初代ハイエースワゴンにみる、1960年代乗用1BOXの質素ぶり・初代ハイエース1967(昭和42)年・後編

初代ハイエースの内装を見ていく。
前回、初代ハイエースの外観をご紹介したが、今回はその後編として、初代ハイエースの内装の詳細を解説していく。
他のメディアではなかなか見られない写真をいっぱい載せているぞ!
TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)

こんなに質素でも乗用車! 初代ハイエースワゴン

時代の名車探訪・ハイエース編の後編は、初代ハイエース・ワゴンの内装を見ていく。

初代ハイエースの内装を見ていく。

この時代の1BOXはライトバン扱いの商用車が主流で、ここで取り上げるハイエース・ワゴンのように、乗用ユースの1BOXは珍しい部類だった。このハイエース・ワゴンを皮切りに、以降、トヨタからは「ライトエースワゴン」「タウンエースワゴン」が続き、日産はキャラバンやホーミー、格下のサニー/チェリー/ダットサンバネットを乗用志向にした「キャラバン/ホーミーコーチ」「サニー/チェリー/ダットサンバネットコーチ」で後を追った。
スライドドアは、バンでは両側になるのに、乗用向けになるとなぜか左だけになるのも1BOXワゴン特有だった。

いずれも特徴は、乗用とはいいながらもバン派生の乗用車というべき造りで、乱暴にいえば商用1BOXバンの内外装を乗用仕立てにし、足まわりも同じ設計のまま味わいをソフトにしただけのもの。衝突安全や前席乗降性改善のため、フルキャブのままというわけにはいかなかったが、全長のほとんどをキャビンに充てる真の乗用1BOXは、1990年の初代エスティマまで待たなければならなかった。

とはいえ、バン派生乗用1BOXには、いまのアルファード/ヴェルファイア、ノア/ヴォクシーのような生まれながらの乗用セミキャブワゴンとは違った楽しさがあったもの。
一度乗り込んでしまえば、いまの低床フロアとは異質の高い見晴らしが得られるんだから、乗降性とのトレードオフに譲歩してでも床が高いのがあってもいいじゃないか。バカバカしいかも知れないが、右スライドドアがないデザインは、右側からの後席乗車&荷の出し入れができない不便はあるが、中から見ればリビング感覚があった。
この初代ハイエースワゴンも、見た目はバンと同じでも、乗り込めば乗り込んだでそれなりの楽しさが見えた。

初代ハイエース、内装のあちらこちらを見ていこう。

運転席まわり

・計器盤

奥行きは薄く、ほとんどフロントピラーの左右を結ぶくらいの奥行きしかない。
メーター、空調コントロール、ラジオなど、据えつけられる視認類、コントロール類は必要最低限だ。最低限といっても、それは現代の目で見るからで、この時代は不満はなかったろう。

インストルメントパネル。

・メーター

2眼式のアナログ式。
中央のターンシグナル、その下の青いハイビーム灯を境に、燃料計と水温計、充電警告とオイル圧警告を左にまとめ、下にブレーキ警告灯を併置する速度計を右に置いている。普通のクルマでさえ「GTナントカ」といったホットモデル限定されていた時代のライトバンに、回転計があろうはずはなく、それどころか区間距離計(トリップカウンター)もなし。
初期にはなかったようだが、速度計は、100km/h以上のプロットにイエローで色付けしてある。海外メーカー勢にはない速度警報チャイムが、日本への輸出に向けての「非関税障壁だ」という外圧に負けてチャイムが廃止されたと同時に色付けもなくなったので、いまのクルマにはないカラーリングだ。

2眼のメーター(消灯状態)。
2眼のメーター(点灯状態)。ターンシグナル下の青ランプはハイビーム灯だ。

・ハンドル

細い! 実に細い! への字型2本スポーク・・・というより横1本スポークとでもいうべきハンドルで、内側グレーのパッド部は両端がホーンボタンになっている。
前回の外装編で書いたとおり、このクルマは残存する初代ハイエースの内外パーツを組み合わせてのレストア車なので、年式は不明・・・じゃなく、年式の概念が存在しないクルマ。ただ、写真のハンドル自体は、少なくとも昭和48(1973)年12月以降のものと断言できる。なぜなら、ホーンボタンであることを示すパッド上のラッパマーク表示が義務化されたのが昭和48年12月だからだ。

グリップもスポークも細いハンドル。

・イグニッションスイッチ

いまのエンジンスタートは押しボタン式が主流になり、特に乗用車では目にする機会が少なくなったのであらためてお見せする。
キー挿し式のイグニッションスイッチのポジションは、次の5つ。

LOCK : 唯一キー抜き挿しができ、かつハンドルがロックされるポジション。
ACC(アクセサリー) : エンジン停止時でも電装品が使えるポジション。
ON : すべての電装品を使えるポジション。
START : エンジン始動でスターターモーターを起動するポジション。

あくまでも個人的見解だが、ボタン式よりはこのキー式、あるいはキーレス式黎明期の、キーの代わりにノブをまわす方式のほうがいいように思う。というのも、ボタン式になるとハンドルロックも電気式になり、表には出てこないが、走行中に電気ロックが故障=誤作動してハンドルがロックされるという事例があるからだ。逆に故障でロックが解除されなくなり、併せてエンジン始動不可にもなって、交換に10万円近くの費用がかかる例も・・・電気ロックの欠陥によるリコールの例もあったっけ。この部分だけは、「ガチッ!」と機械ロックされる従来のキー式、初期キーレスノブタイプのほうがいいのではないだろうか。
交差点でハンドルをまわしている最中に故障して「ガチッ!」となったときのことを思うと・・・ぞぉーっ。

イグニッションスイッチ。

・メーター左のスイッチ群

左上にはいまのクルマでは見かけないシガレットライター、その下にワイパースイッチ、右隣には、今後の新型車では絶対に目にすることはないに違いないチョークノブがある。
ライターとワイパースイッチ裏には電気配線が、チョークノブ裏にはロッドが接続されているわけだが、それにしてもこの3つ、やけに離ればなれだ。実に妙だがその訳は・・・(次の次の次の次の項につづく。)

左上からシガレットライター、その下にワイパースイッチ、右にチョークノブ。

・メーター右のスイッチ群

昔はライトスイッチがターンシグナルレバー先端にではなく、計器盤右側についていた。1段引きでスモール、2段引きでヘッドライト。このクルマではその左にハザードスイッチがある。

左が非常点滅表示灯(ハザード)、ライトの各スイッチ。

・コラムシフトレバー

これは大きなワイパースイッチレバーではなく、コラム式のマニュアルシフトレバーだ。段数は4速。
フロア4MTとは配列が異なるので、初めて乗る人は(いないと思うが)どぎまぎせぬよう、事前確認を怠らないように。

コラムシフトのレバー。

・ターンシグナルスイッチレバー

レバー上下で左右ターンシグナル、向こう押しでハイビーム、手前引きのたびにパッシング。
ライトスイッチは前述の位置にあるのでこのレバーの機能はこれだけだ。
それにしても細っいねえ!

ターンシグナルスイッチレバー。

・ブレーキフルード注入口

冒頭のインストルメント写真で、パネル上面中央・・・ハンドル10時のあたりに重なる、経時変化で反ったふたに気づいた方は鋭い。
通常、フルキャブ1BOX車のブレーキフルード注入口は計器盤右側にあるのだが、初代ハイエースではここにある。つまり反ったふたの下は、そのタンクが潜んでいたのだ。
「メーター右スイッチ群」の項で書いた「スイッチやノブが離ればなれ」だったのは、このタンクレイアウトのためだったことがわかる。

ブレーキフルードのタンク給油口は計器盤上面に。

・ウォッシャー液タンク

フルードつながりで、ついでにウォッシャー液タンクもここで。
タンクは助手席足元にある。エンジンが前席真下にあり、ボンネットがないフルキャブオーバーだからブレーキフルードタンクとともに室内側設置は致し方なし。ウォッシャータンクはむき出しだから、液注入時に手元が狂ったり、経年劣化でタンク割れしたりすれば、助手席足元は水びたしならぬウォッシャー液びたしになるのでお気を付けくださいませ。
モーターがタンク直付けだから、ウォッシャー噴射時はモーター音もまる聞こえだ。

助手席足元のウォッシャータンク。

・ペダル

右から順に、床から生えた格好のオルガン式ペダル、その左にブレーキペダル、ハンドルシャフトをはさんださらに左がブレーキペダル。
周囲を見ると、いかにもこの時代のクルマらしく、たといワゴンといえど、床を覆っているのはカーペットではなく、バンと変わらないビニールマットなのが泣かせる。

あたり前だが、左からクラッチペダル、ブレーキペダル、アクセルペダル。

・パーキングブレーキレバー

パーキングブレーキも昨今はモーター駆動の電気式に移行しつつあり、手で引くレバー式や足踏みペダル式は減少傾向にある。
この初代ハイエースのパーキングブレーキは、通称ステッキ式と呼ばれるタイプのものだ。運転席左ひざあたりに見えるグリップをギーッと引き出して制動、やや引いて左にまわし、押し込んで解除。出入りする棒とその先のT字型グリップが英国紳士風のステッキ型なのが通称のゆえん。1BOXに多い手法だったが、通常のセダンでもよく見かけた方式だ。

ステッキ式のパーキングブレーキレバー。

・ルームミラー/ルームランプ

天井中央のルームミラーはただの鏡で、防眩機能などなし。そのステー根元にはルームランプが設置されている。ルームランプは、2列め、3列め頭上にも同じ丸形のものが並べられている。

ルームミラーとルームランプ。
後席2列め、3列め用のルームランプ。

・サンバイザー

ビニール張りの長方形で、チケット入れだのミラーなどはないシンプル仕立て。

サンバイザー。

・アシストグリップ

前輪上に乗り降りする格好のフルキャブ1BOXの乗降をアシストする前席グリップは、普通はフロントピラーかルーフサイドにあるものだが、初代ハイエースはフロントピラーとルーフサイドをまたぐ格好で取り付けられているのがめずらしい。前席左右に設置されている。

アシストグリップ。

シート

・運転席シート

ヘッドレスト一体型で、シート地はビニールだ。暑い季節には身体が汗ばむ欠点があるが、汚れはすぐ除去できるし、液体をこぼしても染みこまず、ふき取るだけで済む美点もある。
このクルマは前席3人掛けで、中央には控えめな補助的シートがあり、これは駐車ブレーキがレバー式でなく、計器盤下のステッキ式となる理由でもある。

運転席シート。

・2列め、3列めシート

後席シートは、2列め、3列めと、おんなじものかと思うようなシートが存在する。
病院・・・ではなく、おやじの代から続いている近所の○○医院の待合室ベンチみたいなシートで、シート単体で比べればいまのハイエースバン・スーパーGLの後席のほうがずっと立派に見えるが、これでもバンではない、れっきとした乗用ワゴン用。
座れば見た目よりずっとかけ心地がいいのと、床も(乗り降りのしにくさはともかく)着座位置も高くて見晴らしがいいこと、柱が細くて窓が大きく、室内が明るいこと・・・これらの相乗効果で、素朴な見た目でも楽しさを感じる空間になっている。
なお、前回書いたように、2列目ドアはスライド式ではなくヒンジ式。スライド式の場合に対し、開口部と開いたドア前端がラップしないので、開口部を出入りにフルに使える。
それにしても、1~3列目、このクルマのすべてのシートは実にきれいだ。レストアの腕に称賛を送るべきだろう。

2列目シート。
2列目シート(別アングル)。
3列目シート。2列め写真とは別の写真だよ。

ドア内張り

・トリム

ドア内張りは、上下に鉄板が露出している、「ハーフトリム」「セミトリム」と呼ばれるタイプ。ライトバン由来のワゴンゆえだろう、トリム自体、当時のバン型でよく見る、何の飾りっ気もない平板なものだ。
操作部は前方にまとまっており、いちばん前からドア開のためのドアハンドル、ガラス昇降のレギュレーターハンドル、ドアを閉じるときにつかむプルハンドルの3つ。アームレストはない。ただ、どうもこのプルハンドルは別の車両のものを持ってきた可能性がある。何といったってレストア車だからね。

ドア内張り。
ドア内張り操作部。

空調/オーディオ

・空調

機能はヒーターのみ。見かけ上、計器盤上の操作パネルにたったの2本レバー。左レバーで内気循環か外気導入かを選択、右レバーで風の出口を選ぶ。その選択肢はくもり止めか室内送風かのふたつだけだ。ファンは右レバーつまみを引いて押してON/OFFとなる。
「見かけ上」と書いたのはその他の操作が別にもあるからで、風温調整はインパネ中央下のレバー上下で行ない、ペダルみたいなレバーを押し引きすると車両前部下のパネルが開閉し、本当にフレッシュな外気が取り入れられる。

空調パネル。機能はヒーターのみ。
温度調整は本体左のレバー上下で行なう。
走行風をダイレクトに行うためのレバー。このレバーの押し引きで足元から風の出入りをさせることができる。

・三角窓

外装の項で述べるべきと思いたくなるが、実は三角窓は立派な空調装置なのでここで。
昔はクーラーがない代わり、この三角窓の開閉で外気を取り入れていた。室内側にあるロックボタンを押してノブをひねると窓が回転開閉。三角ガラスを内向きにすれば夏の暑い時季でもクーラー要らずで涼しく過ごせ、外に向ければ負圧で換気ができるという寸法だ。だから三角窓は英語では「ventilation window・ベンチレーションウインドウ(換気窓)」と呼ばれる。「triangle window・トライアングルウインドウ」ではないのだ。
というわけで、初代ハイエースは、フレッシュ外気を取り入れる方法を、昇降ガラス、空調パネルレバー、計器下の押し引きレバー、三角窓、の4つを備えることになる。

三角窓。このように開いて換気。

・AMラジオ

空調とおんなじ写真をもういちど。上下に重なるうちの片方を撮ろうとしても、どっちみち他方が映ってしまい、結局は同じ写真になるため、両者ワンショットですませています。

で、ここで見てほしいのは上側のラジオ。
オーディオといっても、この頃はAMラジオがあればそれ以上は望まれない時代だった。高級車あたりになってやっとFM付きになる程度。
本体は、周波数をシームレスに選ぶ選局ダイヤルを左に、押してON/OFF、回転で音量調整をするノブが右にレイアウトされている。中央には赤い指針で選局周波数を示す窓とその下によく聞く局をセットできる5ボタン。局セットは、セットしたいボタンを引き出しておき、左ノブで選局したらボタンを押して完了・・・いまのひとには写真だけじゃあ、わっかんねえだろうなあ。

AMラジオ。「空調」と同じ写真だが、決して手抜きではありません。

・アンテナ

伸縮式ロッドアンテナは右フロントピラー部に沿って設置されている。アンテナといったらこれよ、これ! 屋根付き駐車場に入れるときや洗車時に引っ込めるのを忘れるとぶち折ってしまうので要注意!

伸縮式のロッドアンテナ。

トランク/収容スペース

・トランクルーム

同じ3列車の乗用型でも、いまのアルファードの様に過度な内張りがないので、荷室寸をフルに使うことができる。特に幅。デコやボコ、ヘンな曲面で構成されたトリムではないのでサイド壁面はまっ平。
3列目をたたんででんぐり返りみたいに向こうに押しやればさらに拡大される。

荷室(フル乗車状態)。
荷室(3列め格納状態)。

・バックドアはこう開く!

このクルマのバックドアは上下開き式。
上ドアは閉じた状態でも上ドアが半ドアを疑うくらい段差があるのがおもしろい。いまなら外装は面一(つらいち)に徹し、段差なんてもってのほか、ドア割線もきっちり詰めるのだろうが、そんな概念、この時代はなかったことがわかる。

上下開きのバックドア。
上ドアが浮いていますが、半ドアなのではありません。これでもきちんと締まっている状態なのです。

・グローブボックス

・・・は、ふたを開けるときっちり直方体形状になった収容部が顔を見せるタイプ。ふたと収容部が一体になったものがいまは多いが、あれは使いにくいと思う。グローブボックスは、ものを「放り込む」のではなく、ほんとうにボックス型のところに「置く」形のものがいい。
右に見えるのは発煙筒のホルダーだ。

グローブボックス(開)。
グローブボックス(閉)。

・アンダートレイ

ボックス下にはトレイが設置されている。給食のおぼんみたいにきっちり長方形をなしていて見るからに勝手がよさそうだ。

グローブボックス下のトレイ。

・灰皿

こちらもいまのクルマでは見なくなった。空調パネル下に設置されており、引き出して使う。引き出し量が少ない点ので使いにくそうだが、このクルマの場合は前席3人掛けで、その中央席のひとのひざに当たらないようにする配慮もしたのだろう。

灰皿。

というわけで、時代の名車探訪、初代ハイエース編はこれにておしまい。
次回は何を採り上げましょうかねえ。

【撮影車スペック】

トヨタハイエースワゴン デラックス(年式不明・RH11G 4速コラムシフト)

●全長×全幅×全高:4310×1690×1880mm ●ホイールベース:2340mm ●トレッド前/後:1255/1255mm ●車両重量:1280kg ●乗車定員:9名 ●エンジン:12R(水冷直列4気筒OHV) ●総排気量:1587cc ●最高出力:82ps/5400rpm ●最大トルク:12.5kgm/3000rpm ●燃料供給装置:キャブレター ●燃料タンク容量:45L

キーワードで検索する

著者プロフィール

山口 尚志 近影

山口 尚志