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2回目の開催となる『ジャパンモビリティショー』は
企業同士のビジネスマッチングを促したB to Bイベント
千葉県千葉市の幕張メッセを会場に2024年10月15日(火)~18日(金)にかけて『ジャパンモビリティショー・ビズウィーク2024』(以下、JMS2024)が開催された。このイベントは企業同士のビジネスマッチングを促したイベントであり、昨年開催された一般来場者を対象にした『ジャパンモビリティショー』(旧東京モーターショー)と1年ごとに交互の開催となる。
JMS2024はエレクトロニクス関連の展示会の『CEATEC』(シーテック)との共催となり、オンラインでの事前登録を行うことでどちらのイベントも無料で入場できる。会場となる幕張メッセ・ホール1のみをJMS2024、ホール2~8までをCEATECが使用する。JMS2024はB to Bイベントということもあり、東京ビッグサイトを会場とした昨年と比べると規模は小さく、展示車両も少ない。初日となる15日はCEATECがプレミアタイムということで、招待客とマスコミ関係者のみ入場が可能だったため、JMS2024の来場者も自動車産業に関係するビジネスマンが中心であった。
イベントの性格上、会場にはきらびやかな装飾やコンパニオンの姿はなく、スタートアップ企業による新技術の提案や大学などの研究機関の出展ブースが目立っていた。
BEVや自動運転に興味がないエンスーな筆者が注目したのは
スズキが出展した「牛のうんこで走る」ワゴンR
各ブースの展示は時世を反映して電気自動車(BEV)、水素エンジン、代替燃料などのカーボンニュートラルと自動運転関連の出展が目立つ。技術的には興味をそそられる出展が多いのだが、クルマに”FUN”な要素をただひたすらに追い求めて、これまでに大排気量の高級車や燃費極悪のスポーツカー、排気ガスの汚い旧車を好んで乗り回してきた筆者からすると情緒面で気を引かれるような展示はあまりなかった。
そんなJMS2024の会場で筆者の目を引いたのがスズキが出展した1台のワゴンRだった。よく見ると日本で販売されるワゴンRとは外観がかなり異なる。詳細が書かれた展示パネルを読むと「天然ガスとガソリンのバイフューエル仕様のインド市場向けワゴンR」と書かれていた。近くにスズキの説明員がいたので話を聞くと、ガソリンのほか牛糞由来のバイオガスでエンジンを始動させて走るという。つまりは牛のうんこで走るワゴンRということだ。
畜牛大国のインドは牛のうんこ大国でもあった!?
牛糞由来のバイオガスでクルマを走らせるスズキの取り組み
インドといえば国民の8割がヒンズー教徒というお国柄。ヒンズー教では牛は神聖な動物として崇拝されており、牛を殺すことは宗教上の禁忌とされ、食肉として供されることはないという。彼の国では牛は民衆によって大切に扱われており、牛と水牛を合わせると3億頭が飼育されているそうだ。これほどの数の牛が生息しているとなれば、1日に排出されるうんこの量も莫大なものとなる。スズキはこれを自動車用の燃料に使おうと目をつけたのだ。
燃料に使うバイオガスは生ゴミからも生成することができるが、牛は草食なのでうんこの内容物が安定しており、バイオガスを生産するのにも都合が良いらしい。もちろん、使ううんこは豚や鶏でもOKとのことだが、雑食な人間のうんこはあまり適していないそうだ。
スズキはバイオガス事業として燃料の精製も行っており、農家から牛のうんこを買い取り、回収した上でメタンガスとうんこの残り滓を仕分け、メタンガスは自動車の燃料として使用し、残りのうんこは有機肥料とする。1日に牛10頭が排出するうんこで小型乗用車を1日動かす燃料になるようだ。牛のうんこの売却益は農家の収入となり、それによって農村部の生活水準の向上にもつながるという。
ただし、事業採算性などの課題は少なくない。また、エネルギーの地産地消という観点から考えれば、牛のうんこを使ったバイオガス燃料は都市部での利用は難しく、農村部に使用エリアを限定しての普及となるだろう。
すでにインドで発売中の「牛のうんこで走るワゴンR」
日本国内でもうんこで走るクルマの実証実験が始まるゾ!
スズキの説明員からは話を聞くまですっかり忘れていたが、じつはこのワゴンRは前回のJMS2023に出展されたのと同一の車両だという。しかし、2年連続でのJMSへの出展ということで、何か動きがあるのかと聞いたところ、「じつはインドでの販売に続いて日本国内でも実証実験を計画しています」との回答が戻ってきた。詳しく話を聞くと酪農で有名な朝霧高原の農家と実験に向けて交渉を行っているという。
展示されていたワゴンRはインド仕様ということで、タンクの規格が国内の法規に対応しておらず、実験開始に当たっては国内基準を満たしたタンクへの換装といった車両の開発が必須となるそうだ。だが、農村部での実証実験ということなら軽トラのような軽商用車の方が適しているようにも思われる。そのあたりの疑問を口にすると「車両の選定を含めて現在検討中です。タンクにはさまざまなサイズがあるので軽トラに搭載することも技術的には可能ですよ」と話をしてくれた。
もちろん、必要量の牛のうんこが回収できるのは農村部、それも酪農が盛んな地域に限られるだろうが、全国的には北海道や東北、九州と酪農が盛んな地域は案外多いものだ。こうした地域におけるエネルギーの地産地消という観点で考えれば、牛のうんこを使ったバイオガスというのは利用価値が高いかもしれない。
BEVだけじゃないカーボンニュートラルの手段
カーボンニュートラルというととかくBEVに短絡されがちだが、取りうる手段は他にいくらでもあるのだ。実際スズキはバイオガスの他にもエタノール配合燃料やハイブリッド車(HEV)、BEVなどさまざまな燃料やパワートレインによってCO2排出を削減していく方針だという。筆者は「地球温暖化=CO2犯人説」を懐疑的に見ているのだが、それでもエネルギーの多様化は悪い話ではなく、産業廃棄物であった牛のうんこを自動車の燃料として有効利用しようという試みには賛辞の言葉を送りたい。
少なくとも内燃機関至上主義の筆者にとっては燃料が牛のうんこだろうと、エンジンが生き残るというのなら賛成の姿勢を取る。クルマの動力源がBEVやHEVに限られる夢も希望もない未来に比べれば、牛のうんこ由来のバイオガスを燃料とする内燃機関車が存在する未来は遥かに望ましく、バラ色の未来と言えるかもしれない。それがバラの香りではなく牛のうんこの匂いであるとしても、だ。