誰が見てもソアラになるデザインエッセンス再検証・3本ピラーの上方一致とサイドガラスの6:4比率【時代の名車探訪 No.1-8 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・デザイン編】

新年3日め。
今年2025年も残すところ、今日を含めてあとわずか363日となったが、みなさんいかがお過ごしだろうか。
と、とぼけて昨日とおんなじあいさつ文で、時代の名車探訪・初代ソアラの話を続けていく。
今回はガラにもなくデザインのお話。
初代ソアラに採り入れられたデザイン要素ふたつについて、写真の上で検証していく。

TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)
PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/モーターファン・アーカイブ

誰かがやらなきゃわからない! ソアラデザイン、ふたつの要素の真偽のほどを確かめる

今回はこの「名車探訪」ソアラ第1回の続き。

エクステリア説明の「真横」の項で、

「サイドから見たときのソアラには独自のスタイル理論があり、ひとつはドアガラスとリヤガラスの比率が6:4であることと、フロント、センター、リヤピラーを上方に延長するとひとつの点で交わる。」

と書いた。

これを私も何かで読んだか聞いたかで知っており、その目で見れば確かにそう思えるのだが、あくまでも写真なり実車なりでそう感じていたまで。6:4比率はともかく、ピラーの延長一致はいつか試したい気分でいた。

というわけで、この理論がほんとうかどうかを確認してみよう。

80年代の幕開けに現れたトヨタの走る技術のショールhttps://motor-fan.jp/mf/article/283624/ーム・初代ソアラを再検証【時代の名車探訪 No.1-1 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・概要&外観編】1

検証1・フロント、サイド、リヤピラーの上方一致

方法は大したことはない。

ソアラのサイド写真を、フォトショップの必殺素人加工するのだ。
具体的には3本の柱に線を重ねて上に延長し、ほんとうにある1点で一致するかどうかを見ればいい。

使う写真は前にも出したこの写真だ。

同じ写真をもういちど。

これをフォトショップで開き、その中で線を重ねていく。

ここから先は、写真のずら並べで説明していく。

煩雑にならないよう、ソアラ以外の背景に色づけしましょうか。
フロント、サイド、リヤピラー部を拡大。
フロントピラーに線を重ねて上方延長。
同じようにセンターピラーにも線を与え、
リヤピラーにも線を重ねたその先が・・・
ひとつの点で一致することがわかる。
上方一致の理論は正しい。まあ、ここまでのことをしなくとも見ればわかるのだが。

VIPセダンでしかなかったセンチュリーがSUV型になってもセンチュリーであるように、同じ手法をソアラで採り入れてみたらどうなるか興味がある。
SUV型になると柱はひとつ増えるし、ガラス構成も変わってくるが、4つの柱のうち前側3本を同じ考え方で角度を与えたら、たとえ背高SUVボディになってもソアラになるかどうか・・・今年2025年のモビリティショーあたりにコンセプトモデルとして展示したらさぞ注目されるだろう。

検証2・サイドガラス前後の6:4比率

モーターファン1981(昭和56)年5月号の「ソアラ特集」の中に、おそらく当時のトヨタが用意したソアラのサイド視と上面視の図が載っかっていたので引っ張り出してきた。ページ写真をそのままここに載せている都合上、少々表面がざらついていてきれいではないが、ご勘弁のほどを。

モーターファン1981年5月号に載っかっていたソアラのサイド視&上面視図面。

お話戻って、フォトショップ上でこの絵の両ガラスの下辺長さを測ったところ、フロントガラスは75.0、リヤサイドガラスは44.0だった。

フロントドアガラス、リヤサイドガラスの下辺を測ったらこのように。

当時のソアラ線図はたぶん図面を外部資料用に提供されたもので、方眼模様は前輪中心を0起点とする番線。ひと正方形当たりの長さは100mmだと思うが、ここではあくまでもフォトショップ画面上での計測であることから、数字そのものは単位を無視してほしい。

さて、フロント75.0とリヤサイド44.0は、比率にすると・・・

75.0 : 44.0 = 7.5 : 4.4 ≒ 8 : 4

・・・・・・・・・。

おおよそ6:4からほど遠い数字である。

実は私はサイドガラス前後の6:4比率は、勝手にウエストライン前後長さの比率だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。となると、比率の6:4は面積のことかも知れない。

というわけで、面積で考えることにした。

とはいえ、ガラスの面積を測るにはどうしたらいいものか。
ガラスが内包する正方形の数を数えるのは簡単だが、半端な部分の合計がいくつになるのかという問題が生じる。ここではおおよその比率が出せればいいとはいえ、見た目で面積を決めるのは乱暴に過ぎる。

よく見ると、ソアラのサイドガラスは、幸いにして前後とも割と単純な台形になっている。しかも上辺と下辺は平行に近い。
ここは各ガラスを単純な台形ふたつとみなし、それぞれの面積を割り出して見ることにした。

台形の面積を求める公式は、みなさん小学校の算数の時間で習いましたね。

台形の面積 = (上底 + 下底) × 高さ × 1/2

下辺の長さはさきの勘違いのときに計測済み。

上底と高さを求めたら図のようになった。
高さは前後とも同じにしておいた。

6:4比率というのはどうやら面積のことではないか。というわけで、サイドの前後ガラスを台形とみなし、各部寸法をフォトショップ上で出したのがこれらの数字。

これで計算してみる。

<フロントドアガラス面積>

(37.0 + 75.0) × 22.0 × 1/2 = 112 × 11 = 1232

<リヤサイドガラス面積>

(21.0 + 44.0) × 22.0 × 1/2 = 65 × 11 = 715

何だか数字がきれいになって出来レース臭いが、ほんとにそうなったのだから仕方ない。

で、比率を計算してみると・・・

1232 : 715 = 616 : 358 = 6.16 : 3.58 ≒ 6.2 : 3.6

これをさらに四捨五入して・・・

6.2 : 3.6 ≒ 6 : 4

・・・・・・・・・。

ますます出来レース臭くなって怪しい香りがぷんぷんに漂うが、そうなってしまったものは仕方ない。

初代ソアラのサイドガラスの面積比率が6:4であることの証明ができたことを認めていただく優しさを、読者のみなさん、およびトヨタ関係者の方々に求めたいと思う。

デザイン解説

こんな素人技検証でおしまいにするのもどうかと思うので、素人ついでにデザイン解説も簡単にしておく。

ソアラ解説第1回で書いた、「初代セリカXXの後継的役割」とはあくまでも私見。元来ソアラは「完全4人乗りノッチバッククーペ」として企画された。

後から出る2代めセリカXXがリフトバックであることもあり、ソアラでは当初から明快な4シーター・ノッチバックで計画された。たぶんこの時点で意識はしていないと思うが、イメージスケッチの初期段階から3本柱の上方一致や6:4比率を志向している。

ヨーロッパ市場で巡行200km/hをめざしたこともあり、デザインにはこの頃まだ注目されていなかったエアロダイナミクスの向上に重点が置かれている。

得られた空気抵抗係数=Cd値は0.36。

当時としては優秀な数値だが、この0.36を達成したポイントには次の点が挙げられる。

・エンジンフードの前傾。
・フロントウインドウとリヤウインドウをより傾斜させた(フロントは30°)。
・フロントの平面絞り(片側30mm)。
・トランクリッドを可能なかぎり水平にしてリッド後端をつまみ上げた形にヒップアップさせ、前方からの風の整流と揚力の低減を図った。
・フロントランプとコーナーランプ(車幅灯)を面一化すると同時にコーナーのRを大きくとった。
・ラジエーターグリルの開口部を最小現認して通風抵抗を低減した。
・プレスドアの採用。Aピラーとガラスの段差を小さくして空気の剥離を少なくした。

空力対策として細かな策は他にもある。

ひとつはGTおよびGT-EXTRAに限られるが、フロント裾に設けられたバンパーエクステンションで、リフト防止に効果的だという。
縁石との干渉に配慮して40mmの高さにとどめられたというが、その制約がなければ裾はできるだけ長いほうがいいらしい。

GT、GT-EXTRAに限られるが、フロント下に与えられたバンパーエクステンション。フロントのリフト防止のためのものだ。

リヤサイドガラスの上げ下げをやめ、はめ殺しにしたのも大きい。
この形で昇降機構を設けようとするとセンターピラーやリヤピラーが太くなるし、各ピラーを細くして軽快感のあるキャビンを狙ったのでなお太くしたくなかったと。

はめ殺しリヤサイドガラスも空力効果向上のひとつ。

現在の目で見るとかなりボクシーなデザインで、空力に主眼を置いたスタイリングには見えないのだが、Cd値0.36達成にはこういった細部の対策の積み上げがものをいっているのである。

ところでノッチバックはファストバックに対して空力的には不利な形だ。だが、前述したように、ソアラはあくまでも「完全4人乗りノッチバッククーペ」。その制約の中でどこまで高い空力特性が得られるかがソアラデザインの挑戦でもあった。

したがって、エアロダイナミクスを主眼にデザインされており、今回の記事のために何を調べても、6:4比率や3本ピラーの上方一致の要素は話のどこにも出てこない。この2点は2代目にも受け継がれたとソアラ解説第1回で書いたが、思うにこの2要素はむしろ2代め開発への胎動期ににわかに意識され、後付けで生まれた理論なのではないだろうか。

というわけで、ソアラのデザイン検証はここまで。

もうちょっとだけ、ソアラの話は続けます。

【撮影車スペック】

トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック)

●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)

キーワードで検索する

著者プロフィール

山口 尚志 近影

山口 尚志