“見えないメーター”ってなに?自動車用メーターの老舗・日本精機が提案する自動運転時代に向けた「インテリア一体型ディスプレイ」【人とくるまのテクノロジー展2024】

日本精機(にっぽん・せいき)は自動車用メーターの製造メーカーとして世界シェアトップを誇る会社だ。
クルマいじりが好きなひとには後付けメーター「Defi(デフィ)」のほうが耳なじみがいいかも知れない。
「人とくるまのテクノロジー展2024」では、日本精機グループがブース展示していたのでちょっと覗いてみた。

TEXT/PHOTO:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)

■計器メーカーなのにメーターを隠す提案

日本精機は1946年の創業時から80年近く、メーター製造を主な事業としている会社だ。
正式社名は「日本精機株式会社」で、これはずっと変わっていない。

創業時からいまに至るまで、日本各地に工場や事業所を少しずつ増やしてきたが、本社や主要拠点は転々としても決して新潟県の外に出ることはないまま、長きに渡って自動車用メーターを造り続けてきた。

当初は時計も手掛けていたようだが、主事業が自動車用メーター製造であることはいまも変わらず。4輪、2輪用に加え、建設機械、農業機械、船舶用計器まで手掛けているほか、「Defi」ブランドの後付けメーターの製造・販売も行っている。数多いDefiのひとつ「Racer Gauge」の水温計を、筆者は使っていたことがある。

おもしろいところでは自動車販売。Honda Cars長岡、新潟マツダ、マツダモビリティ新潟、カーステーション新潟・・・カーステーション新潟はスズキ車とダイハツ車を販売。もしかしたら出資していることで「事業」としているのかも知れないが、それにしても扱うメーカーの範囲はなかなか広い。

今回の「人とくるまのテクノロジー展2024」は、「日本精機」というよりも「日本精機グループ」としてのブース出展で、系列会社が自動車用品とは直接関係ない製品も参考展示していたが、ここではグループ本元・日本精機の新しい提案のメーターをご紹介する。

●インテリア一体型ディスプレイ

自動運転が実用化されると車両のインテリアのデザインも変わるといわれている。

過去数回のモーターショーでは、まっ平らなフローリングの床に乗員ぶんの椅子がお互いを向くように並べられているだけのコンセプトモデルが多数展示されたもの・・・終着駅で椅子の向きを変える新幹線同様、自動運転時代になるとクルマのインテリアも「前」「後ろ」の概念がなくなるのだろう。

写真は昨年のモビリティショーのホンダブースに展示されていた、自動運転モビリティサービス専用車両「クルーズ・オリジン」の日本仕様試作車のインテリア。電車のボックス席の様に、座席は相向かいになっている。
いままでの「前席」は後ろを向いている。
後席は前を向いたまま。
クルーズ・オリジンの場合、外形スタイルも前だの後ろだのという概念を取っ払っている。こちらはフロント。
後ろから。

これまでハンドルを握っていたドライバーのシートさえ内側を向くほどなのだから、ハンドルばかりかインストルメントパネルだってメーターだって要らなくなる道理。「要らない」は乱暴だが、少なくとも「メーターとしてデザインされたメーター」は不要になる。

「メーターが不要」なんて、自動車用メーター製造を主軸にしてきた日本精機にとっては死活問題だが、このブースでは、その死活問題を逆手にとった提案をしていた。

「インテリア一体型ディスプレイ」だ。

展示品ではインストルメントの一部を模した化粧パネルの向こう側に発光体をしのばせ、メーター情報を表示。ということは、そうとは見えなくても化粧パネルは透過性を有しているのだろう。ここに、必要なときに必要な情報を最小限のエリアに透過させて浮かび上がらせている。

百聞は一見にしかず。写真でお見せしよう。

日本精機が提案する「インテリア一体型メーター」。
梨地模様の化粧パネルに速度や交差点情報が浮かび上がる。
速度計はそのままに、別の情報も。

消灯時はこのとおり、ただの化粧パネルになるという格好だ。ここに車両情報が表示されるとは、教えられない限りわからない。

消してしまえばこのとおり、ただの梨地模様の化粧パネルに落ち着く。

自動運転が前提のインテリアとなると、これまでのようなインストルメントパネルの概念もなくなり、居住空間はいわば走るリビングとなる。乗員を囲む4方は住宅リビング同様、装飾品だったり造りつけの収容スペースに充てられるのだろうが、その一部にさりげなくメーター情報を表示する、メーターではないメーターの提案であった。

●プロト品が持つ現在の課題も明示したことに好感

もっとも、家のリビングと異なり、「クルマのリビング」は昼夜問わず移動するため、あらゆる状況下でもきちんと視認できるようでなければならないのはこれまでのクルマと同じだ。

これはメーターを製造する側の責任ではなく、インテリアをデザインする自動車会社の責任だが、いま売られているクルマでも、バイザーがあるのに太陽光が当たって肝心な表示が見えないメーターがあるし、逆に位置があまりに奥まっているがために外光が届かず、昼間でも見にくいメーターだってある。

そのメーターがなくなってインテリアの一部になるなら余分な外光を遮るバイザーも不要になるが、そこにメーターを仕込むならやはり外光対策が必須。その役を分担していたバイザーがなくなると、視認性如何の全責任は一挙メーターの造り手側が負うことになる。

外光もいろいろあるが、開発陣にとっていちばん頭が痛いのは昼間の太陽光だろう。

日本精機がえらいと思ったのは、説明パネルの中で「太陽光照射時のコントラスト確保」「過酷環境における信頼性・耐久性向上」のふたつを、「技術課題」として掲げているところ。このようなショーでは展示物に華々しい演出を加え、その美点だけをアピールするばかりで、マイナス面をあからさまにするなんてことはしないのが普通なのに、「いやあ、われわれもこの点だけまだ解決できてないんですよねえ。」と、頭かきかき正直に白状しているところがいい。

「インテリア一体型メーター」の説明パネル。
今後解決すべき課題をきちんと記しているのが立派だ。インテリア一体型メーターよりもこちらのほうに感動した。

何といっても敵は太陽だ。暗がりを向いていた地表が地球の自転で太陽側に向くから、夜から朝昼になるだけのことである。別のいいかたをすれば、太陽は暗い宇宙空間に浮く地球の照らした部分を「日中」にしてしまうほどの大光量を持つ、特大な懐中電灯なのだ。

その太陽さんが放つ強力な光を直に受けたまま表示項目をくっきり視認できるようにするのは、考えてみると容易なことではないだろうが、弱点をさらけだしているなら解決の手口は見出せている(と思う)わけで、そう遠くない将来、「こんなところに!」と驚くような場所に埋められる、太陽光なんてものともしない先進的なデザインの隠れメーターを実現してくれることだろう。

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