プロ仕様の最新工具が揃うDIY派必見の『TOOL JAPAN』に黒船来襲!? SK HAND TOOLS日本上陸!【DIY派はこれを揃えてお工具!特別編】

工具メーカーや整備関係者にとっては毎年秋の風物詩となった感があるプロツール・DIY向け製品の商談展『TOOL JAPAN』。そんな同イベントの会場でアメリカ工具界の古豪・SK HAND TOOLSが革新的なX-FRAME ラチェッティングレンチを提げて日本市場に参入することが明らかとなった。同社は中国企業の傘下に入ってもなお品質を重視して“MADE IN U.S.A”にこだわり続ける。販売開始は2024年を予定しているようだ。

日本最大級のプロツール・DIY向け製品の商談展『TOOL JAPAN』が開催!

2023年10月9日(水)~11日(金)にかけて幕張メッセ(千葉県)ホール5・6を会場に、日本最大級のプロツール・DIY向け製品の商談展『TOOL JAPAN』が開催された。このイベントはメーカーと小売・卸業者を結ぶBtoBとしての性格が強いイベントということで平日のみの開催となったが、ビジネス関係以外にも工事業者、工場関係者、工務店、自動車整備士などのプロユーザーも多数来場して賑わっていた。

なお、会場を同じくして同時開催される『農業WEEK』『GARDEX(国際ガーデン&アウトドアEXPO)』にも、同じ招待状で入場可能だ。入場料は5000円とされているが、事前にネット登録により招待状を入手すると無料で入場できる。

今回のTOOL JAPANで特に筆者が注目したブランド『SK HAND TOOLS』。

基本的にはプロを対象としたイベントではあるが、けっしてアマチュアの来場を拒むものではなく、工具沼にどっぷりハマっているディープなファンや、工具や機材を揃える本格的なDIY派なら楽しめる内容になっていた。今回は『DIY派はこれを揃えてお工具!』の特別編として、会場で見つけたアイテムの中から日本での正規販売が決定したアメリカの名門『SK HAND TOOLS』の製品を紹介したいと思う。

中国発世界的工具複合企業「抗州グレートスター」の日本現地法人が出展

『SK HAND TOOLS』の工具が展示されていたのは、グレートスタージャパン株式会社のブースである。多くの読者はこの社名に聞き馴染みがないかもしれないが、最近リーズナブルな価格で人気を集めている家庭用ツールブランドの『WORKPRO (ワークプロ)』やDIYユースやプロのサブツールとして需要を高めている『DuraTech(デュラテック)』を擁する工具の世界的複合企業「抗州グレートスター」の日本法人となる。

抗州グレートスターの一般家庭用の廉価な工具ブランド『WORKPRO』。価格を抑えながらもセット内容が豊富で、簡単な整備や趣味のDIY程度なら問題なく使用できる。AmazonなどのECサイトやホームセンターなどで購入が可能。

中国の工具メーカーと言うと品質面に不安を感じる人がいるかもしれないが、WORKPROやDuraTechは価格を抑えている割に結構がんばっており、高級工具とは比較はできないものの製品の品質はまずまずしっかりしている。直接の競合相手となるのはApex Tool Group(アペックスツールグループ)の『Sata (サタ)』あたりだろうが、他の中国メーカーと違って可変メガネレンチなどの独自アイデアの商品開発にも注力しているところに好感が持てる。

『WORKPRO』で物足りなくなった人にオススメなのが『DuraTech』。比較的リーズナブルな価格設定で、痒いところにも手が届く豊富な製品ラインナップが魅力。サンメカやプロのサブツールとしても人気が高い。

設立は1993年と比較的若い工具メーカーだが、日本に現地法人を設立するだけでなく、『TOOL JAPAN』では大きな展示ブースで参加する攻めの姿勢を見せており、日本市場に対する意気込みが強く感じられた。

世界的な工具複合企業の抗州グレートスターは木製クランプで有名な『Pony Jorgensen』なども傘下に収める。
ナイフやマルチツール、LEDライトなどの『Swiss+Tech』も抗州グレートスター傘下である。

中国企業傘下に入ったアメリカンブランド『SK HAND TOOLS』

だが、ここで紹介するのは中国製の『WORKPRO』や『DuraTech』ではない。2021年に抗州グレートスターの傘下に入ったアメリカの名門工具ブランド『SK HAND TOOLS』の製品である。

SK HAND TOOLSの誇る革新的なX-FRAME ラチェッティングレンチ。ソケットリングは高トルクに対応した6角となるが、送り角は驚異の1.7度を実現しており、狭い場所でも微調整が効くため、意外にもボルトやナットへのアクセスも容易だ。

同社は世界初となる円形ラチェットハンドルを発明したパイオニアであり、以前にも紹介した通り近代的なスイベルラチェットの「ロトラチェット」を開発したことでも知られるメーカーである。

丸型ラチェットハンドルを世界に先駆けてリリースした『SK HAND TOOLS』。アメリカの名門工具メーカーで100年以上の歴史を誇る。正規代理店が長らく存在しなかったことから日本での知名度は低いが、アメリカでは人気・実力ともに認められたプロ用ハンドツールとして押しも押されぬ存在である。

その歴史は1900年代初頭に遡る。その前身となった『Sherman-Klove Company (シャーマン・クローブ・カンパニー)』は、メイソン・H・シャーマンとノア・グローバー・クローブによってイリノイ州シカゴに設立された。創業当初は他社ブランド向けに製品を製造する下請け企業(第一次世界大戦では砲弾などの軍需品の製造も行っていた)であったが、大恐慌時代に納入先が倒産したことを機に、社名を創業者ふたりの頭文字をとって『SK TOOLS』にあらため、自社ブランドでのビジネスに切り替えた。

カテゴリー的には『Snap-on (スナップオン)』や『Mac Tools (マックツールズ)』、『MATOCO (マトコ)』などの高級工具ブランドに比べると価格は幾分安めに設定されているが、その性能と品質、耐久性はそれらの高級工具と比較しても勝るとも劣らないレベルにあり、そのことからアメリカ市場での人気は極めて高い。

この工具のファンにはコメディアンにしてカーコレクターとしても有名なジェイ・レノもいる。1500を超える製品ラインナップの中でも同社のエンジニアにして発明家のセオドア・ループが1933年に発明した丸型ヘッドのラチェットハンドルは、90年以上が経過した現在でも高く評価されており、信者とでも言うべき熱烈なファンも存在するほど。

丸型ラチェットハンドルから発展した近代的なスイベルラチェットハンドル開発したのも 『SK HAND TOOLS』だ。同社のパテントが切れてから他社が類似製品を販売した。

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しかしながら、良い製品を作り続けるプロダクツであることと経営の健全性はまったく別のことであったようで、創業以来幾度かの経営危機を迎え、その度に企業買収劇を繰り返した末に2010年6月に破産。『IDEAL INDUSTRIES (アイデアルインダストリー)』による支援を受けて再建され、2021年7月に抗州グレートスター傘下に納まった。なお、現在の社名である『SK HAND TOOLS』に改められたのは2005年のことである。

アメリカでの人気やその実力の割に日本での知名度が低いのは、長らく日本では正規輸入代理店が存在せず、ショップ単位で細々と並行輸入されたものを購入する以外、個人輸入でしか手に入れる手段がなかったことが大きい。しかし、この度グレートスタージャパンの手によって正規輸入販売されることが決定した。

アメリカ本国では同社の製品は生涯補償となることから、おそらくは日本でも同様の保証基準が適用されることになると思われ、正しい使用方法を守っているにもかかわらず、破損・屈曲・メッキ剥がれなどで使用できなくなった場合には、新品と交換されることになるだろう。これは日常的に工具を使うプロのメカニックじはもちろん、サンデーメカニックにとっても大きなメリットになるはずだ。

品質を重視して“MADE IN U.S.A”にこだわり続ける

『TOOL JAPAN』の会場に展示されたSK HAND TOOLSの製品は、近年最大のヒット作であり、独自設計のメカニズムを組み込んだ『X-FRAME ラチェッティングレンチ』を筆頭に、伝統の丸型ラチェットハンドル、各種ソケット、モンキーレンチ、コンビネーションレンチ、ドライバー、ウォーターポンププライヤーやニッパーなどの握りもの、そして組み替え可能なモジュラーシステムを採用したツールチェストだ。どれも本国の人気商品であり、同社らしい質実剛健な製品でありながら、仕上げは丁寧で見るからに上質工具とわかるものばかりだ。

高品質なプライヤー類も『SK HAND TOOLS』はリリースしている。近年人気の力が入れやすいコンフォートグリップのほか、スタンダードなプラスチックコーティンググリップもラインナップする。なお、今回のショーではコンフォートグリップの製品が展示されていた。

レンチ類はアメリカ工具らしい美しいミラーフィニッシュ仕上げが施されており、メッキは耐久性を重視して厚く、その色味はSnap-onに比べると若干白っぽいのが特徴となる。
そして、展示されていた工具には誇らしくMADE IN U.S.Aの文字が踊る(同社の製品は一部を除いてほとんどがアメリカ製となる)。工具ファンなら製品を手に取っただけでその良さがわかるはずだ。実物は写真以上にカッコ良く、いかにも「実用性を重視しながらも機能美に溢れたアメリカ工具」と言った成り立ちをしている。

精度の高さと仕上げの美しさ、耐久性の高さでアメリカ本国では指名買いも多い『SK HAND TOOLS』のソケット。クルマやバイクの整備でよく使われる差込角1/4・3/8・1/2インチのほか、産業用や建築用で使用される3/4・1インチなどもアメリカ本国ではラインナップされる。

中国企業の傘下に入ってもなおSK HAND TOOLSはアメリカ製造にこだわる姿勢に変わりはなく、親会社の抗州グレートスターも同社の企業価値が品質にあることは重々承知しているようで、コストダウンのために徒に生産拠点を国外に移すようなことは考えていないらしい。

このあたりはアメリカの工具複合企業が目先の利益を追求するために、アメリカ本国での製造を取りやめたり、伝統のブランドを合理化の名の元に切り捨てたりするのとは対照的だ。Apex Tool GroupがARMSTRONG toolsを廃止した判断は今でも誤りであったと筆者は考えている。
今なお品質を重視してアメリカ国内での製造にこだわり続けるSK HAND TOOLSも立派だが、彼らのクラフトマンシップを尊重し、それを認める抗州グレートスターの姿勢も見上げたものである。

2024年から日本での本格展開開始⁉︎ これはラチェッティングレンチの革命だ‼︎

SK HAND TOOLSのフラッグシップ工具とも言える位置づけにあり、同社の技術力の結晶であるX-FRAME ラチェッティングレンチはなんとも見どころの多い製品だ。一見するとちょっと変わったカタチをしたレンチにしか見えないかもしれないが、その特徴は内部のラチェット機構にある。

一般的なコンビネーションレンチは、ソケットリング内部に歯が刻まれた円盤型のギア(歯車)が内蔵されており、リングの下部に一方向のみに動くプラスチック製のクロー(ツメ)が出ている構造をしている。送り角は歯の数で決まり、現在主流となっているのは72枚で、送り角5度となる。

X-FRAME ラチェッティングレンチの内部構造。216枚のギアと常時ふたつが噛み合う6つのクローによって、送り角は他者の追随を許さない1.7度を実現。耐久性に優れ、大きなトルクをかけてもギア飛びを起こさない構造もこの製品ならではのメリット。

それに対してX-FRAMEはリングの外周に72枚のギアが刻まれていることに変わりはないが、ソケットリングには6つのクローが備わり、対角線上にある2つのクローがペアとなって常時外周のギアと噛み合うことで、216のポジションで噛み合うことになり、送り角は驚異の1.7度(!)を実現している。

すなわち、現在販売されているどのラチェットレンチよりも小さな振り幅でボルトやナットを回すことが可能で、おまけに噛み合うクローは倍になることから耐久性に優れ、大きなトルクをかけてもギア飛びを起こさない構造になっているのだ。これは狭い場所での作業で役立つことは間違いなく、作りはかなり丈夫な作りなので、通常のコンビネーションレンチよりも高トルクをかけることができると言うスグレモノだ。

X-FRAME ラチェッティングレンチ

また、オープンエンド部分は独自設計のSureGrip (シュアグリップ)構造が採用されており、Snap-onのFLANK DRIVE(フランクドライブ)と同様に凹凸と溝が刻まれ、面接触構造を採用していることから接触面積が大きく、高トルクをかけてもオープンエンドが開きにくく、ボルトやナットを舐めにくい設計となっている。特徴的なI-Beamハンドルは入力された力を均等に分散することで優れた強度と耐久性を実現。軽量化のためにハンドルに開けられたホールもX-FRAME ラチェッティングレンチらしい個性を主張している。

実際に展示されていた製品を手に取ってみたが、ラチェットの動作は驚異的でほんのわずかな振り幅でリング部分がカチカチと動くのに感心させられた。見た目のゴツさに比べて作動音はチリチリと音は小さく、音色も上品なので作業中も不快さは感じないだろう。重量感はそこそこあるもののバランスが良いので、おそらくは長時間の作業でも疲労を感じることはないはずだ。

実際にX-FRAME ラチェッティングレンチを手にしてみると、この製品の革新性がひしひしと伝わってきた。これほどまでに斬新かつ、既成概念を打ち破るラチェットコンビネーションレンチは今まで出会ったことがない。発売されれば日本でもプロのメカニックを中心に爆発的なヒットを飛ばすことは間違いない。惜しむらくはフレックス(首振り)タイプの設定がないことだが、これは耐久性を重視する同社ならではのこだわりなのかもしれない。だが、使い勝手を考えれば、やはり製品のバリエーションは増やしてほしいところだ。

組み替え自在なモジュラー構造のツールチェスト。耐荷重を聞くのを忘れたが頑丈な作りとなっており、かなりの工具を収容しても変形したり、引き出しが閉まらなくなるようなことはないだろう。バラバラにすれば車に積むのも容易なので、整備用のガレージを持たず、工具箱を自宅から引っ張り出して青空整備をするサンデーメカニックや出張整備が多いプロの整備士におすすめの製品だ。

グレートスタージャパンのスタッフによると、日本でのSK HAND TOOLS製品のリリース時期やラインナップは未定とのことだが、来年中には販売を開始したいと語っていた。販売方法はAmazonなどのECサイトと工具専門店を通じたものになるようだ。
同社の製品、とりわけX-FRAME ラチェッティングレンチは今から発売が待ち遠しい。同社の協力が得られればいずれはデモ製品を借りてのインプレッションも考えているので、興味のある人は続報を気長に待ってもらいたい。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…