ジャパンモビリティショー2023が開幕し、様々なコンセプトカーが披露されるなか、一抹の寂しさも感じられた。それは各社ともコンセプトEVは華やかだが、「そんな過去の動力は知りません」とでも言うかのように、もはや内燃機関のクルマがサッパリ見られなくなったこと。
たしかに世界は電動化に移行しつつあり、欧州での電動化のタイムリミットも迫っているのだろうけれど、インフラ整備どころかそれ以前、バッテリーや充電器の規格さえ、いまだ「ああでもない、こうでもない」とやっている状況では、「本当に内燃機関の新車を作らなくていいの?」とユーザー側が不安になってしまう。
名指しは失礼かも知れないが、特に心配になってしまうのがホンダだ。無理難題とも言うべき排気ガス規制を正々堂々と克服した伝説的CVCCエンジン、高回転用と低回転用の2種類のカムを使い分け、痛快なスポーツ性能と日常の扱いやすさや経済性を高次元に両立させた独創的な可変バルブタイミング・リフト機構VTECなどの技術トピックもさることながら、1980年代後半のF1世界選手権における連戦連勝など、ホンダは内燃機関というイメージがことさら強い。
たしかに一応は内燃機関を示唆するハイブリッドのプレリュード・コンセプトの展示はあったとは言え、ビジネスジェット機の胴体や電動垂直離着陸エア・モビリティの模型よりも、ガチな新型車を見せて欲しかったというのが、大方のファンの正直なところではなかっただろうか。
こう書くのには理由がある。ホンダは昨年末から今年にかけて、海外ではすでに3台の新型車を発表しているからだ。このうち1台はアメリカのGMと共同開発したSUVタイプのEV『プロローグ』だから除外するとして、昨年11月にインドネシアで2代目となる『WR-V』が、今年の7月には『エレベイト』なる名称の小型SUVが発売されている。いずれも『ヴェゼル』より小さい1.5ℓの純ガソリンエンジン車(あえてこう書きたい)だ。
大雑把に言えばいずれも4代目『フィット』の親戚筋にあたるSUVスタイルの車両で、WR-Vが3ドア、エレベイトが5ドアになる。エンジンはいずれもL15ZF型で、『ヴェゼル』に搭載されているL15Z型の系譜だ。
WR-Vは初代から「新興国向け」という位置づけの車種だが、その名に“RS”を冠する6速MTの“走り”のモデル(マレーシアでの価格は日本円換算で約330万円)も存在するなど、なかなかどうして魅力的な内容だ。
他方、エレベイトは「グローバルモデル」とされている。つまり世界戦略車というわけだ。そしてどうやらこのエレベイト、日本でも発売されるらしいという噂が立っているのだが、残念ながら(?)モビリティショーでその姿は見られなかった。果たしてこれが噂は噂に過ぎないのか、それとも本当にホンダの隠し玉なのかは現状では不明だが、こういった「ちょっと現実的」な展示車もユーザーが見たかったものではなかったのではないか。
ちなみにこのエレベイトは、全長4312mm×全幅1790mm×全高1650mm、ホイールベース2650mmとヴェゼルよりわずかに小さく、エンジンは先述のようにL15FZ型1.5L 直4 DOHC i-VTECで最高出力89kW(121ps)、最大トルク145Nm(14,79kgm)。トランスミッションはCVTのほか6速MTが存在する。また、エンジンはE20バイオエタノール燃料にも対応しているというが、こういった方向から内燃機関のカーボンニュートラルを訴求できたのではないだろうか。
何はともあれ、ホンダが近いうちにファンやユーザーが「見たかったもの」を見せてくれるものと信じたい。