目次
プラズマクラスターとはそもそも何ぞや
自然界にあるのと同じ水分子で囲まれたプラスとマイナスイオンを放出し、カビ菌や浮遊菌の表面に付着して変質させ、水になって空気中に戻るというのがその基本原理。作用としては、酸化力による除菌・消臭効果のほか、プラスとマイナスのイオンで静電気を除去し、そして水分子が肌にコートを形成して肌保湿効果も望めるというものだ。
何よりここで注目しておきたいのが、放出しているイオンは自然界におけるものと変わらないという点。だからこそ、安全性は確認済であり、人のいる空間でも高濃度で照射することもできる。
ただ、効能として得られるものはこれだけに留まらないというところから、前述の検証はスタートしている。それこそ対応製品を実際に使うユーザーからも、「なんか調子イイ」「よく分からないけど他にも効果があるのでは?」という声も聞こえてくる。その効果が人にどのような効能をもたらすかの全容は、まだ詳らかになっていなかったといえる。
脳活性が起きるという状態変化が明確に
そんななか、人の行動に変化をもたらすその要因にまで踏み込んだ結果が今年の5月に発表された。それが、「プラズマクラスター技術で脳活性が起きる可能性」というものだ。
九州産業大学との共同で行われたこの研究では、脳波を測定し、パフォーマンスを同時に検証することで、具体的な作用に言及している。
検証の結果分かってきたのが、脳血流への作用だ。脳が活性されると毛細血管が拡張し、酸素化ヘモグロビンが多く含まれた血流が増加する。同時に脱酸素化ヘモグロビンがが減ると、脳活動が活性化されると判断できる。
同条件下において、送風のみの場合と、プラズマクラスターイオンを照射して比較検証をした結果、明確に差異が生じたことが確認され、脳活性が起きていると学術的にも認められたというわけだ。
脳活性が起こると、人の思考力・行動力が上がり、様々な作業能力が向上する可能性が考えられるという。プラスマクラスターイオンを発生させると「なんか調子いい」要因のひとつとして、脳に対する作用が明らかになったということだ。
運転能力向上につながる行動変化の実証
シャープでは、プラズマクラスター技術が人の活動に与える効果効能の検証に際し、3段階のステップを定めている。一つ目は人への影響で、2つめが状態の変化。これは脳血流増による脳の活性化によるストレス低減と集中力の維持という形で明らかにできた。
そして、いよいよ3つめである。9月末に発表された本題、運転能力向上効果に対する効果への発表は、3段階目の「行動変化」にあたる。行動変化は「よいパフォーマンス」とも置き換えられる。検証の対象とした運転能力は、主にブレーキを素早く踏む反応力と、滑らかなハンドル操作という2つの操作にクローズアップした。
芝浦工業大学との共同で行われたこの研究では、手動運転下ではブレーキを踏むまでの反応時間やハンドル操作の滑らかさを、レベル2同等の自動運転下では眠気の抑制と障害物を避ける際のハンドル操作の滑らかさを観点に評価を下している。
結果、手動運転下でプラズマクラスターを照射した場合、ブレーキの反応時間を約0.5秒短縮できるというデータが導き出された。50キロでの走行中に置き換えれば、停止距離も約7m縮まる計算だ。同時に、ハンドル操作を比較検証した場合でも、プラズマクラスター照射時は車両の軌道が小さく、滑らかになることが確認されている。
他方、自動運転時を想定したテストでも、5段階で測定される眠気の度合が1段階ほど改善され、急に手動運転に切り替わった後の障害物を避けるハンドル操作でも、回す角度が小さくなり、操作性が向上したとの結論を導いている。
実験結果がもたらす先々への期待
まとめれば、手動運転ではブレーキの反応時間が0.5秒短縮され、ハンドル操作も滑らかに。自動運転でも、眠気が抑制されつつ、テイクオーバー後のハンドル操作が滑らかになったことが確認されたということだ。この検証の意義として、集中力維持の行動変化のなかでも運転能力の向上効果は、社会課題でもある漫然運転抑止対策の一つになるとシャープでは考えている。
興味は増す一方だが、これらはいまだ特定実証分野の一結果に過ぎない。試験で使われたプラズマクラスターの発生装置も製品版とは異なるものであり、濃度も違う。既に多くの実用製品が身のまわりにあるとはいえ、同様の効果を期待できるわけではないことは承知しておきたい。
ただ、様々な分野へのプラズマクラスター転用を目論むシャープにとって、自動車用途は大きなウエイトを占めていることも事実のようだ。今後の動向も注意深く見守りたい。