N-VAN e:の開発コンセプトは「移動蓄電コンテナ」 どこがイイのかスゴいのか?

ホンダN-VAN e:
ホンダは2024年6月13日、新型軽商用EV(電気自動車)のN-VAN e:(エヌバン・イー)を発表した。発売は10月10日だ。WLTCモードの一充電走行距離は245kmのN-VAN e:とはどんなクルマなのか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

法人需要も個人向けも狙う

発売は10月10日。目標販売台数は明らかにされていない。写真はe:L4 外装色はタフタホワイトⅢ

ホンダは2024年6月13日、新型軽商用EV(電気自動車)のN-VAN e:(エヌバン・イー)を発表した。発売は10月10日だ。2050年にすべての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルを目指すホンダは、段階的に電動化比率を高め、2040年までにEVとFCEV(燃料電池車)の比率を100%にすると宣言している。

日本でEVの導入を本格化するにあたり、ホンダは手の届く身近な軽商用EVから市場に投入することにした。2025年には軽乗用EV、2026年にはSUVタイプを含む小型EVを投入すると予告している。

N-VAN e:はその車名が示すとおり、660ccのガソリンエンジンを積んだ軽商用バンのN-VANがベースだ。自営業などの個人向けや趣味の用途も見込んでいるが、同時に配送業などの法人需要も見込んでいる。

ホンダN-VAN e: 全長×全幅×全高:3395×1475×1960mm ホイールベース:2520mm

バリエーションは4タイプ。e:L4は4席のシートを配置したスタンダードタイプで、商用から個人ユースまで幅広くカバーする想定。e:FUNはe:L4をベースに趣味性に振った内外装としたタイプ。外観では、丸型LEDヘッドライトが特徴だ。

e:Gは商用ユースに特化し、機能性を追求したタイプ。シートは運転席のみの設定としている。4人乗りのe:L4とe:FUNに対し、フロア高を120mm下げ、使い勝手を向上しているのも特徴。e:L2も商用ユース特化型で、運転席と運転席側後席の前後タンデム2席とした仕様だ。

左がe:FUN(外装色はオータムイエロー・パール2TONE)右がe:L4(外装色はボタニカルグリーン・パール)
サスペンション:Fマクファーソン式/Rトーションビーム式
e:FUNは丸目LEDヘッドライト
e:L4はマルチリフレクターハロゲンヘッドライト

e:L4とe:FUN は全国のHonda Carsと本田技研工業(株)法人営業部(リース契約/売り切り)、新車オンラインストア「Honda ON」(リース契約のみ)での取り扱う。e:Gとe:L2はリース契約のみで、法人営業部およびHonda ONでの取り扱いとなる。

ホンダとヤマト運輸は2023年、N-VAN e:(当時はテスト車両)を使った「集配業務における実用性の検証」を行なった。ドアの開け閉めや乗り降りが多い集配業務を通じて車両の耐久性を確認する目的もあるが、集配業務におけるアクセルやブレーキなどの運転操作、空調による電力消費量、走行後の充電量や充電時間帯など、軽商用EVとしての基礎データを収集し、実用性に磨きを掛けるのが狙いだった。

グレード乗車定員急速充電車両価格(消費税込)
e:L44名269万9400円
e:L44名280万9400円
e:FUN4名291万9400円

検証の結果、アクセルペダルの踏み込みに対する応答の良さという、EVの特徴が必ずしもドライバーに好評とは言えないことがわかったという。荷崩れを防ぐために急発進を避けたいというフィードバックがあり、EVのウリを前面に出すことが必ずしも善ではないと悟った。

e:L4のインテリア
e:FUNのインテリア
商用VANだけに荷室の使い勝手は重要。フルフラットになる。

減速時も同様だ。やはり、荷崩れを防ぐため、荷物をたくさん積んだ状態ではできるだけブレーキを踏みたくない。そこで、N-VAN e:では回生ブレーキが強くなるBレンジを設定。荷崩れ防止のため、通常のBレンジよりも減速Gの出方が控え目な設定にしたという。

メカ的な成り立ちはどうなってる?

駆動用バッテリー 総電圧:358V 総電力量:82.7Ah/29.6kWh

N-VAN e:の開発コンセプトは「移動蓄電コンテナ」だ。横文字で表現すると「e:CONTAINER(イー・コンテナ)」となる。平たく表現すると、環境にやさしく(早朝深夜も静かに配送/屋内や地下でも使える)、どこでも給電(停車中もエアコン使用可/さまざまな電動器具を利用可)できて、自在に使える(大空間/大開口/動く店舗・部屋として使える)クルマということだ。

軽商用バンタイプのBEVは、一充電走行距離は三菱の「ミニキャブEV」が180km(国土交通省審査値)、ASFの「ASF 2.0」が243km(JARI測定値)、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)の軽商用EVが200km以上を目指して開発中。競合に対してN-VAN e:は優位な走行距離(245km)を確保した。

N-VAN e:のメカ的な成り立ちを乱暴に表現すると、N-VANのエンジン、トランスミッションが積んであるフロントのスペースに最高出力39kW(53ps)(e:G/e:L2)もしくは47kW(64ps)(e:L4/e:FUN)、最大トルク162Nm(全タイプ)を発生するモーターやインバーターなどのパワーユニット系コンポーネントを搭載し、フロアセンター部の燃料タンクをバッテリーに置き換えた格好だ。

開発にあたっては、車体寸法と骨格を変えず、既存のフロントルームにパワーユニットを収めることが大命題だった。バッテリーも同様で、シートをダイブダウンした際にフラットになることが絶対条件だった。N-VANの使い勝手を犠牲にすることを許さなかったのである。

駆動用モーター MCF7型交流同期モーター 定格出力:39kW 最高出力:47kW(64ps) 最大トルク:162Nm
リチウムイオン電池は三元系のNCMで、エンビジョンAESC製。バッテリー容量は29.6kWh

では、バッテリーの容量はスペースの制約から決まったのかというとそうではなく、航続距離から逆算して決めた。N-VAN e:のバッテリー容量は29.6kWhである。WLTCモードの一充電走行距離は245kmだ。競合車に対し優位な航続距離を実現しているが、「245」という数字が欲しかったわけではない。

重視したのは実用航続距離だ。それもストップ&ゴーが多く、減速時のエネルギー回生を多く期待できない集配業務で一日使ったときの実用航続距離である。検証の結果、100km走ればストレスなく一日の業務を遂行できるとのデータが得られ、そこからバッテリー容量を導き出した。しかし、スペースは決まっており、薄く、コンパクトに成立させなければならない。厳しい衝突要件も満たしつつ。

リヤサスペンションは車軸式

パウチ型のセルを採用したのは、体積エネルギー効率を高めるためだ。バッテリーパック内は水配管を張り巡らし、高温時はバッテリーを冷却。低温時は空調用ヒーターでバッテリーを加温して適正な温度まで暖め、バッテリーにとって効率のいい温度にし、航続距離の向上を図る。このようにN-VAN e:はとことん、仕事で使うクルマとしての機能を重視して開発されている。

ただし、機能一辺倒ではなく、しゃれっ気もある。e:L4とe:FUNの内装パネルはコンテナの外観から発想した縦ビードのデザインを採用。強度アップと軽量化を実現しながら、付いた傷が目立ちにくいという実用上のメリットも兼ね備えている。

充電リッドはフロント。左が普通充電(6kWに対応)右が急速充電用(50kWに対応)
左がバッテリー冷却用のラジエーターで右がモーターインバーター冷却用
バッテリーは水冷式
フロントグリルに廃棄バンパーを再生したサステナブル素材を採用

充電リッドがあるフロントグリルに廃棄バンパーを再生したサステナブル素材を採用したのは、面白い試みだ。元になっているのは、ホンダの販売店で回収したホンダ車のバンパーである(言ってみれば、歴代ホンダ車の生まれ変わりだ)。リサイクル時に残ってしまうキラキラした塗膜の粒は意匠として活用。リサイクルマークを見える位置に配し、「積極的に見せるリサイクル材」としている。

手道具や工具は機能を追求するうちに研ぎ澄まされ、狙ったわけでもなく人を惹きつける魅力を備えることがある。軽商用EVに求められる機能を綿密に分析し、合理的な考え方で成立させたN-VAN e:は、そんな道具・工具と同じ種類に属するように感じられる。

N-VAN e:からの給電もできる。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…