バイクのヤマハが半導体装置を作る理由は?ロボティクスで“第3の柱”を狙う

バイクやマリンで知られるヤマハ発動機が、次なる成長分野として本格的に踏み出したのが、半導体の後工程製造装置事業である。2025年7月に発足する新会社「ヤマハロボティクス株式会社」は、グループ3社を統合して誕生する装置メーカーだ。精密制御やロボティクスの強みを生かしながら、2030年代初頭には売上高1,000億円規模を目指すという。同社の構想と戦略を読み解く。

ヤマハロボティクス、装置業界の勢力図を塗り替えるか

バイクやマリン製品で知られるヤマハ発動機が、近年その存在感を高めている分野がある。半導体の後工程における製造装置事業だ。2025年7月、同社はその事業を一段と強化すべく、完全子会社であるヤマハロボティクスホールディングス(YRH)とその傘下3社を統合した新会社、「ヤマハロボティクス株式会社(YRC)」を発足させる。

新たなYRCは、YRHおよびその子会社である新川、アピックヤマダ、PFAの3社を一体化した組織であり、設計・開発から製造、販売、アフターサービスまでを一貫して担う体制を整える。従来は別会社として運営されていた装置メーカー同士の連携を深め、クロスファンクション型の経営を実現することで、事業効率と競争力を飛躍的に高める狙いがある。

今回の統合は単なる経営合理化ではない。ヤマハ発動機はYRCを「バイク・マリンに次ぐ第3の収益の柱」と位置付けており、極めて戦略的な意味を持っている。実際、同日発表された中長期経営計画では、2027年度中に売上500億円以上、さらに2030年代初頭には売上1,000億円規模へと成長させる明確な目標が掲げられている。

YRCが取り組むのは、半導体製造のうち主に「後工程」と呼ばれる領域だ。ウエハー処理などを担う前工程に対し、後工程ではダイの接合(ボンディング)、モールド(樹脂封止)、組立、最終検査といった工程が行われる。これらはいずれも高い精度と効率性を求められる分野であり、製造装置の性能が製品の歩留まりや信頼性を大きく左右する。

YRCは、こうした後工程に必要な各種装置をフルラインで自社内に持つという点で、業界内でもユニークな存在だ。SMT実装機(チップマウンター)を中心とするヤマハ発動機本体の技術と、子会社3社の専門分野──新川のボンディング技術、アピックヤマダのモールド装置、PFAの検査・組立装置が結集することで、顧客に対して“ワンストップソリューション”を提供できる体制が整った。

さらに、同社はこの統合を機に、新たな製品プラットフォームの導入も加速させる。従来は個別に開発されていた装置群を共通アーキテクチャで再構築し、汎用性と拡張性に優れた製品群として展開する構想だ。これにより開発のスピードアップ、コスト削減、保守性の向上が期待される。あわせて、先端半導体や車載用途といった成長領域への集中投資も行い、収益性の高い新市場の獲得にも力を注ぐ。

グローバル展開も計画の柱である。すでに韓国やベトナムには拠点を展開済みだが、今後はインドを新たな市場と捉え、販売・サービス拠点を設置する予定だ。生産・開発拠点と密に連携した営業体制を構築し、地政学リスクにも強いグローバルサプライ体制を整備する構えだという。

人材面でも強化が進む。YRCでは採用から教育、現場での活躍支援に至るまで、人材戦略を中核に据える。クロス部門でのジョブローテーションや、グローバル拠点での実務経験などを通じ、技術・企画・営業の垣根を越えた“多能工型人材”を育成することが、競争優位の鍵になると位置付けている。

ヤマハ発動機は、バイクや船外機といったハード製品のイメージが先行する企業だが、その内側には精密なモーションコントロール、ロボティクス技術、ソフトウェア開発力といった“技術の厚み”が確かに存在する。YRCの創設と今回の計画は、それらの資産を活用しながら、世界の半導体製造の現場に“ヤマハ品質”を届けようとする挑戦に他ならない。

2030年代に1,000億円企業を目指すこの道は、容易なものではないだろう。しかし、後工程の高度化と自動化が求められる時代において、精密機械と制御技術を熟知したヤマハ発動機グループのアプローチには、独自の強みとポテンシャルがある。新たなモノづくりのかたちを提示するその歩みに、今後も注目が集まるはずだ。

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