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●AEハチロクの元祖、TE27レビン/トレノ誕生
1966年に誕生して大ヒットした初代「カローラ」に続き、1970年には2代目カローラが登場し、豊富なバリエーションによってファミリーカーとして確固たる地位を築いた。その2年後の1972年、「カローラクーペ/スプリンタークーペ」よりもさらにスポーティなモデルとして、初代「カローラレビン/スプリンタートレノ(TE27型)」が追加された。ここに、その後も長くファンに愛され続けたレビン/トレノの歴史が始まった。
当時の日本は、高度経済成長で豊かになり、マイカーブームが訪れていたとはいえ、本格的なスポーツカーはまだ高嶺の花だった。
レビン/トレノは、クーペボディに「セリカ1600GT」に搭載されていた高性能1.6L直4 DOHCエンジン(2T-G型)を搭載し、トランスミッションは5速MTが組み合わされた。最高出力115ps(ハイオク仕様)/110ps(レギュラー仕様)で、セリカよりも小柄なボディだったレビン/トレノは、誰でも手の届く価格に抑えた手軽に楽しめる小型FRスポーツカーとして人気を集めた。
ちなみにレビンとトレノは、兄弟車として多くの共通コンポーネントが使用され、主な違いは前後ライト周りの形状やフロントマスクなどのデザインだった。
●排ガス規制に苦しんだ2代目、スタイリッシュな3代目レビン/トレノ
1974年に、初めてのモデルチェンジを行い、2代目レビン(TE37型)/トレノ(TE47型)に移行。2代目では、レビンは2ドアハードトップ、トレノは2ドアクーペで、レビンとトレノは、フロントマスクやリアコンビランプも全く異なるスタイリングが採用された。
駆動方式はFRを踏襲し、パワートレインも先代から受け継いだ。ところが、1975年に厳しさを増した昭和50年排ガス規制への適合が困難になり、生産をいったん終了。1977年には、エンジンを電子制御1.6L直4DOHC(2T-GEU型)に変更して、レビン(TE51型)/トレノ(TE61型)として復活を果たした。
1979年には、モデルチェンジで3代目(TE71)に移行し、ボディは3ドアハッチバッククーペで、当時流行の直線基調のスタイリッシュなフォルムに変貌。レビンとトレノではフロントマスクが異なるが、先代ほどの大きな違いはなく、エンジンとトランスミッションは先代からキャリオーバーされ、駆動方式もFRだった。
●人気漫画にも登場した最後のFRスポーツAE86型(ハチロク)
1983年にモデルチェンジした5代目カローラ/スプリンターは、居住性を高めるなど実用性を重視して当時主流となりつつあったFFレイアウトに変更されたが、4代目レビン/トレノ(AE86型)はFRによる走りの楽しさを重視して先代同様にFRが継続された。
4代目レビン/トレノは、2ドア/3ドアのハッチバッククーペで、レビンが固定式の角型ヘッドライトと一面となったグリルとコーナーライトを持つフロントフェイス。一方トレノはリトラクタブルヘッドライトと横長のグリルを持つ低く構えたノーズが特徴だった。
プラットフォームは基本的に先代のキャリオーバーだが、エンジンは先代までの2T-GEU型から、最大パワー130ps/最大トルク15.2kgmを発揮する新開発の1.6L直4DOHC(4A-GEU型)に換装された。当時流行った1.6L高性能エンジン“テンロク”を代表するエンジンである。
最高速度200km/hを超えるハチロクは、レースでも活躍したが、絶対的なスピードよりも、優れたレスポンスと後輪をドリフトさせるFR特有のハンドリングが楽しめるライトウェイトスポーツとして、ジムカーナやラリーなどのモータースポーツでも好まれ、多くのファンを魅了した。
車両価格は、高価なモデルでも132万円、当時の大卒初任給は13万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約234万円に相当する。2Lクラスの走りができると思えば、リーズナブルだ。
AE86自体は、現役時代はそこそこのヒットはしたものの、1987年に生産を終了。が、ハチロクの生産終了後も長く、あるいは現役時代以上に人気モデルとなった理由のひとつは、1995年から講談社・ヤングマガジン誌で連載された人気漫画「頭文字D(イニシャルD)」の影響が大である。頭文字Dは、ハチロク(トレノ)を駆ける主人公が名立たるスポーツカーと公道最速を駆けて競い合うというもので、“D”はドリフトとドリームのDとされている。
また、AE86がチューニングしやすく、走り屋の腕を磨くのにちょうど良かったということで長く愛用され、中古車価格が高騰した要因になったようだ。
●カローラレビン/スプリンタートレノは幕を下ろしたが、ハチロクの名はトヨタ86で復活
その後レビン/トレノは、1995年の7代目(AE111)を最後に2000年に販売を終えた。
ところが2012年、ハチロクの名前を継承した「トヨタ86」が登場して大きな話題を呼んだ。トヨタ86は、スバルとの共同開発で、車両パッケージングやデザインはトヨタが、エンジンをはじめとする機構面や生産などはスバルが主導し、スバルは「BRZ」の車名で発売した。
スポーツカーらしいロングノーズの流線型フォルのボディに、パワートレインは200psを発揮するスバルの2.0L直4水平対向DOHCエンジンと6速MTおよび6速ATの組み合わせ。スバル伝統の水平対向エンジンを採用したのは、エンジン長が短く、低重心で回転バランスが良いので、FRスポーツには最適と判断したからだ。
ハチロクのネーミング復活ということもあり、トヨタ86は発売とともに大きな注目を集め、注文してから半年待ちと冷え込むスポーツカー市場では異例の大ヒットとなった。
●カローラレビン/スプリンタートレノ(AE86型)が登場した1983年は、どんな年
1983年には、トヨタのAE86の他にも、スズキの「カルタス」、ホンダの「バラードスポーツCR-X」も発売された。
カルタスは、スズキが1981年にGMと資本提携し共同開発した、スズキ初の小型乗用車。バラードスポーツCR-Xは3代目「シビック」をベースにした軽量コンパクトなクーペスタイルのFFスポーツである。
クルマ以外では、4月に東京ディズニーランドが開園し1年で1000万人を超える入場者が訪れた。任天堂から家庭用ゲーム機「ファミコン」が発売され、1年間で300万台を売り上げた。
また、ガソリン156円/L、ビール大瓶282円、コーヒー一杯268円、ラーメン352円、カレー460円、アンパン86円の時代だった。
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大衆車を代表するカローラ/スプリンターの冠を付けながらも、コンパクトなFRスポーツとして絶対的な人気を誇るAE86。販売終了後も人気は衰えることなく、むしろ人気が上昇した不思議な名車、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。