新型プリウスをスポーツカーに変える!? TEIN[テイン]の最新サスペンション電子制御システム『EDFC5』は街乗りからサーキットまで全域で効果大!

TEIN(テイン)の電子制御式ショックアブソーバー用減衰力コントローラー『EDFC(エレクトリック・ダンピング・フォース・コントローラー)』の最新モデルである『EDFC5』がリリースされたのが2023年1月。今回、福島県のエビスサーキットにEDFC5装着車両を持ち込まれ試乗会が開催された。山田弘樹氏がステアリングを握り、EDFC5を実際に体感しその効果をレポートする!
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp

自動車用サスペンションメーカーである「TEIN(テイン)」が、2002年から販売している電子制御式のショックアブソーバー用減衰力コントローラー『EDFC(エレクトリック・ダンピング・フォース・コントローラー)』。
その第5世代モデルとなる「EDFC5」の実力を、クローズドサーキットで試すことができた。

試乗会の会場となったのはエビスサーキット(福島県二本松市沢松倉1番地)の東コース。傾斜の大きいアップダウンと大きく回り込んだコーナーが特徴のコースだ。試乗車はGR86、プリウス、ヴォクシー、ヴェルファイア(先代モデル)の5台。

試乗車はミニバンからスポーツカーまで合計5台が用意されており、MotorFan.jpが選んだのは現行トヨタ・プリウス(FWD)とGR86の2台。筆者はまずプリウスに乗り込んで、その走りを確かめた……ということで走り出したいところだが、まずはEDFC5の内容をおさらいしよう。

テインのプリウス・デモカー。
同社のフルスペック車高調「RX1」そ装着し「EDFC5」と組み合わせる。

電子制御式ショックアブソーバー用減衰力コントローラー「EDFC」

EDFC5は冒頭でも述べた通り、調整機構を持つショックアブソーバーの減衰力を、室内から変更できるコントローラーだ。これまではいちいちクルマから降りて、必要があればボンネットやトランクを開けたり、ハンドルを据え切りしたりして変更しなければならなかったダンパーの減衰力を、車内から簡単に調整できるようになったことが2002年当時はとても画期的だった。

運転席設置するにコントローラーで、乗ったままダンパーの減衰力を調整できる。
サスペンションのアッパーにマウント上に装着するモーターが、ダンパーの減衰力をリアルタイムで調整する。

そんなEDFCはアップデートを重ね、最新型では「ジャーク制御」をも可能としたのが「5」の特長。
「ジャーク(躍度:やくど)」とは専門的に言うと「時間あたりの加速度の変化率」のこと。わかりやすく言えば、Gが変化して行く過渡的な状況に合わせて減衰力を自動で変更することが可能になった、ということだ。

TEIN『EDFC5(価格:10万5050円/税込)』
EDFC5 は芝浦工業大学の渡邉 大教授との産学連携によって開発。「ジャーク制御」を取り入れたことによりシャープなハンドリングとソフトな乗り心地の両立をし、ドライバーが求める挙動を自動で作り出す。さらに、「AI機能」を搭載することで様々な走行シチュエーションでも違和感のない、適切なジャーク感覚を実現している。これまでのモデルでは一部車両で「モーター音が気になる」と言われていたが、モーターの制御方法 を一新することにより作動音を低下。アフターパーツであっても純正のような静かさを手に入れた。

たとえば普段の道はソフトな減衰力で走り、カーブでGが高まって行くと、それに応じて減衰力を高める。そしてG変化がなくなると設定値に戻る、といった具合だ。だからEDFC5はスポーツカーだけでなく、重心が高いミニバンにもお勧めなのである。

「J(ジャーク)モード」はカーブが曲がりやすい!

ということでプリウスを走らせよう。
装着される足周りは、同社のフルスペック車高調「RX1」。減衰力設定は伸/縮同時調整の16段階設定を、真ん中からスタートした。
またEDFC側の設定は、開発陣からのお勧め通りにまずは「M」(マニュアル)モードで走り、これを「J」(ジャーク)モードから順に比べてみた。

TEIN『RX1(価格:21万2300円/税込)』(プリウス/FF用)
全長調整式ストリートユースフルスペック車高調で、フル乗車、荷物満載でもギャップを通過する際の不快な衝撃を低減する「ハイドロ・バンプ・ストッパー(H.B.S.)」を採用。「キャンバー調整式ロアブラケット」により、これまでできなかったキャンバー角調整も可能となり、セッティングの幅が広がった。シールド構造により高品質とロープライスを両立。もちろん、オーバーホールによりリフレッシュや仕様変更も可能だ。

その効果は、コーナーひとつめから体感できた。簡単にいうとジャークモードは、減衰力を固定したMモードよりも、カーブが曲がりやすくなる。ハンドルを切ってコーナリングに入る度に減衰力が可変して、スムーズにアプローチできるようになったのである。

液晶画面の上部に表示される「J」が「ジャークモード」。「P2」を中心に左右に表示される4つの「48」が前後左右の減衰力設定の数字だ。

制御的にはコーナーのアプローチで、まずフロント外輪ダンパーの減衰力を高めてロールスピードを抑制。同時に対角線にある後輪の減衰力も高めて、リアの荷重抜けを防ぐ。
対してフロント内輪は減衰力を緩めて内輪接地を上げながら旋回姿勢を作り、かつその対角線上にあるリア外輪を緩めて接地荷重を増やしながら、旋回を促す。
こうしたプログラミングによって4輪の減衰力がコーナリング中に最適化されるから、旋回重視の車両姿勢が作れてしまうのだ。

ストレート上にパイロンを設置。
スラロームでの走行もテスト。
スラロームでのプリウスの動き。

ただジャークモードはGの絶対値に対してではなく、変化に対して減衰力を高めるモードだから、サーキットのような限界が高い領域では、やや不安定になる場面もあった。
ターンインの後ステアリングアングルが一定して、Gが長く続くようなカーブで、減衰力が初期設定に戻ってしまうのだろう。特に今回は所々にウェットパッチが見受けらるような路面状況であり、リアがスーッと流れていくような挙動が起きた。

ちなみにこうした状況でより姿勢を安定させたいなら、EDFCで「G」モードを付け加えるといい。画面的には、「GJ」モード。こうすることで過渡領域におけるジャーク制御はそのままに、絶対Gの高さに対しても減衰力が高められるから、高速旋回時の姿勢がビタッと安定してくれる。

「G」モードであることがジャークモードの「J」の隣に「G」の文字で表示される。

スポーティなルックスは伊達じゃない! EDFC5は鬼に金棒!

総じてその走りは、プリウスのイメージを覆すものだった。
現行プリウスは車高を低くくし、大径タイヤを使うなどしてその走りをかなりスポーティな方向へと磨き上げている。かつテイン開発陣も「かなりベースがよいから、EDFC5の制御がハッキリ示せた」と述べていたが、19インチとはいえ前面投影面積重視となる195幅のタイヤを履いて、サーキットをストレスなく走ることができるとは思ってもみなかった。

テインのデモカー(左)とノーマル。(PHOTO:TEIN/平野陽)

もちろんそこにはベースとなる「RX1」車高調キットのキャンバー効果や車高バランスも大きく効いているが、スペック的にはアッパーマウントもゴムブッシュのままであり、そのバネレートも前3kgーmm、後3.5kg-mmと、決して攻めたスペックではない。
つまりはベースとなるダンパーの性能と、これをコントロールするEDFC5の制御が相乗効果を発揮したと言えるだろう。

TEINのRX1とEDFC5が素性の良さを引き立てる。その効果は大きく、プリウスでスポーツ走行が楽しめる。

これならプリウスを日常の足として、ときにワインディングやミニサーキットまで足を伸ばしてみる気にもなるというもの。いやはや、すごい時代になったものだ。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…