目次
正月気分を一気に吹き飛ばした2024年能登半島地震
能登半島地震で被災されたすべての方々に謹んでお見舞いを申し上げます。そして、1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
報道などですでにみなさんご存知のことと思うが、2024年1月1日16時10分頃、石川県能登半島で深さ16kmを震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、志賀町で震度7の非常に激しい揺れを観測した。気象庁は地震発生直後に推定5mの大津波警報を発令し、同県の輪島港で1.2m以上の津波を観測したと発表した。幸いにして2011年の東日本大震災のような津波による甚大な被害は発生しておらず、大津波警報は同日20時半までに解除されている。しかし、同日16~21時の間に震度1以上を観測した地震が59回発生しており、この記事を書いている1月1日深夜の時点では、被害の全貌も未だ把握できておらず、今後の余震を含めてまだまだ予断を許さない状況が続いている。
2016年の熊本地震を現地取材した筆者が今回の震災で伝えたいこと
筆者は2016年4月14日に発生した熊本地震の発生直後、単身バイクで跨って現地取材を行った経験がある。そのときに足で稼いだ被災地の取材情報から今回の能登地震で役に立ちそうな情報を書き記しておきたい。
まず、被災地以外の方へ。マスコミ報道などで被災地の様子を目にし、心を痛めて「被災された人たちのために何かしたい」と考えてボランティア活動への参加を考えている人も多いと思う。だが、ちょっと待ってほしい。現地の状況がわからないまま動くのは、さらなる混乱を招く恐れがある。
現在は政府や自治体が中心となって、警察・消防・自衛隊などが被災者の救助・支援に当たっている段階だ。これら組織のOB&OGなどで専門の救助訓練を受けている人や医師・看護婦などの医療従事者はともかく、まだまだ一般のボランティアが活躍できる段階ではない。現地で復旧や後片付けのためのボランティアが必要になるのはもう少し後のことになるだろう。そのときは自治体などから告知があるはずなので、どうかここはしばらく待ってほしい。
ボランティアが募集されたときでも、被災地に入る際は充分な準備と装備を整え、被災地で物資を現地調達しないように気をつけたい。交通が寸断され、物流が滞っている状況では、外部から来た人間が現地で物品を調達することで、被災地に余計な負担をかけることに繋がる。すなわち、本来なら被災者が手にする物資を外部の人間が横取りするカタチになるのだ。自治体からのボランティア募集前に仕事などでやむなく被災地に入る人は、野宿するためのキャンプ道具、水や食料、雨具や着替えなどの生活用品、作業に必要な機材、車両を用いる場合には必要に応じて携行缶に入れたガソリンなどを用意してから現地入りしてほしい。
また、公共交通がストップしている状況で、外部からマイカーを使って現地入りすると、被災して麻痺した道路網に負担をかけることに繋がり、ただでさえ混雑した道路をますます渋滞させる結果になりかねない。そうなると緊急車両の運行に支障が出るし、物流にも負担をかけることになるので、物資が被災者に届かなくなる恐れがある。
熊本地震の取材の際は、そのような事態を避けたいと考え、筆者は機動性が高く道路専有面積の少ないビッグスクーターを移動手段に選んだ。だが、今回の震災は冬季の北陸で発生した。現地は降雪や路面の凍結の可能性が高く、バイクの走行にはまったく適していない。スーパーカブのような一部の車種には二輪用のスタッドレスタイヤやタイヤチェーンの設定もあるにはあるのだが、これらの装備は乗り慣れた人でないと使いこなすのが難しい。二輪車で無理をするのは危険なことであるし、万が一、被災地で事故でも起こせば、病床を外部の人間が専有することになり、本当に必要な人が入院できなくなる可能性がある。行動を起こす前には様々なリスクをまずは冷静に考え、それから動くようにしないと、気持ちばかりが空回りして被災者にとっては「ありがた迷惑」になることを肝に銘じておくべきだ。
現在、被災地のために誰にでも出来ることであり、必ず被災者の役に立つことは募金活動への協力だろう。復旧・復興、被災者の生活支援のためには何はともあれ先立つものが必要になる。あなたが被災地のために「何かしたい」と考えているのなら、可能な範囲で構わないので募金に協力して頂きたい。
地方都市での災害はクルマでの避難が常識
クルマで避難生活を送る人の命を守りたい!
筆者が今心配しているのは、地震によって自宅を失い、車上生活を余儀なくされた被災者がエコノミークラス症候群(整脈血栓閉栓症)を発症する危険性だ。
よく言われる「地震の避難の際にはクルマを使わないようにしましょう」との注意喚起の言葉は、あくまでも都市部に限った話であり、地方都市で震災被害により自宅に住めなくなった人は、そのほとんどがクルマを使って避難することになる。そして、避難所が定員に達していたり、子供やペットがいるなどの事情で避難所への入所を躊躇したりする場合には、そのまま愛車をシェルター代わりにして車中生活を送ることになるのだ。
近年はミニバンやSUV、軽自動車でもハイトワゴンが普及したことでシートを倒してフルフラットにできる車種が増えている。だが、被災者は着の身着のままで避難しているわけではない。さまざまな家財道具を自動車に積み込んで避難してきているのだ。そうなると、さしもの車内容積を誇るミニバンでもシートを倒して横になることが難しくなる。その結果、座ったまま休むことになり、そうした生活が長期に渡って続いたことでエコノミークラス症候群を多くの人が発症させたのだ。熊本地震による死者263人のうち、エコノミークラス症候群を含む「震災関連死」はその4/5に当たる208人にのぼり(地震発生日から2018年3月29日まで)、震災関連死のうち少なくとも60人は車中泊していたことが明らかになっている。今回はそうした二次被害で生命を失う人が出ることは何としても避けたい。
理想を言えば、自宅を失った人は被災地から離れた場所に移動して、そこでホテルやアパートを借りるなどして身体を休める場所で避難生活を送って頂きたいのだが、各種支援の受け取りや行政手続き、自宅や職場の後片付け、金銭的な問題などから地元を離れることはなかなか難しいと思う。ならば、せめて就寝時だけでも貴重品以外の荷物を外へ出し、シートを倒して休める環境を整えて頂きたい。その場合、問題となるのは車外に置いた荷物の盗難などのリスクだが、これは同じ避難場所の隣人同士コミュニケーションを取り合い、順番を決めて不寝番をするなどの対策を取って頂くようにするしかないと思う。
荷物を外へ出すことができず、座った姿勢で休まざるを得ない人は、意識して水分(スポーツ飲料などのイオン飲料が予防に良いとされる)を取るように心がけて頂き、歩行や足のマッサージなどを適時行い、なるべく長時間同じ姿勢でいないように注意して頂きたい。
熊本地震で浮き彫りになった車中避難における情報・支援格差をどうするか?
もうひとつ車上避難で懸念されるのは、避難場所による情報・支援格差の問題だ。体育館や文化ホールなどの公共施設にある駐車場や道の駅を避難場所に選んだ場合には、行政がその場所にいる被災者の実態を把握しやいこともあり、適時必要な情報や物資の提供を受けることができるが、小さな駐車場や空き地などに数台が集まるだけの避難場所だと、行政がその存在を把握できず、半ば忘れられた存在となって情報や物資がまったく届かなくなる。熊本地震の取材で各地の避難場所を回ると、同じ車上避難でも場所によって受けられる支援に大きな開きがあったのだ。
この対応策として被災地自治体にぜひお願いしたいのは、被災地の巡回強化により小さな車上避難者のコミュニティを漏らすことなく把握することと、車上避難者が県に自らの存在を伝えるための専用Webサイトの早急な製作である。スマホなどからアクセスし、必要な事項を記入することで車上避難者がどこで、何人くらいその場所で避難生活をしているか、どんな物資を必要としているかなどを申告できるようにすれば、必要な情報や支援物資を遺漏なく提供できのではないだろうか。
専用のWebサイトの告知は、X(旧Twitter)などのSNSの活用や、TV・ラジオなどを使って告知することで周知徹底すれば良いだろう。もちろん、中高年の被災者の中にはスマホやパソコンなどを持っていなかったり、使い方がわからない人もいたりするだろうが、周囲の人による声掛けなども期待できるだろうし、所在確認を取る手段を用意しないよりは遥かに良いだろう。
震災にまつわる犯罪を絶対に許すな! 怪しい人物・クルマには注意!!
最後に東日本大震災や熊本地震でも発生した震災に乗じた火事場泥棒の問題だ。
2016年の熊本地震の際には、ネット上ではまことしやかに外国人による犯行説が囁かれていた。しかし、実際に現地に赴くと怪しい外国人などまったく存在しない。情けないことに震災に纏わる犯罪の多くは同じ日本人の仕業なのである。現地で見かけた外国籍の人は、東南アジア某国の在留団体のボランティアが1組だけで、それも被災した同胞を助けするために支援物資を届け、後片付けを手伝っている少人数のグループだった。
実際に犯行グループとおぼしき車両を見かけた人に話を聞くと、工事関係や建築関係に偽装した他県ナンバーの小型トラックで、運転していたのはあきらか日本人だったという。土地勘もある程度あるようで裏道を手慣れた様子で走っていたという。
また、とある企業が全国の同業者の助けを借りて集めた民間の支援物資の集積場所には、転売目的なのか集めた物資を詐取する輩が現れたという。話によると「〇〇地区に住む△△さんに頼まれて来ました。人手が足りないようなのでボランティアで運びます」などと、もっともらしいことを言ってトラックで乗り付たという。地震によって心身ともに疲弊し、人手も足りず、よもやこんな非常時に悪事を働く人間もいないだろうと信用してしまい、あとから物資を騙し取られたことに気づいたということだ。
これなどは日本人が持つ「助け合いの精神」を悪用し、心の隙を突いた犯罪だ。このような行為を国民性や文化が異なる外国人ができるとは到底思えない。同様の犯罪は今回のん能登半島地震でも発生が懸念される。警察によるパトロールや検問により怪しいクルマの摘発を期待したいところだが、それだけで防げるとも思えず、少しでも怪しいと思った人間がクルマに乗って近づいてきたら、念のため免許証や車検証を提示を求め、控えを取るようにしたほうが良いだろう。