目次
デザインの素性がいいから、カラーコーディネーションが生きる
2015年に現行ND型になったマツダ・ロードスターは、2021年12月16日に何度目かの商品改良を行なった。改良のポイントはいくつもある。車体姿勢制御面での改良のポイントは、KINEMATIC POSTURE CONTROL(キネマティック・ポスチャー・コントロール:KPC)を適用したことだ。リヤサスペンションのアンチリフト特性を活用し、旋回時に微小な制動力をかけることで、車体の浮き上がりを抑え、ロードスターの持ち味である「意のままの走り」を高める技術である。KPCは全モデルに適用される。
NDロードスター最軽量となる990kgの車両重量を実現した「990S」が特別仕様車として追加されたのもポイント。ソフトトップ仕様には、ダークブルーの幌と黒本革内装を組み合わせた特別仕様車の「Navy Top」が追加され、リトラクタブルハードトップを備えるRFには、テラコッタ内装色を採用した新機種の「RF VS Terracotta Selection」が追加された。
優柔不断だなと思われるかもしれないが、どれもいい。何を優先するのか、相当な覚悟を決めないと1台に絞り込むのは困難だ。それに、ロードスターは相変わらず魅力的である。デビューから7年を経過するのに一切新鮮味を失っていないのは、デビューした時点でデザインの完成度が高かったからだろう。商品改良というとバンパーやグリルのデザインを変更して印象を変える手法が見られるが、ロードスターはそれをやらない。色や素材の組み合わせで新鮮さを打ち出しているのが特徴で、それができるのはやはり、ベースのデザインが優れているからだろう。手を加えただけ、バランスは崩れてしまうのだ。いちロードスターファンとしては、「安易に変えてほしくない」という気持ちもある。
「NDロードスターはカラーコーディネーションだけで新しい世界観が表現できるのがいいところです」と、2019年にロードスターの主査(開発責任者)に就任した齋藤茂樹氏は言う。「ロードスターはデザインを変えず、カラーコーディネーションだけで世界観を変えることができる。ベースのデザインが素晴らしい。中山(雅氏。NDロードスターのチーフデザイナー。現デザイン本部長)がいい仕事をしたとのだなとつくづく思います。いまとなっては、このデザインを大事にし、最後まで貫きたいと思っています。下手にいじると崩れるだけですので」
次はどんなコーディネーションを出してくるのか。そう期待して待つのも、ロードスターの商品改良の楽しみだ。オープンカーのロードスターはボディカラーやトップの色だけでなく、内装も含めて上手にバランスさせる必要がある。「毎回苦労しています」とは、カラーデザイン担当者の弁だ。テラコッタのナッパレザー内装は展示車両で確認した。やわらかく、かつ上品な印象を受けた。
今回の商品改良では新しいボディカラーも追加された。プラチナクォーツメタリックで、これも上品。彩度を抑え、シャープさを出し、陰影感を重視したという。光のあたりかたや周囲の明るさによって、シルバーっぽく見えるときもあれば暖かみのある表情を持つこともある。ベージュ系、シャンパン系の色を採用するとトロっとした甘い感じになりがちだが、そういう方向は狙わなかったという。Sレザーパッケージ/黒レザー内装/6MTの組み合わせで試乗したが、走り味も含め、精悍さと大人っぽさがほどよく同居している点に感心した。
990S 軽さは正義だ
なんといっても注目は、「軽いことによる楽しさ」を追求した990Sだろう。「NDロードスターで1トンを切るために、開発者の知恵と努力を注ぎ込んだ」特別仕様車だ。RAYS社製鍛造16インチアルミホイールの採用で1本あたり800g(4本で3.2kg)の軽量化を果たしたのが大きい。フロントにBrembo社製ベンチレーテッドディスクを採用してロゴをブルー文字に塗装したのに加え、エアコンルーバーのベゼルやフロアマットにブルーの差し色を入れたのは、爽快感やピュアなイメージを表現するためだという。
実は、1トンを切るグレードがあるのは日本だけだ。そもそも、990Sのベースとなる「S」グレードの設定からして日本だけである。Sグレードは軽量化や軽快感などを重視してリヤのスタビライザー(アンチロールバー)が未装備となっている。海外ではリヤスタビなしの仕様はなく、前後にスタビライザーを備えたSスペシャルパッケージの脚がベースになる。
SはLSDも搭載しておらず、オープンデフだ。これまで、「Sはエントリーグレードのように見られることがあった」というが、実体はそうではない。「NAロードスター(初代ロードスター)のようなヒラヒラ感を最新の技術で再現したのがS」、そのSをベースに「軽いことによる楽しさ」を追求したのが990Sで、「ヒラヒラした感じを光り輝かせるグレード」と齋藤氏は説明する。
990Sはサスペンションも変えている。「今までのロードスターはコンプレッション(縮み側)のバランスでいうと、テンションがち。つまり、伸びにくくして沈める方向でした」と操安性能のスペシャリスト、梅津大輔氏は打ち明ける。「それだとちょっと乗り心地がきついので、テンションを抜いてバランスをとっています。具体的には、ベースのSに対してばねをちょっと硬くし、ダンパーは初期の減衰力を少し抑えめにしています。軽いけどしなやかで、硬質な乗り味を作りました」
合わせて電動パワーステアリング(EPS)とアクセルレスポンスのチューニングを行なったという。伊豆スカイラインの近くで開催された試乗会では、990S(6MTのみの設定)と、ベースとなった旧Sを乗り比べる機会を得たが、脚とEPS、アクセルレスポンスのチューニングによる効果はことのほか大きいと感じた。絶対的な軽さにも増して、軽快感が増している。それに、旧Sに比べて格段にしなやかだ。
KPCの威力はあるか?
全モデルに適用されるので990Sに限った話ではないのだが、KPCの適用が990Sの魅力をさらに高めるのにひと役買っている。
「今までのロードスターは40km/hの低速でも楽しいことを大事にしてきました。そのキャラクターが世界中で認められてきました。いっぽうで、ドイツでは『高G領域が物足りない。もっと安定してくれたらいいよね』という声がありました。今回はロードスターの、低速でも楽しいとか、しなやかだというところを一切変えず、重量増ゼロで、高速高G領域を安定化させるにはどうしたらいいかと考えてやりました」
KPCは後輪左右の差回転に応じ、旋回内輪側に制動力をリニアにかけていく。内輪差が小さい=緩やかなコーナーでは弱く、内輪差が大きい=急コーナーでは大きめに作動させる、狙いは車体の浮き上がりを抑制することだ。リヤサスペンション(マルチリンク式)ジオメトリーのアンチリフト(引き下げ)力を利用し、制動力(といっても極めて微小)によって車体を引き下げる。
ニュルブルクリンク北コースのような高速高Gコーナーが連続するステージは極端にしても、ドイツの郊外路は日本のそれに比べて平均車速が高く、大きな旋回Gが発生しがちだ。開発の出発点はそうした高速高G領域での安定性を引き上げることが狙いだった。実際に走ってみると、伊豆スカイラインを流すような走りでもKPCの効果は充分に体感できることがわかった。KPCなしに比べると、「あり」のほうが鼻先の位置が落ち着いているため、旋回中にまくれ上がるような不安感に襲われることなく、安心してコーナーに入り込んでいくことができる。このマイナスとプラスの気持ちの差は大きい。
KPCは「ロードスター史上最大の進化点」と梅津氏は言ったが、まさにそのとおり。カラーバリエーションだけでなく車体姿勢制御の面で大きく進化しているのが、今回の商品改良の特徴である。
■マツダ・ロードスターSレザーパッケージ(FR) 全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm ホイールベース:2310mm 車両重量:1020kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 総排気量:1496cc ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm 圧縮比:13.0 最高出力:97kW(132ps)/7000rpm 最大トルク:152Nm/4500rpm トランスミッション:6速MT サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤサイズ:195/50R16 84V 乗車定員:2名 WLTCモード燃費:16.8km/L 市街地モード燃費:12.0km/L 郊外モード燃費:17.7km/L 高速道路モード燃費:19.5km/L 車両価格:319万1100円
■マツダ・ロードスター990S(FR) 全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm ホイールベース:2310mm 車両重量:990kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 総排気量:1496cc 最高出力:97kW(132ps)/7000rpm 最大トルク:152Nm/4500rpm トランスミッション:6速MT サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤサイズ:195/50R16 84V 乗車定員:2名 WLTCモード燃費:16.8km/L 市街地モード燃費:12.0km/L 郊外モード燃費:17.7km/L 高速道路モード燃費:19.5km/L 車両価格:289万3000円