目次
■フラッグシップ・レジェンドに走りを極めるTCL搭載
1989(平成元)年7月20日、ホンダは高級セダン「レジェンド」にFF車としては世界初のTCLを搭載したモデルを追加することを発表(発売は7月21日)。TCLは、ホンダ独自の駆動輪制御により、滑りやすい路面での空転を防ぎ、優れた操縦安定性、悪路走破性を実現するシステムである。
●ホンダ初の3ナンバー高級セダン「レジェンド」
バブル好景気が本格的に始まった1985年11月、ホンダ初の3ナンバー高級セダンのレジェンドがデビューした。当時、ホンダはローバー社と業務提携を締結していたため、レジェンドの開発は共同で行われ、国内だけでなく英国や北米のアキュラブランドでも販売されたグローバルモデルという位置付けだった。
レジェンドは、高級セダンとしては当時珍しいFF車で、空力性能に優れた低いフロントノーズと、3ナンバーボディの広い室内空間が特長の4ドアセダンと2ドアハードトップが設定された。パワートレインは、ホンダ初のV6エンジンである2.0L/2.5L V6 SOHC(セダン)&2.7L V6 SOHC(ハードトップ)と、5速MTおよび4速ATの組み合わせ。
1980年代後半の爆発的な人気を獲得したトヨタの「ソアラ」や「マークII」、日産の「シーマ」といったハイソカーにはやや遅れをとったものの、ホンダらしい個性的な高級セダンのレジェンドは人気モデルとなった。
●世界初のFF車用TCL(トラクションコントロール)
1989年のこの日、2.7Lハードトップのトップグレード“エクスクルーシブ”に、FF車初のTCLが装備された。
駆動と操舵を前輪で同時に行うFF車は、前輪の駆動力(前後方向の力) だけでなく、旋回能力を決定する横力(横向きの力)の制御も同時に行なう必要があるため、一般的に駆動輪のトルク制御は難しい。ホンダは、独自の制御手法を確立し、世界で初めてFF車用のTCLシステムを開発したのだ。
このシステムでは、従来のタイヤの空転を抑える駆動力制御に加え、車両の回頭角速度(ヨーレート)を検出することで、駆動力と横力を同時に制御する操安性制御と、悪路検出機能を設けた悪路対応制御のための新しい制御理論を構築。これにより、滑りやすい路面での発進加速や加速時に発生する駆動輪の空転を抑え、優れた操縦安定性と悪路走破性を実現した。
TCLが装備された2.7Lハードトップ“エクスクルーシブ”の車両価格は360.6万円。TCS未搭載車の328.9万円よりも約32万円高い設定である。当時の大卒初任給は、16.4万円程度(約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約506万円に相当する。
●先進技術を先駆けて採用したレジェンド
レジェンドは、TCL以外にも多くの安全にかかわる先進技術を採用した。
・SRSエアバッグ(1987年)
運転席に国産車初のSRSエアバッグを、トップグレードに標準装備(他はオプション)。SRSエアバッグは、乗員を拘束するシートベルトの補助装置として、衝突時にエアバッグによってドライバーへの衝撃を緩和する装置
・SH-AWD(スーパーハンドリング・オールホイール)(2004年)
4代目レジェンドに世界初の4WD動力自在制御“SH-AWD”を搭載。駆動力を前後輪に可変分配するとともに、後軸に配分した駆動力をさらに左右で可変制御して、あらゆる運転条件で4輪それぞれの駆動力を最適化
・インテリジェント・ナイトビジョンシステム(2004年)
フロントバンパーの2基の遠赤外線カメラの映像を利用して、夜間走行時に前方の歩行者を自動的に検知し、ドライバーに警告する世界初のシステム
・スポーツハイブリッドSH-AWD(2014年)
5代目には、3つのモーターを配備したSH-AWDが登場。フロントに新開発となるV6 3.5L直噴i-VTECエンジンにモーター内蔵の7速DCT、リアに2つのモーターを内蔵した先進ハイブリッド(2016年、2代目NSXにも搭載)
・・・・・・・・
レジェンドは、ホンダらしい先進技術、特に安全技術を積極的に投入。その極めつけが、2021年に世界初となる“自動運転レベル3”搭載モデルだった。しかし、このレジェンドも残念ながら2021年をもって生産を終えたが、ホンダのフラッグシップとしての役目は十分果たしたのではないだろうか。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。