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型式認証制度とは?
型式認証試験の実務は、国交省から委託を受けた独立行政法人自動車技術総合機構(以下=機構)が行なう。これは国土交通省令である「自動車型式指定規則」に定められている。また、不正があった場合は認証の取り消しまたは一時的な型式指定の効力停止を行なう権限を国交省は持つ。これも「自動車型式指定規則」に定められている。
通常、実際の認証試験はOEMが行ない、そのデータを機構に提出するという手順で行なわれる。そのなかで、もっとも厳しい条件で実施する「ワーストケース試験」については機構の審査官が試験現場に立ち会う。それ以外の試験は試験データの提出で代用できる。ことし6月にOEM5社が国交省に提出した「社内認証試験の不正」には、このワーストケース試験も含まれていた。
たとえば燃費計測の場合は、型式認証申請された車種のなかで車両重量がもっとも重いグレード(類別)ともっとも軽いグレードで計測し、その2点を結んだ直線の中に入る仕様は実際に燃費計測をしなくても「重量区分」ベースの計算値で燃費を決めても構わない。また、型式が違っても(たとえばトヨタ・パッソとダイハツ・ブーンのような兄弟車)、同じ機構または装置ごとにワーストケース試験が行なわれ、その結果は型式間で共有できる。
一方、認証に必要な試験のうちワーストケース試験に該当しないものはOEM社内での試験実施とその試験データ提出で「認証試験を実施した」とみなされる。また、認証試験は機構派遣の職員による試験立ち会いが原則だが、不正を行なっていないOEMへの「恩典」として「データ提出をもって試験立ち会いとみなす」という運用が行なわれてきた。これは機構側の試験設備の受け入れキャパシティの問題と、総勢66人という試験官人数の問題が基本にある。
「熊谷送り」? どうなる?
ことし認証不正を国交省に報告したOEMはトヨタ、ホンダ、スズキ、マツダ、ヤマハ発動機の5社。現在の法律・省令の定めるところでは、この5社は「不正があった項目」の型式認証試験を今後3年間、機構の設備で行なわなければならない。衝突安全試験での不正の場合は衝突試験を機構で行なわなければならない。機構の熊谷試験場の設備キャパシティから見て、今回の5社の認証試験実施の遅れは避けられない。
これは筆者の予測だが、おそらく何らかの罰則減免が行なわれるだろう。自動車型式指定規則には、国交省が型式指定の取り消しを行なう場合は「経済産業大臣の意見を聴取する」との規定がある。この規定が運用された例を筆者は知らないが、おそらく国交省と経産省との間の実務者レベルから審議官クラスまでの案件であり、両省大臣には報告が行くだけと思われる。
要は「経済停滞を招かないように」という安全弁であり、道路交通行政を担う国交省と経済産業政策を担当する経産省との間で「落とし所を探る」ことを明記した省令と解釈できる。
また、認証不正を行なったOEMに対し3年間の「熊谷行き」を義務付けているのも省令であり、これについても情状酌量の余地ありと判断される可能性が高い。機構・熊谷試験場のキャパシティとともに、総勢66人の試験官では不正を行っていないOEMや部品メーカーへの試験立ち会い出張をこなしながらの熊谷での試験実施は物理的に不可能だ。
ちなみに日本と認証試験内容の40項目程度を共有するEU(欧州連合)では、国ごとに認証試験のアドバイスを行なう機関・企業がある。認証試験の予備校だ。ここが試験を行ない、不合格の場合はその内容の指摘や合格へのアドバイスを行なう。日本にはこのような機関・企業がない。しかも認証試験は一発合格が必須であり「不合格再試験」は認証申請のやり直しになる。
機構での認証試験キャパシティに問題があるのなら、たとえば日本自動車研究所などを母体に認証試験予備校を組織する手もある。過去、この点は国交省や日本自動車工業会などの間で議論が行なわれていない。
今回の一連の認証不正では、型式指定の取り消しはなく、該当車種の出荷停止措置も解除された。しかし、今後の型式認証受理および試験の実施についてはまだ発表がない。8月19日に「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」の第4回会合が行なわれたが、今後は認証試験実施方法の見直しに向けた議論も行なわれることだろう。
販売車種数が増え、機構だけでの認証試験対応がすでに限界を超えている事実と、OEM開発現場でも開発と認証の作業負担が激増した事実。この2点をどう解決するか。これは日本の競争力維持のための産業政策でもある。日本に型式認証試験のための予備校を作るべきなのか。あるいは米国のようにすべての国家事前認証を廃止し、市場から抜き取り調査で不正の未然防止を行なうほうが合理的なのか。自動車の認証制度始まって以来の大議論が必要な時期である。