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MADE IN USA!マッスルカーの単純明快なカッコ良さ
そこにシビれる!あこがれるゥ!!
『バニシング・ポイント』『ブリッド』『バニシング in 60″』『ダーティー・メリー/クレイジー・ラリー』などなど、1960年代後半~1970年代半ばにかけて制作された「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれる一連の作品群に登場する主人公の多くがアウトローやアンチヒーローであり、映画の内容も反体制的であった。そして、それまでの“お上品”なハリウッド映画が扱おうとしなかった性とジェンダー・暴力・人種・宗教などをテーマに置いたところが斬新だった。
アメリカン・ニューシネマの中でも現代を舞台にした作品の場合、『バニシング・ポイント』のダッジ・チャレンジャー、『ブリッド』のフォード・マスタング 、『ダーティー・メリー/クレイジー・ラリー』のダッジ・チャージャーなど、映画の中で主人公が相棒としていたのが、いわゆる「マッスルカー」と呼ばれるパワフルなV8エンジンを心臓に持つ、迫力あるルックスを持つアメリカ製の2ドアスポーツクーペだった。
1970~1980年代にはTVのゴールデンタイムで各局連日のように洋画を流していたこともあって、カーアクションを売りにしたアメリカン・ニューシネマが放送されることも多く、当時少年期を過ごしたおじさん世代の中には、映画を通じてアメリカ車ファンになった人も少なくないだろう。
なんたってマッスルカーはカッコいい。アイドリング時にデロデロと低く唸るアメリカンV8は、アクセルをひと踏みすればスキール音とともにタイヤスモークをモクモクと湧き揚げ、グォオオオオという雄叫びを上げながら重い車体を一気に加速させて行くのだ。
マッスルカーのほとんどは直線番長で、コーナーリングの限界は低いが、映画の中ではその弱点を逆に生かし、すべてのコーナーを豪快なパワードリフトで駆け抜けて行く。そんな野獣を思わせる暴力的かつ迫力のある熱い走りを披露するマシンに与えられたスタイリングと言えば、デカくて派手で豪快という子供でも分かりやすい単純明快なわかりやすい魅力がある。
いやはや、これをカッコ良いと言わずして何をカッコ良いと言うのだろう。三つ子の魂百までの言葉の通り、筆者は幼少期に映画で見たアメ車にすっかりやられてしまい、五十路を過ぎた今でもアメ車が好きで好きでたまらない。
デカくて派手で豪快!大排気量V8の心臓こそ正義!!
こまけぇこたぁいいんだよ!!
そんな「趣向は子供、身体は大人」な筆者のようなノーテンキなおっさん連中が世の中には結構いるようで、2024年10月20日に「お台場ウルトラパーク」で開催された『Super American Festival 2024 at お台場』(以下、アメフェス)には、多くの台数のマッスルカーがエントリーしており、終日マシンのまわりを来場者が囲んでいた。
実際、エントリーしたマシンのバリエーションは豊富だ。会場に並んだマッスルカーは、アメ車イベントでは定番の往年のフォード・マスタングやシボレー・コルベット、カマロなどの人気車種はもちろんのこと、1967年型シボレー・ノヴァ・スポーツクーペSS、1970年型フォード・トリノGT、1968年型ダッジ・チャージャーR/Tなどマニアックなクルマの姿も見える。おおっ、あそこにあるは1967年型プリマスGTXじゃないか! あっちには元祖マッスルカーの1966年型ポンティアックGTOの姿もあるゾ!
もちろん、5代目や6代目マスタングや6代目カマロ、最新型のコルベットなどの2000年代以降の新世代マッスルカーのエントリーのほうが台数的には多く、それはそれで溢れんばかりの魅力があるのだが、やはりマッスルカーと言えば1960~1970年代のファーストジェネレーションにトドメをさす。
視覚的なアピアランスを何よりも重視し、空力など無視したかのような押し出し感のあるスタイリング。燃費などおかまいなしのパワーを追求した大排気量V8、デカくて迫力あるボディサイズ……何もかもが最高だ。パワーが欲しいなら燃焼効率など細々したことを考えるより大排気量のV8エンジンを積む。デカイエンジンを積んだのだから燃費のようなつまらないことは考えない(巡航時のアメ車の燃費は排気量の割に良いのだが)。長距離を快適に移動するためにはデカイボディの方が良いに決まっている。これこそがアメリカ流の伝統的なクルマの価値観なのである。
エコも燃費も気にしない!! 楽しめるうちにマッスルカーに乗っておけ!!
最近はマッスルカーの母国アメリカでもCAFE規制なる燃費規制のせいで、SUVやピックアップトラックを除くとアメ車はボディサイズをシュリンクし、排気量も小さくなってしまった。伝統のV8エンジンも乗用車では設定がすっかり少なくなった。だが、アメ車が直4やV6なんてみみっちいエンジンしか積まなくてどうする。
ましてやハイブリッドやBEVなどまったくもって不要。そんなつまらないクルマは日本や欧州にでも作らせておけば良いのに……と、極東の島国に住むいちアメ車ファンとしては思う。思うのだが、どうにも「時利あらずして騅逝かず」と言った感じで、こんなマニアの戯言に賛同してくれる人は少なく、筆者のようなオールドスクールな人間にとっては、すっかりつまらない世の中になってしまった感がある。
21世紀に復活した新世代のマッスルカーも社会的な圧力に屈してボチボチ終焉を迎えようとしている。世界的なクラシックカーブームにより、1960年代~1970年代にかけて生産されたファーストジェネレーションのマッスルカーも今やすっかり高騰してしまったが、それでも一生添い遂げる気があれば、庶民でも無理を重ねれば買えないことはないだろう。
欲しい人は憧れだけで終わらせることなく、今のうちに欲しいクルマを買っておいて、大いに楽しんでおくことをオススメしたい。今後、大排気量のV8エンジンを搭載したマッスルカーが作られることはないだろうし、いつまでそれを楽しめるかはわからないのだから……。