レヴォーグ・レイバックの狙いは? “スバルの都会派SUV””土の香りがしない”とはどういうこと? 開発者に訊いてみた

新型スバル・レヴォーグ・レイバックがヴェールを抜いた。ベースになっているレヴォーグの良さを引き継ぎながら、最低地上高を200mmにアップ。都会派SUVを標榜するレイバック。果たして、開発側をなにをどう感んがえてレイバックを作り上げたのか? 株式会社SUBARU商品企画本部小林正明プロジェクトジェネラルマネージャーに訊いた。

レヴォーグ・レイバックのLAYBACKは、「くつろぐ」「ゆったり」「リラックスできる」という意味の「Laid Back(レイドバック)」を語源としている。都市型SUVを目指して開発されたレイバック。その開発責任者(プロジェクトジェネラルマネージャー=PGM)は小林正明さんだ。
小林さんは、2000年4月にスバル(当時は富士重工業)に入社して以来、22年間安全関連の技術開発に携わってきたエンジニアだ。
レヴォーグが持っている「スポーティ」「先進安全」に「自在性」「上質さ」をプラスしたモデルがレイバックだという。

開発スタートは現行レヴォーグのデビューの後

小林正明プロジェクトジェネラルマネージャー(株式会社SUBARU商品企画本部)

──2020年に現行レヴォーグがデビューしています。そのときにレイバックの商品企画はすでにあったのですか?レイバックが後に加わることを前提にレヴォーグを開発していた?
小林PGM:そういうわけではないですね。レイバックの企画はレヴォーグのデビュー後です。アウトドア・イメージとしてはアウトバック、クロストレック、フォレスターがあります。スバルとしては、たくさんお客様いる都会的な層に対して飛び込めていませんでした。今回、レイバックでレヴォーグをベースにしてそこにチャレンジしようと。

──レイバックは、クロストレック、フォレスターとは違うアプローチということですか?
小林PGM:そうですね。
──レイバックを開発するうえでベンチマークは置きましたか?
小林PGM:はい。モデル名を書いていただくのは難しい(笑)。都会的なイメージをどういうふうにお客様が感じているかというと……国産車だとあのモデルやこのモデルがあります……。そこを意識しながら設定していった経緯はありますね。

──世の中の動向を見て、アウトバックとクロストレックの間を埋める……ということですか?
小林PGM:もともと世界的にも日本でもSUVというカテゴリーがどんどん広がっていて、いまや市場の7割近くになっています。我々スバルもアウトバックやフォレスター、クロストレックはアウトドアイメージでブランディングして成功していると思います。一方で広がったSUVのなかにはそういうイメージじゃないクルマもたくさんいるのがわかりました。そこで、それが”都会的”という話をさせていただきました。そこに我々としてはチャレンジしていこうという話になっています。アウトバックやフォレスターで培ってきたブランドを崩すよりも、レヴォーグの良さを生かしてそっち(都会的)にチャレンジしようという話になっています。
──都会的なレヴォーグ?
小林PGM:いまのレヴォーグの良さを生かしてSUVの良さも加えていく形を目指しました。
──意識したなかでスバルらしさをどこに出そうということですか?
小林PGM:都会的とひと言でいっても非常に難しいので。我々の解釈として「SUVなんだけど土の香りがしない」というところを意識しました。それをどこでやるか。デザイン的な上質さもそうですし、静粛性。そしてスバルとしてはSUVだけど運転しても楽しいところも設定しながら開発しました。

乗り心地と操縦安定性をうまく両立できた

──新型レイバック、走りと快適性が両立できていますね。走りは、しなやかでやさしい感じです。コーナーでロールするときも不安になるようなグラッとする揺れ方せず安定している。底づきするような入力もしなやかにいなしてくれる。だから気持ちいい。
小林PGM:ロールも抑えるように、ステアリングが脚周りと連動するしなやかさを気にしてセッティングしました。路面の段差で、入力が入ったときの触れも収束が早く収まるセッティングをしています。
──脚が左右で動いても軸がしっかりしているので、不安になりません。
小林PGM:レイバックのベースとなっているもともとのレヴォーグの車体剛性をかなりしっかり作ったので、それをベースにしているのが大きいですね。
──コーナリング中にクルマがどこかに行ってしまいそうな気がしません。
小林PGM:SUVなので、そういうセッティングってすごく難しさはありました。乗り心地と操縦安定性をうまく両立できたというコメントいただきましたが、そのへんがうまくできたと思います。
──SUV方向なのか、レヴォーグ寄りなのか、どっちに寄せるみたいな検討はあったのですか?
小林PGM:SUVとしての乗り心地の良さはどのメーカーさんもあるので、そこのなかに走りの良さを両立させたい考え方でやりましたね。

スペーサーとタイヤの大径化で200mmの最低地上高を実現した

リヤサスペンションを左後方から撮る。

──車高を高くする手法について伺います。タイヤ外径分+サスペンションメンバーにスペーサーをかませて車高を上げているのですか?
小林PGM:そうです。
──手法としてはクロストレックと同じ?
小林PGM:同じです。走破性を考えるうえで縁石などを乗り越える意味で最低地上高200mmはまず意識してやりました。あとはタイヤの外径で避けなければいけない部分をひっくるめるとかさ上げ分がある。それで、全体的な姿勢を決めている。
──200mmはクロストレックと同じ数値ですか?
小林PGM:そうです。
──スペーサーは何mmですか?
小林PGM:15mmだったと思います。
──ダンパーとばねをレイバック専用にチューニングしたということですが、どういう内容ですか?
小林PGM:ストロークを伸ばして柔らかくしています。ダンパーも特性値を換えています。ハードも変えていますね。
──ダンパーの外径サイズはレヴォーグ同じですか?
小林PGM:構造的に変えています。ダンパーの構造としてそのダンパーの特性にばね特性を加えることで収束の良さを出しています。伸び側にも効いていますね。
──そこには、スバルのノウハウがある?
小林PGM:もちろん机上で検討したうえでセッティングしているんですけど、最終的には専門部署が実際に乗って確認して決めていきました。

ステアリングホイールはレヴォーグを同じだ。

──レヴォーグのときに思いましたが、ステアリングのグリップは結構太い。レヴォーグと同じですか?
小林PGM:同じです。
──太すぎって感じると思う人もいるんじゃないかなと思いましたが……。
小林PGM:はい。しかし、あまり(コンプレインは)上がっていないと理解しています。

デザインは、あえての”あっさり系”

──ベース車になるレヴォーグとレイバックは差別化しています。グリルのサイズが結構サイズが大きいです。SUVらしさの演出ですか?
小林PGM:そうですね。車高を上げてSUVにしたんですが、SUVらしいボリューム感とか塊感を出したくて、ああいうグリルで表現しつつ、前から後ろに流れるような意識もしながら設定しております。
──グリルがヘッドライトに浸食しています。
小林PGM:刺さるイメージで、それが流れるイメージ。さらに細かい話ですけど、ただ上下に伸ばすたけではのっぺりするので、流れる形状を出すために全長は前側に10mm伸ばして形状作っている。前10mm、後ろ5mm伸ばしています。
──ウイングシグネチャーが結構目立ちます。
小林PGM:強調させていますね。レイバックに関してはレヴォーグと違うところはグリルってレヴォーグはバシッと区切っている。今回そうではなくて面全体でデザインしている。そういったところはかなり豊かさを出すうえでのデザインの考えで設定しています。

あえて薄めのクラッディングとしたという。ここを厚くするとアウトドア志向に傾いていく。
デザインコンセプトは「凜」と「包」

──前後のクラッディングは、かなりあっさり系です。WRX S4みたいなやり方もあったと思いますが……。
小林PGM:あそこについては、せ方でずいぶんイメージが変わって。土の香りがしないという話をしたが、あれを特徴的にするとアウトドアのイメージになる。だからあえてあそこは薄く設定したんです。
──あえてのさっぱり系なんですね。
小林PGM:そういったイメージですね。デザインの部門もあのあたりのバランスが非常に難しいと言っていました。相当苦労して作り上げてくれました。そのなかでデザインコンセプト考えながら”凛と包”と言っています。かなり頑張って性能面でもデザイン面でもそれなりにまとまったと思っています。


最低地上高アップは静粛性にも効いた

タイヤはオールシーズンタイヤ(FALKEN ZIEX ZE001A A/S)を履く。

──レイバックは静粛性に優れているように感じました。レヴォーグに対して遮音材、吸音材は増やしているのですか?
小林PGM:増やしていないです。ポイントはふたつあります。もともとレヴォーグで車体剛性をしっかりして静粛性上げてあります。そこにオールシーズンタイヤを設定したことで、非常に静かで、かつ横Gにも効く。もうひとつ車高を上げたことで音がこもらずに後ろに抜けてくれるということもあります。
──フロアと路面の間が開いているからですか?
小林PGM:そうです。それからホイールハウスです。ああいうところで抜けてくれることもあるので。よりいっそうバランス的には非常に静粛性は良くなりました。

タイヤハウスもスバルのノウハウが込められている
処理が綺麗なだけでなく、空気の流れも計算されている。


──クロストレックもフォレスターもアウトバックもオールシーズンタイヤですか?
小林PGM:クロストレックはオールシーズンタイヤです。同時開発して先行してクロストレックで使って、それをレイバックでも採用しました。
──ファルケン・ジークスですね。
小林PGM:そうです。
──オールシーズンタイヤの選定に苦労したという話を聞いましたが……。
小林PGM:苦労したというか、本当オールシーズンタイヤでいいのかという話あったが。非常にいい性能のオールシーズンタイヤできたので、最終的にはそう決めました。
──確かに切り込んだ際に腰砕けになるようなこともないしい、いいタイヤですよね。

レイバックは国内専用モデル

全長×全幅×全高:4770×1820×1570mm ホイールベース:2670mm 全長はレヴォーグより15mm、全幅は25mm拡大。全高は70mmアップだ。

──レイバックの仕向けは?国内専用モデルですか?
小林PGM:レイバックは国内専用で設定しています。まず国内でチャレンジできていないカテゴリー、マーケットにチャレンジしようというのが始まりだったので。まず国内にレヴォーグを生かして早く出そうというのがきっかけです。後々のことは申し上げられませんが、今後お客様の声を聞きながら検討していくことになると思います。
──もともとスポーツワゴンがあって、その車高を上げたモデルなので、アウディオールロードクワトロのイメージなのかなと思ったんですけど、違いますか?
小林PGM:結果的にはそこを意識する話もあると思うんですけど。そのなかでは、だいぶいい方向に仕上がったんじゃないかと思っています。

「まずは、乗ってみていただきたいです」

オーディオはハーマンカードン製を採用した。

──ハーマンカードンのオーディオはああいうキャラクターのクルマを買おうと思うお客さんは、オーディオにこだわりあるという調査結果を踏まえて採用したのですか?
小林PGM:スバルのお客様の声のなかにハーマンカードン入れたいという声はそれなりにいらっしゃったんです。今回はレイバックをきっかけに設定しました。
──レヴォーグにもハーマンカードンのオーディオの設定あるんですか?
小林PGM:ありません。今回は静粛性が上げられたなかでハーマンオーディオの臨場感、良さをより感じていただける環境が整っています。望むお客様に対してマッチするんじゃないかと思います。
──都会的なところを狙うとなると今までスバルのお客さんじゃないところを狙うことになりますね。
小林PGM:そこがチャレンジなところです。こういうこと起きたら悲しいんですけど。レイバックが売れました、レヴォーグの販売台数が下がりましたとなると悲しい。今回は新しいマーケットの方々にも見ていただきたいなと思っています。もちろんスバルを好きな方に見ていただきたいんですが、新しいお客さまにも見ていただいて、そのなかでレイバックを選んでいただけると非常にうれしい。
──都会的なSUVを検討する人のショッピングリストに載りたいってことですね?
小林PGM:そうですね。そういったところを狙っています。だからこそ商品的にもアイサイトXとか大型ディスプレイ、ハーマンカードンオーディオを標準装備にしました。もっと高い値が付けられるんじゃないかというところをあえて抑えた価格設定にして、たくさんのお客様のショッピングリストに載せてもらいたいと思っています。
──レヴォーグから明確に値段を上げる方向もあったんですか?
小林PGM:まずはレイバックを知っていただきたい。たくさんのお客様に選んでいただくことを重視しました。

──車両価格税込300万円台で収まるなら競争力ありそうです。
小林PGM:そういったところはよく選んでいただきたい。静粛性とかステアリングから足まわりに流れるようなつながりは、乗っていただかないとなかなかわからない。ですから、スバルとしてもどういうふうにお客様に発信していくか。まずはレヴォーグの良さを引き継いでいると少しでも認知していただきたいと思っています。まずは、乗ってみていただきたいです。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…