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ランボルギーニのDNAを受け継ぐもの、伝統にプラスするもの

ランボルギーニ「テメラリオ」は4.0L V8ツインターボに3つのモーター(フロント2基+リア1基)を組み合わせ、システム最高出力920PSを発生させるプラグインハイブリッドスポーツカーだ。従来のV10ミッドシップモデル「ウラカン」の後継車となる新世代ベビー・ランボである。
そのデザイン言語を、デザインディレクターのミッチャ・ボルカートは「エッセンシャル&アイコニック」と表現する。「それは我々ランボルギーニのデザインDNAを受け継ぐものだ」

キャビンを前進させつつ、強く傾斜したウインドシールドがフロントフードに滑らかにつながるシルエット。そして、これまた強く傾斜したサイドウインドウと、その後方のワイドでマッシブなリヤフェンダー。カウンタックから変わらぬ要素が、ひと目でそれとわかるランボルギーニらしさを醸し出す。

その一方、「今回、非常に大事にしたのはヘキサゴン形状だ。遠くからでも認識しやすいので、クルマのあちこちにヘキサゴンのテーマを使った」とボルカート。なるほどフロントのDRL、リヤのテールランプやエキゾーストフィニッシャーはヘキサゴン=六角形だ。「サイドのエアインテークにも、ヘキサゴンのテーマを見ることができる」。インテークは上下のラインをV字でつないだ形状だが、これはヘキサゴンの半分というわけだ。

ちなみにエキゾーストフィニッシャーは、リヤエンド中央の高いところにある。その下には空力技術を駆使したディフューザー。「モーターサイクルのモトGPにインスピレーションを得たデザインだ」という。

ヘキサゴンやモトGPは、これまでのランボルギーニのデザインにはなかった要素。そこに、ただ伝統を進化させるだけでは終わらせなかったボルカートの、熱い思いが見てとれる。

始まりはBEVコンセプトカー「テルツォ・ミレニオ」から
ミッチャ・ボルカートは1974年生まれのドイツ人。1999年にポルシェに入社し、2012年から先行デザイン部長、2014年からエクステリアデザイン責任者を務めた後、2016年にランボルギーニのデザインディレクターに就任した
量産ブランニューでは2023年のレヴエルトがランボルギーニにおけるボルカートの第一作目だが、それよりずっと早く彼のデザインが登場していた。ランボルギーニが米国マサチューセッツ工科大学=MITの協力を得て開発し、2017年11月のエムテックという技術会議で発表した「テルツォ・ミレニオ」だ。

テルツォ・ミレニオはBEVスーパースポーツのコンセプトカー。電池ではなくMITと共同開発したスーパーキャパシタを使い、4輪のインホイールモーターを駆動する。ボディはフルカーボン製で、空力を追求しながらも次世代ランボルギーニに向けたエモーションを掻き立てるデザインと説明されていた。
テメラリオの発表会でボルカートに「テルツォ・ミレニオに通じるものを感じる」と声をかけると、笑顔で「良い眼を持ってるね」。そしてこう続けた。
「当時はランボルギーニに来てまもない頃だったので、数年後に向けたデザイン・ビジョンを示す機会としてテルツォ・ミレニオを使った。例えば前後ランプのY字シェープは後のレヴエルトに採用したし、エッセンサSCV12(2021年発表の40台限定サーキット専用車)にもいくつかの要素を活かした」

「テメラリオでテルツォ・ミレニオのデザイン言語を使ったのは、リヤフェンダーのボリュームと・・」とボルカートが語りかけたところで、「サイドのエアインテークもですよね?」と突っ込んでみた。
特徴的なV字を描くインテーク。Vの角度は違うが、共通性はある。前述のように、ボルカートはテメラリオのそれを「ヘキサゴンのテーマを表現する要素」と紹介していたわけだが・・。
「イエス。ヘキサゴン型のグラフィックスもテルツォ・ミレニオから影響を受けている。リヤ回りの動感の表現やリヤエンドの立体的な造形も含めて、今回はテルツォ・ミレニオの要素をより積極的に活かした。テルツォ・ミレニオは来るべきデザインを約束するものだったのだ」

過去のデザイン要素もミックス、ファンが楽しめるヒント
往年のカウンタックはカーデザイン史に燦然と輝く名作であり、そのデザインDNAはその後のランボルギーニにいつも活かされてきた。しかしボルカートはこう語る。
「カウンタックのデザインは、カウンタックを成功させただけでなく、もっと先にあるよりエレガントなデザインを予見させるものでもあった。そこで今回のテメラリオではカウンタックを目指すのはやめて、クリーンなデザインを追求することで、カタチに『ランボルギーニだ』と語らせたいと考えたのだ」

レヴエルトに比べると、確かにテメラリオのフォルムは要素が整理されてクリーンに見えるし、アグレッシブさは控えめだ。ただそれは、ガヤルド、ウラカン、テメラリオという、いわゆる「ベビー・ランボ」の系譜に共通するものにも思えるが・・。問い返すヒマもなく、ボルカートが続ける。
「もちろん過去のレジェンドの要素も少しミックスした。例えばサイドのエアインテークはガヤルドと同じ位置にある。デザインするときに過去を振り返りたくはないけれど、皆さんが楽しめるようなヒントを込めたいとは考えている。ジャーナリストもエンスージアストも、ランボルギーニのことをよく研究しているのは私も知っているからね」

発表会のステージには、ボディカラーが違う2台のテメラリオがあった。ボルカートによれば、「発表に向けて用意した2色だ」とのこと。グレイがかったブルーについては「とてもエレガントでクールな色で、どちらかと言うとデザイナー・カラーだ」と告げ、グリーンは「ファンのための色」と語った。

歴代のランボルギーニにグリーンがたびたび採用されたのは確かだが、熱心なファンなら1968年にマルチェロ・ガンディーニが手掛けたアルファロメオ・カラボを想起するかもしれない。ガンディーニはこのグリーンのショーカーからウエッジシェイプの探求を始め、カウンタックのデザインに行き着いた。知る人ぞ知るエピソードだが、テメラリオのグリーンを見てそんな話をするのもファンの楽しみ方に違いない。