清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第15回 

脱・温暖化その手法 第15回 —電気自動車が普及すると発電所は足りる? CO2は本当に減る?ー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

トータルのCO2は確実に減る

本連載は、いかにカーボンニュートラルを実現するかを、主に技術的観点から述べていくことを目的にしている。ここまでの連載では、温暖化の脅威と、それを引きおこしている理由は、19世紀に発明された技術が、原理を変えずに使い続けられていることだということまで述べた。この連載は、まだまだ続くが、最近、電気自動車が今後増え続けるとすると、発電所の数が足りなくなるのではないかという疑問がある。また、電気自動車は走行中にCO2を放出しないが、もし発電に化石燃料を使うなら、そこでCO2を排出するために電気自動車の普及は温暖化対策にとって有効ではないのではないかということが言われることもある。

今回は、少し寄り道になるが、電気自動車普及に関するこの疑問に答えることとしたい。

まず、疑問に対する結論を言おう。

これらに対する答えは、電気自動車は内燃機関自動車に比べて圧倒的に走行中のエネルギー消費が少ないので、発電に関わる化石燃料と内燃機関自動車走行の1台、単位走行距離あたりに発生するCO2の量を比べても電気自動車の方が少ないということになる。また、それに関連して発電量の増加も大きくはなく、特に充電を発電の需要のピークの時間帯から外して行なえば、発電所の数をまったく増やす必要はないということである。

なぜ、そう言えるのかに応えるために、電気自動車のエネルギー消費の基本的考えから述べることにしよう。

まず、走行中のエネルギー消費であるが、効率の点から比較する。電気自動車が走るためには発電、送電、充電をしたうえでモーターを回転させる。一方、内燃機関自動車の場合には製油所で精製し、スタンドまで運び、給油をして走行する。これらの過程でそれぞれ、エネルギーの損失を受けるわけだが、モーターと内燃機関のエネルギー効率が大きく異なるために電気自動車は効率が良い。

ではこのことを、実車での数値で比較をしたい。

まず、発電におけるCO2 排出量は電力会社により異なるが、もっとも発電量が多くかつ原子力を稼働させていない東京電力の場合455g- CO2/kWhである。1kWhの発電に455gのCO2を排出していることになる。また、東京電力の送配電ロス率は2020年に4%であった。さらに、電気自動車の走行エネルギーは代表的な値として、日産リーフXを取ると、その充電に必要な電力である交流電力消費量を見るために、車のエネルギー消費を測る走行パターンであるWLTCモード走行における値を示すと155Wh/kmである。これらの値から、電気自動車の1km走行当たりのCO2発生量は73g/kmとなる。この車の全長×全幅×全高はそれぞれ、4480×1790×1565mm、車重は1520kgである。

比較車両として、世界的に最も販売台数が高い車の代表としてマイルドハイブリッドタイプのフォルクスワーゲンゴルフTDI styleを選択する。この車の重量は1360kgで、全長×全幅×全高は、4255×1799×1452mmであるがCO2排出量は134g/kmである。

これらの車の比較では、車格の高い電気自動車であるリーフXの走行距離当たりのCO2排出量は約2倍の開きがある。

この比較は、消費エネルギーが少ないマイルドハイブリッド車との比較であったが、次の比較として、内燃機関乗用車全体でのCO2排出量を求める。経産省総合エネルギー統計によると、2020年のガソリン消費量は、0.49億kLであった。国土交通省のホームページの数字で見る自動車によると、2020年の日本の乗用車の保有台数は、普通車が3900万台、軽自動車が3200万台の合計7100万台であった。また、ソニー損保による2020年の全国カーライフ調査によると年間の走行距離の平均は6000㎞であった。これらの数値から、乗用車の平均燃費は8.7km/Lとなる。ガソリン1L当たりのCO2排出量は2360gである。これらの値から乗用車の平均的CO2排出量は270g/kmになる。これと、日産リーフXを代表的な電気自動車としたときのCO2排出量の比は3.7倍となり、電気自動車は圧倒的にCO2排出量が少ない。

今のままで発電所は十分に足りるのだ

次に、本題である発電量が足りるのかということについて検討する。もし、すべての車が電気自動車に替わったら、どれだけの発電が必要かに関しては上に示した、車の台数と、年間の平均走行距離と、走行当たりの電力消費率をかけたもので求められる。日本の乗用車の台数と、年間の走行距離の平均を用い、電気自動車の電力消費を日産リーフXで代表させることにすると、総電力量は660億kWhになる。

バス、トラックのような商用車も将来は全て電気自動車に替わるものとする。これらの車は基本的に軽油を使うディーゼル車であるが、ガソリン車に比べて、約30%燃費が良いというのは一般的に言われていることである。2020年における軽油消費量は3400万kLで、ガソリン消費の70%である。このことから、すべての商用車が電気自動車に替わったときに必要な発電量も乗用車と同等とみることができ、電気自動車全体で必要な電力量は1300億kWhとなる。

資源エネルギー庁の公表値での2020年の日本の発電量は1兆kWhであった。このことから、もしすべての車が電気自動車に替わった場合、発電需要は1兆1300kWhとなり、13%増えることになる。

では、日本で可能な発電量であるが、電力調査統計による2015年の認可電力は2億1000万kWである。この値は、東日本大震災後のものであるため、原発が動いていないという前提になる。ということは、この値に24時間と365日をかけると年間に発電できる量は1兆8000億kWhになる。このことから、すべての車が電気自動車に替わったとしても、発電量には40%近い余裕がある。

充電に関しての留意事項として、電力需要の多い時間帯に充電をしたり、すべての車に一斉に充電をするようなことになると、その需要は認可電力を超えてしまうということになる。このために、充電を行なうタイミングン関しては制御が必要である。この制御は、充電器側で行なうか、車体側で行なうかのいずれかの方法ができる。大量に電気自動車が普及する時代になると、このような制御の開発が行われることが必要になるが、通信手段が発達している現在では、難しい制御ではない。

以上、ここでは、電気自動車が普及した時の疑問として呈される、本当にCO2が減らせるのかということと、将来発電能力が足りなくなるのではないのかという疑問に答えた。

結論としては、電気自動車用モーターの効率が、内燃機関に比べて極めて高いので、発電に化石燃料を使ったとしても、CO2の発生は抑えられるということが第1点である。また、発電所の建設は需要のピークに合わせて建設されているが、充電は、電力需要がピークでない時間帯に行なえばよいので、十分に充電のための余力があることを示した。

今後、再生可能エネルギーの普及は必須である。その時に、発電と需要のアンバランスが生じることになる。それを調整するためには、再生可能エネルギーを用いて電気自動車で充電した電気を、需要が多い時間帯に電力系統に戻すことが可能であるために、この問題の解決にも有効に利用可能である。

だからこそ、電気自動車はカーボンニュートラルを実現するための最重要技術の一つとして、普及に力を入れることが求められる。

著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…