夢の3ℓカーを実現したアクアの凄み

トヨタ・アクア | 圧巻の燃費、静かで広い。ヤリスでなくアクアを選ぶ理由

3リッターカーとは、3ℓの燃料で100km走れるクルマのことだ。欧州の自動車メーカーが3リッターカーを目指して開発を進めてきた。VWルポしかり、XL1しかりだ。さまざまな新素材、新技術を惜しみなくつぎ込んだ特別なクルマでないと実現できない3リッターカー(33.3km/ℓ)をいとも軽々と実現したクルマ、それが新型アクアだ。しかも、なんの我慢もなく。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

キビキビした動きが好みならヤリス、しなやかさならアクア

全長×全幅×全高:4050mm×1695mm×1485mm ホイールベース:2600mm 車重 1130kg

Bセグメントのクルマに特有の、あのピョンピョン跳ねるような落ち着きのない乗心地は一体どこに行ったんだろう。というのが、新型アクアに乗っての率直な感想だ。ものすごくしなやかで、乗心地がいい。ひとクラス上のCセグメントと比べてもいい勝負をする。つまり、クラスを超えた乗心地の持ち主ということだ。路面の凹凸をタイヤとサスペンションと、それを支えるボディで上手にいなし、角の立ったショックを乗員に伝えない。この乗心地だけでも、アクアを選択する価値は大いにある。

アクアのサスペンションはヤリスをベースとしているが、ばね定数と減衰力は最適化され、フロントのダンパーには「わずかな路面の凹凸やボディの動きに対しても適切な減衰力を発生する」(トヨタの資料より)スウィングバルブを採用している。これらの最適化策はかなり利いており、乗心地は良く、上質だ。

室内:長さ1830mm 幅1425mm 高さ1190mm
インテリアの造りはヤリスとはだいぶ違う。
後席はヤリスよりずっと広い。
身長184cmのドライバーが前席に座り、後席に同じく184cmの男性が座ると膝周りの余裕はこのくらい。ヤリスよりだいぶ余裕がある。
荷室は、最大幅1153mm、奥行き656mm 高さ824mm

後席のスペースが充分確保されているのもいい。ヤリスでは、身長184cmの筆者が運転席に座った状態で後席に移動すると、膝が前席にシートバックにめり込んだ。お世辞にも、快適とはいえない状態だったのを覚えている。同じようにして新型アクアの後席に乗ってみたら、膝前には充分なスペースが残った。これなら、大人4名で快適に長距離移動ができると感じた。スポーティなルックスと、キビキビした動きが好みならヤリス、しなやかさのアクアといったところだろうか。

ヤリスよりも後から発売されたぶん、アクアには価値が上乗せされているのだろうか。インストルメントパネル中央には、トヨタのコンパクトカーで初採用となる10.5インチのディスプレイオーディオが設定されている(Zグレード)。ヤリスの場合は8インチだ。8インチでも不足はないが、10.5インチのほうが当然、見やすい。試乗車のGは7インチだが、実用性に不足はない。

シフトレバーはこの位置に。
パワースイッチは、ステアリングコラム左側にある。

ヤリスは長いシフトセレクターが床から生えるコンベンショナルな形態だが、アクアは小ぶりなシフトセレクターがインパネにレイアウトされている。先進的に見えるし、使い勝手もいい。おかげでセンターコンソールがすっきりとして感じられるし、スマートフォンを置くトレイへのアクセスがしやすい。

そのスマホトレイだが、トレイを奥にスライドさせると、下部のボックス内にUSBのポートが1口現れる。ここに充電ケーブルを差すとトレイの上にスマホを置くことができないじゃないかと早合点したが、トレイの開け閉めをするツマミの中央部に切り欠きがあり、ちょうどここがスマホに差したケーブルの逃げになってうまく収まる仕組み。よく考えられているなぁ、と感心した次第。

ヤリスのパーキングブレーキはレバーを引き上げるタイプだが、アクアは足踏み式だ。どちらにしても電動パーキングブレーキではなく、ゆえに信号待ちなどで足をブレーキペダルから離しておけるオートホールド機能はついていない。この機能に慣れてしまった身には、信号待ちが続く市街地の走行はストレスに感じるかもしれない。

エンジン 形式:直列3気筒自然吸気 型式:M15A-FXE 排気量:1490cc ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm 最高出力:91ps(67kW)/5500pm 最大トルク:120Nm/3800~4800rpm 燃料供給:PFI 燃料:無鉛レギュラー 燃料タンク:36ℓ

アクアは最高出力91ps(67kW)、最大トルク120Nmを発生する1.5ℓ直列3気筒自然吸気エンジンに、最高出力80ps(59kW)、最大トルク141Nmを発生するモーターを組み合わせる。このエンジンとモーターの諸元はヤリス・ハイブリッドと共通だ。異なるのはバッテリーである。アクアはBグレードを除く全車に、より大きな電流を瞬時に出せる世界初のバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを採用した。

電池出力性能は従来型比+110%で、これにより加速時のモーター走行(いわゆるEV走行)の割合を増やすことができたという。また、電池入力性能は従来型比+95%で、これにより減速エネルギーを取りこぼさずに回収し、実使用域における燃費向上に寄与するとトヨタは説明している。モーター走行割合が増えているのは、はっきり感じる。それに、力強い。周囲の交通の流れに合わせるような、比較的緩めの加速に終始している状況では、発進から40〜50km/h程度までモーターの動力のみで走行する。それ以上の速度域ではエンジンが始動するが、走行音にマスクされるので、エンジンが始動したことはドライバーを含む乗員に意識させない。

ボディカラーはエモーショナルレッドⅡ(オプション価格5万5000円) 最低地上高:140mm[155mm] トレッド:F1480mm/R1475mm

ヤリス・ハイブリッドのときは「決して静かではない」という感想を持ったが、アクアは「とても静か」だと感じた。トヨタの発表データによると、市街地の日常走行ではEV走行の割合が従来アクア比で2倍に拡大したという。エンジンが始動する頻度が減ったので静かだというのもあるが、新型アクアは総じて静かだ。フロアやダッシュボードへの遮音材の追加やフロントウインドシールドへのアコースティックガラスの採用などで遮音を強化したことが利いているのだろう。上質な乗心地と同様、静粛性の面でもひとクラス上のクオリティを感じる。

ドライブモードでPOWER+モードを選択すると、アクセルペダルの操作だけで加減速がコントロールできる、いわゆるワンペダルでの操作が可能になる。ハイブリッド車では、先代の日産ノートe-POWERで採用して好評を博した機能で、最新のノートやノート オーラにも受け継がれている。新型ノート/ノート オーラではワンペダル操作での完全停止はしなくなったが、「快感ペダル」と呼ぶアクアのワンペダルも完全停止はせず、最後はクリープ(微速前進)に移行する。

POWER+モード選択時は加速側が一段とパワフルになるのと合わせ、スポーティかつリズミカルな運転が可能になる。欲を言えば、NORMALモード選択時も快感ペダルが選択できるといい。ちなみに、高速道路と一般道を織り交ぜて215.6km走った時点での燃費は33.5km/ℓで、圧巻のひと言である。230km走った段階で、燃料計の目盛りはようやくひとつ減った(タンク容量は36ℓ)。

最小回転半径 は4.9m(4WDは5.2m)
トヨタ・アクアG
 全長×全幅×全高:4050mm×1695mm×1485[1505]mm
 ホイールベース:2600mm
 車重 1130kg
 Fサスペンション:マクファーソンストラット式
 Rサスペンション:トーションビーム式
 駆動方式:FF
 エンジン
 形式:直列3気筒自然吸気
 型式:M15A-FXE
 排気量:1490cc
 ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
 最高出力:91ps(67kW)/5500pm
 最大トルク:120Nm/3800~4800rpm
 燃料供給:PFI
 燃料:無鉛レギュラー
 燃料タンク:36ℓ
 [Fモーター]
 型式:1NM
 種類:交流同期電動機
 最高出力:80ps(59kW)
 最大トルク:141Nm
 [Rモーター]
 型式:1NM
 種類:交流誘導電動機
 最高出力 Z、G、X:6.4ps(4.7kW)/B:5.3ps(3.9kW)
 最大トルク:52Nm
 [動力用主電池]
 種類 Z、G、X:ニッケル水素電池/B:リチウムイオン電池
 容量 ニッケル水素電池:5.0Ah/リチウムイオン電池:4.3Ah
 [燃費] 
 WLTCモード:33.6[30.0]km/ℓ
   市街地モード 33.8[30.6]km/ℓ
   郊外モード 36.0[31.7]km/ℓ
   高速道路モード 32.0[28.7]km/ℓ

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…