質が格段に向上している。100%電動駆動のハイブリッドシステム(すなわちe-POWER)は、2021年に発売されたノート/ノートオーラ系から搭載が始まった第2世代e-POWERを搭載している。それまで別体だったインバーターを一体化して小型軽量化したのに加え、制御技術を進化させた。
新型セレナe-POWERが積むのはこれとまったく同じではなく、発電用エンジンが違う。ノート系はHR12DE型の1.2L直列3気筒自然吸気エンジンを搭載しているが、セレナe-POWERは新開発したHR14DDe型の1.4L直列3気筒自然吸気エンジンを搭載する。排気量の違いよりも重要なのは、HR12DEが走行用エンジンをベースとしているのに対し、HR14DDeは発電専用に開発されたことだ。
約200ccの排気量増は熱効率を高めつつ、発電能力を高めるためだ。e-POWER車が強い加速をするときはバッテリー出力だけでは足りず、エンジンで作動させるジェネレーターの出力を付加することになる。新型は後者の能力を高めて前型よりも力強い走りを実現しようとした。
同時に、エンジンはなるべくかからないような制御とし、かかったとしても低回転に抑え、乗員が気にならないようにした。前型セレナe-POWER(1.2L)の定点発電点は2400rpmだったが、新型セレナe-POWER(1.4L)の定点発電点は2000rpmである。実際には、前型は2000rpm(低速)、2400rpm(中高速)の2段階。新型は1600rpm(低速)、2000rpm(中速)、2400rpm(高速)の3段階だ。
車速が50km/hのとき、前型は2400rpmで発電していたが、新型は80km/hを超えるまで2000rpmで発電する。新型のHR14DDeはエンジンそれ自体が発する音や振動を低減する技術が採用されているし、車室内へのノイズの侵入を抑える策が徹底して施されてもいるが、エンジン回転を低く抑えるのは「元から断つ」ことになって効果が大きい。
排気量を変えずにエンジン回転を落とすと発電能力が低下してしまうので、それを補う意味もあって排気量を増やした。新型セレナe-POWERの定点発電点の回転数は前型に対して低くなっているが、発電量は増えているという。同時に燃費改善を図った。高圧縮比化やロングストローク化に直噴化、排気側にもVVTを追加したことなどによる高EGR率化などが効いている。最も作動頻度の高い2000rpmでの熱効率は40%に達するという。また、2400rpmでの運転時では、前型比で燃費率が6%向上しているそう。
前型セレナe-POWERは車重に対して非力気味で、「力が足りない」と感じてアクセルを踏み込むと出力を補助するためにエンジンが高い回転でうなって……というありがたくない循環に入り込み、フラストレーションの溜まる思いをした。さて新型はどうかと恐る恐る走り出してみたが、約320kmにおよぶ試乗期間中、力不足を感じるシーンは一切なかった。その間の平均燃費は19.9km/Lで、感覚的な判断になるが、前型よりだいぶいい。ちなみに、モーターの最高出力は前型比で20%アップの120kW(最大トルクは315Nm)、発電用エンジンの最高出力は16%アップの72kWである。
新型セレナe-POWERは、モーターならではのスムーズかつリニアな走り味が印象的だ。しかも静か。定点発電は30km/h以下では1600rpm、80km/h以下では2000rpmで、走行音にまぎれてエンジンの存在はまったく意識しない。そのため、走りのフィーリングは電気自動車(BEV)と変わらない。3気筒エンジン特有のすりこぎ運動を打ち消す一次バランサーシャフト、e-POWER専用設計とすることで可能になったギヤボックス締結面の形状最適化、クランクシャフトの曲げ共振を回避するフレキシブルフライホイールの採用などなど、徹底した振動対策も「エンジンの存在感を消す」のに貢献している。
エンジン音が目立たないようにわざと走行音が大きくなるようにしている、というような姑息なことはしておらず、新型セレナはエンジンがかかっていても(かかっていないときはなおさら)非常に静かなクルマだ。e-POWER車は専用に吸音材・遮音材が追加されている。音の侵入を防ごうと穴という穴をふさぎにかかると、残った穴から入ってくる音が目立つようになる。
1列目シート
2列目シート
3列目シート
シートレールもそのひとつで、従来はシートレールの鉄とフロアの鉄がダイレクトに接しており、そこが音の侵入経路になっていた。新型セレナはシートレールとフロアの間に吸音材を挟んだ。このような徹底した対策の効果で、セレナe-POWERは上級サルーンも顔負けの静粛性を実現している。おかげで同乗者との会話にストレスがない(会話が弾むかどうかは乗員同士の関係次第だが……)。
最上級グレード「LUXION」はプロパイロット2.0が標準
セレナe-POWERには最上級グレードのLUXION(ルキシオン)が設定されたが、このグレードは他のグレードと差別化を図るため、フロントガラスに加えて前席ドアガラスにも遮音ガラスが採用されている。だからスペック上の静粛性はハイウェイスターVを含む他のグレードよりも上だ。
ルキシオンが魅力的なのは静粛性の高さ以外にもあり、ハンズオフが可能な先進運転支援システムのプロパイロット2.0を標準で装備すること。ミニバン世界初搭載である。プロパイロット2.0任せで走行する際の微舵応答性を高めるべく、電動パワーステアリングはコラムアシスト式ではなくデュアルピニオン式を採用した。エクストレイル譲りの(ミニバンにしては)贅沢なシステムだ。
プロパイロット2.0任せの高速クルーズは一度味わってしまうと病みつきになること請け合いだ。疲労の蓄積度合いが半端なく軽減される。移動中のストレスが軽減されるし、移動後も同様である。操舵応答性の観点でラジコアサポートやストラットタワーの剛性を上げたり、フロントはサスペンションメンバーと車体との間に挟んでいたブッシュを取り去って剛結にしたり、スライドドアの下にクロスバーを追加したりといった手当を行なっている。その効果で、自分でステアリングを握っているときのクルマの動きが意のままで気持ちがいいし、プロパイロット2.0任せのときは余計な進路の乱れやボディの揺れがなく、安心してシステムに任せていられる。
ルキシオンだけ図抜けた価格設定になっているが、それだけの価値はある。セレナe-POWERはエンジンを積んでいることを忘れさせる電動ミニバンであり、圧倒的に静かで、プロパイロット2.0による支援のあり・なしにかかわらず、しっかりした、そして快適な走りが味わえる。
日産セレナe-POWER LUXION(2WD) 全長×全幅×全高:4765mm×1715mm×1885mm ホイールベース:2870mm 車重:1850kg サスペンション:Fストラット式/Rトーションビーム式 駆動方式:FF エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:HR14DDe 排気量:1433cc ボア×ストローク:78.0mm×100.0 mm 圧縮比:13.0 最高出力:98ps(72kW)/5600pm 最大トルク:123Nm/25600rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:52ℓ フロントモーター EM57型交流同期モーター 最高出力:120kW(163ps) 最大トルク:315Nm 乗車定員:7名 燃費:WLTCモード 18.4km/ℓ 市街地モード20.4km/ℓ 郊外モード:19.5km/ℓ 高速道路:17.0km/ℓ 車両本体価格:479万8200円 メーカーオプション24万2000円 100V AC電源(1500W) 5万5000円、ターコイズブルー(PV)/スーパーブラック2トーン特別塗装色 8万8000円、ホットプラスパッケージ9万9000円 ディーラーオプション 後席専用モニターHDMI Nissan Connectナビ付き車用12万2760円