雪上なのに自由自在! 電動AWDの恐るべきポテンシャルを体感【スバル・ソルテラ(試乗インプレッション)】

スバル・ソルテラ
スバル・ソルテラ
発売前のニューモデルの試乗会といえばサーキットやテストコースが定番。しかし、スバルがソルテラ(プロトタイプ)の試乗会に選んだ舞台は雪上だった。なぜ、わざわざ雪の上で? そんな疑問は、ソルテラで走り出したら消えていった。スバルの制御技術が盛り込まれた電動AWDは、グリップの低い雪上でその真価を発揮した!

TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto)

サスペンションの動きは滑らか、乗り心地も快適

 スバル・ソルテラのプロトタイプ実車レポート第5回目は、いよいよ雪上インプレッションをお届けする。

 試乗会場は、群馬サイクルスポーツセンター。周囲にはスキー場が点在する積雪地帯にあるため、雪上走行には適地だが、この冬は雪が多く、コースの両側には70cmぐらいの雪壁ができていた。

スバル・ソルテラ
雪上試乗で用意されたのはソルテラのAWD仕様。試乗日前日に大雪が降ったため、コースは除雪されていたものの、両脇には雪の壁ができていた。

 乗車して最初に気付いたのが、ステアリングヒーターのありがたさ。体が寒いのは着込めば何とかなるが、スイッチ操作もする指先はそういうわけには行かない。寒い朝でも暖機することなく走り出すには絶好のアイテムであるのに加え、空調に頼らず暖を取れるので、電力消費も少なくて済む優れものだ。

スバル・ソルテラ
ステアリングヒーターのほか、前後シートにもヒーターを採用する。直接温調によって実用航続距離を伸ばす狙いもある。

 シフトセレクターはダイヤル式で、下に押しながら右に回せばDレンジ、左に回せばRレンジ。わかりやすいし、うっかり手が当たってレンジが変わるということがないのは良いのだが、ダイヤルがツルッとしているので、操作性が良いかというとやや疑問。指が引っかけられる突起が欲しい。

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右に回すとDモード、左に回すとRモードと簡潔に操作できるダイヤル式シフト。

 Dレンジをセレクトしてアクセルをそっと踏むと、ソルテラは音もなく走り出す。小径ステアリングや独特なメーターパネルも違和感はない。

 慣熟走行のため、先導車に続いてコースイン。路面は新雪を除雪車が踏み固めたというコンディションでけっこう凹凸があるが、サスペンションの動きは滑らかで、乗り心地は快適だ。バッテリーパックで補強された床の硬さと、相対的にバネ下が軽くなっている効果と思われる。大きく荒れた部分では、260kPaという高めのタイヤ空気圧を感じることはあるものの、それとて不快なレベルではない。

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踏み固められた雪でできた凹凸を乗り越える際の車体の動きはスムーズ。

 コースは必要な部分しか除雪されておらず、狭いところは両側30cmぐらいしか余裕が無いところもある。先導車から無線で「直線では40km/hぐらいまで出せます」と言われたけれど、とてもそんな気にはなれないコンディションだ。

 ところがフリー走行を開始してみると、ソルテラの頼もしさが徐々に分かってきた。雪上であるとは思えないくらい、アンダーステアが出ないのだ。むしろオンロードでソルテラよりアンダーステアを感じるクルマはいくらでもある。これは前後のモータートルクを自在に制御できる電動AWDと、スバルが長年培ってきた運動性能制御技術があればこそ。それほど大きな横Gは出せないとは言え、下りコーナーの進入では、低重心であることも感じられる。

スバル・ソルテラ
路面状況に慣れるにつれて徐々にペースアップ。すると、ソルテラの素性の良さがはっきりとわかってきた。

 最初はドライブモード(X-MODE)を「SNOW/DIRT」にして走行してみたが、必要なときには素早く制御が介入するため、進路はほとんど乱れない。装着されていたブリヂストン・ブリザックDM-V3のグリップ力も信頼感が高く、保舵力が抜けるようなことはほとんどない。

スバル・ソルテラ
ドライブモードとX-MODEのスイッチはシフトダイヤルの左に配置。
スバル・ソルテラ
X-MODEを作動させるとメーターに反映される。

 次第に「これは大丈夫そうだ」とわかってきたので、コーナーの立ち上がりで強めにアクセルを踏んでみたが、慌ててアクセルを戻すようなことにはならず、踏んだまま最小限の修正操舵で済ませることができた。

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グリップが低い路面でも意のままに操れる。気がつけばメーターは制限速度の50km/hを示していた。

 速度が上げられるのは、乗り心地の良さの表れでもある。単に振動の収まりが良いだけでなく、ピッチングが最小化された前後バランスのおかげで、荒れた場所を通過しても視線のブレが少なく、正確な操作が続けられるのだ。

 2周目はアクセルペダルで減速Gがコントロールできる「Sペダル」を試してみる。これはX-MODEとの同時使用はできないようになっているため、トラクションコントロールの制御は雪道モードにはならない。

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ダイヤルシフトの右に配置されたSペダルのスイッチ。アクセルペダル一つで速度をコントロールできるのは雪道でもメリットとして感じられた。

 なので、最初は少し探るように走っていたのだが、回生ブレーキは雪道でもグリップを失うほど強くはないし、ESCの介入具合がX-MODEより少し遅くなるのは、僕の運転スタイルには合っており、むしろ安心して楽しく走ることができた。

X-MODEの「グリップコントロール」は初心者お助け機能

 続いて試乗エリアを移動し、新たに設定された「グリップコントロール」という機能を試す。車輪が浮き上がるような悪路でも、車速をセットすればアクセルやブレーキを操作することなくその速度が維持されるもので、いわば微低速クルーズコントロールシステムだ。車輪が浮いたりスリップしたりすると、空転した車輪にブレーキがかかり、デフの差動を殺して前進を維持してくれる。

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車輪が浮くモーグル状のコースでグリップコントロールをテスト。X-MODEに初採用された新機能だ。

 設定されたコースは、金属製のスロープを組み合わせて対角の車輪が浮くようにしたものだが、少しでも車輪が空転すれば、即座にブレーキが介入してグリップを回復。ドライバーはステアリングだけ操作してラインが乱れないようにしていれば、あとはクルマが助けてくれる。

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このような状態でも、グリップコントロールに任せておけば不安なく走破可能だ。

 確かに便利な機能ではあるが、グリップコントロールを選択しない状態でも、トラクションコントロールの制御が優秀だし、モーターならではトルク制御のしやすさも相まって、僕にはあまり必要性は感じられなかった。悪路走行に慣れている人なら、クルマが勝手に走ってしまうより、自分でコントロールしたほうが安心できるだろう。とはいえ、スキルの低い人がスタックしかかったときなどに、非常用として使うには便利な機能だ。

スバル・ソルテラ
メーターにはグリップコントロールの作動状況が表示される。
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スバル・ソルテラ(FWD車) 諸元表 ※[ ]内はAWD車

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
室内長×室内幅×室内高:1940×1515×1160(ノーマル/ソーラールーフ仕様)/1145(ガラスルーフ仕様)mm
車両重量:1930kg〜[2020kg〜]
乗車定員:5名
最小回転半径:5.7m
最低地上高:210mm

■パワートレーン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:フロント150kW
モーター最高出力:フロント150kW[フロント80kW/リヤ80kW]
モーター最高出力(システム):150kW[160kW]
総電力量:71.4kWh
総電圧:355V
一充電走行距離(WLTCモード):530km前後[460km前後]
AC充電器最大出力:6.6kW
DC充電器最大出力:最大150kW

■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/60R18[235/60R18または235/50R20]
ステアリング:ラック平行式電動パワーステアリング
※日本仕様、社内測定値

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…