新型フェアレディZ 走りにキレはあるか? シャシーは?V6ターボは? 9速ATは?

新型日産フェアレディZ。240ZGを彷彿とさせるマルーンカラー。
いよいよ新型フェアレディZのステアリングを握るチャンスがきた。舞台は日産・北海道陸別のテストコース。初代へのオマージュであるデザインにV6ターボエンジン、そして9速ATを組み込んだ新型フェアレディZ。そのファーストインプレッションをお届けしよう。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:NISSAN

「初代へのオマージュ」デザインはどうか?

全長×全幅×全高:4380×1845×1315mm ホイールベース:2550mm

「今回のZのデザインは、ずばりオマージュ」だと、プログラム・デザイン・ダイレクターの入江慎一郎氏は説明した。その説明を聞くまでもなく、新型フェアレディZはひと目で“Z”だとわかる。ロングノーズ・ショートデッキの、いかにもスポーツカーらしいサイドシルエットは初代S30へのオマージュだし、ヘッドライトも同様。長楕円形を上下に重ねたリヤコンビランプは4代目、Z32へのオマージュだ。

ただ過去のモチーフを引用しただけに終わっていないのが新型Zの特徴。「現代のテクノロジーを使って、どうやって新しく見せるか」にトライしたという。フロントシグネチャーはLEDの間接光で、アウターレンズに映り込むリフレクションがモチーフだという「こ」の字を表現。リヤは最新のLED技術を用いて均一に発光させつつ、リングが二重に見えるようにした。確かに、新しさを感じる。

日産自動車・北海道陸別試験場には6台のZが待ち構えていた。高速路~カントリーロードをMT車とAT車で2周ずつ周回するプログラムである。6台のうち2台はイカズチイエロー、2台はダークメタルグレーだった。ステルスグレーは近年流行りのマットなグレーで、現代的な姿になった新型Zによく似合っていると感じた。

なかでも目を引いたのは、マルーンだ。240ZGのマルーンを彷彿とさせるが、ボディカラーの名称はバーガンディ。つまりワインレッドなのだが、雨が降って日差しがなかったせいもあり、渋味が増して見えた。マルーンと呼んでしまいたくなるバーガンディ、筆者イチ押しである(コースを案内してくれた評価ドライバーも「いいですよねぇ」と感嘆の声を漏らしていたことを付け加えておく)。

VR30DDTT型「馬力は1馬力も上げなくていい。だけど、レスポンスはもっと上げていこう」

エンジンのレッドゾーンは7000rpmから。

インテリアも最新の技術と伝統と歴代Zへのオマージュがほどよくミックスされている。ステアリングの奥にあるのは、フルデジタルのメーターだ。このメーター表示のグラフィックは、レーシングドライバーの松田次生選手が監修した(ほぼアイデアどおりで、開発サイドは「清書しただけ」だそう)。中央上部のレブインジケーターはまさに、レーシングカー由来である。

3連サブメーター(右からブースト計、ターボ回転計、電圧計)を採用

インパネ中央部には伝統の3連メーターが鎮座している。左はバッテリー電圧系、右はブースト計で、中央はターボ回転計だ。ターボ回転計採用のいきさつについては、商品企画部 ブランドアンバサダーの田村宏志氏が次のように説明する。

「ターボ回転数を何に使うんだと。そもそもターボが何回転で回っているか、ご存じない方が結構いらっしゃる。ガンガン走ると回転は上がる。高地に行くと(気圧が下がるので)過給を一定にするために多く回す。チューニングしても回転が上がる。昔々、エンジンをチューンしていくとオイルの温度が上がっていった。やっぱりオイルクーラー必要だよなと。あるいは、130℃まで上げちゃったので、距離は走ってないけどオイル交換しようと。きちんとしたメンテナンスにつながる。チューニングは自己責任ではあるけれど、自己責任を全うしてもらうための情報を提供しようじゃないかと。そのためのターボ回転計です」

形式:V型6気筒DOHCターボ
型式:VR30DDTT
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm/1600-5600rpm
燃料供給方式:DI
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:62ℓ

そもそも、新型フェアレディZが積むVR30DDTT型、3.0LV6ツインターボエンジンは、過給圧制御のために回転センサーを搭載しているのが特徴だ。通常は過回転防止のために相応のマージンを設けるのだが、それでは許容回転数の上限側を使い切れないことになる。そこで、VR30DDTTは回転センサーを搭載し、許容回転ぎりぎりまで使えるようにした。この結果、小径ターボを使って高応答のレスポンスを得ながら、大径タービン並みのパワーを手に入れることができたというわけだ。

VR30DDTTエンジンは2019年、スカイライン400Rに搭載されて国内デビューを果たしている。新型Zが積むエンジンは、大きくいえば同じだが、専用に手が入っている。「馬力は1馬力も上げなくていい。だけど、レスポンスはもっと上げていこう」(田村氏)という狙いで、ターボチャージャーにリサーキュレーションバルブを追加した。

アクセルオフした際、機能上必要なため、スロットルは完全には全閉にならず、わずかながらも空気が燃焼室に向かう構造になっている。そのため、エンジントルクが瞬時に落ちず、ダラッと落ちる。それを嫌い、アクセルオフ時のコンプレッサー下流側の空気を上流側に戻すリサーキュレーションバルブを追加したというわけだ。

また、ハニカム構造をした触媒のセルの大きさを変更することで排圧を下げている。これにより、最大トルクの発生回転数を400rpm、高回転側まで延長した。新型フェアレディZが積むVR30DDTTエンジンの最高出力は298kW(405ps)/6400rpm、最大トルクは475Nm/1600-5600rpmだ。

6MTのシフトレバー
3ペダルのレイアウト

これに、6速MTと9速ATを組み合わせる。ATに一本化するムードもあったというが、開発陣の熱意によりMTの存続が決まった。MT派のひとりとして、この決定には無条件で拍手を送りたい。ただ残しただけではなく、シフト後半の吸い込み感を改善する変更を施している。シフトレバーは見た目もカッコイイが、操作性もいい。しっかり感と同時にしなやかさを感じさせる乗り味とマッチしている。ダウンシフト時の回転合わせを自動で行なうMTシンクロレブコントロールの制御は絶妙で、充分に使える機能となっている。自分で回転合わせしたければ、オフにすればいい。

9ATのシフトは最新日産デザインに倣っている。

ATにも力が入っている。新しいZを開発する際に最も重視したのは、「カッコよく」て、「速く」て、「いい音」がすることだったいうから、極論すれば7速ATをキャリーオーバーしてもよかったことになる。だが、「変えよう」ということになったし、「ちょっとだけ大騒ぎだった」と田村氏は振り返る。「最初は400Rのエンジンだけでいいじゃんとなっていたんだけど、だんだん欲が出てきた(笑)」と。

最終的に、Zは欲の塊になった。新型Zが搭載するのは、北米向けフルサイズピックアップトラックのタイタンやフロンティアで採用されているユニット(ジヤトコ製)がベースだ。フリクションを低減した内部構造は共通。ケースはZ専用で、アルミ合金をマグネシウム合金に変えることにより約5kgの軽量化を図っている。ケース側面には「Z」のロゴ。リフトアップしなければ確認できない、隠れアイテムだ(見える場所にも「隠れZロゴ」が複数あるので、探してみては)。

ジヤトコが開発した9AT。

レシオカバレッジは世界トップクラスの9.1(現行7速は6.3)で、1速から6速までがクロスレシオとなっており、7速以降は巡航ギヤだ。9速に入るのは115km/hで、120km/hでも2000rpm以下で走れる設定だ。6速MTの興奮を先に味わってしまったのでおとなしさを感じたのは事実だが、VR30DDTTのレスポンスの良さとサウンドの素晴らしさ(総合的に言って、当代随一の名エンジンだと思う)を積極的に味わうなら、マニュアルモードに切り換えればいい。

新型Zのベースとなっている6代目Z34「Z」がデビューしたのは2008年のことだった。10数年分の近代化を図るにあたってボディを補剛し、最新の安全技術や運転支援システムを採用し、自然吸気だったエンジン(VQ37VHR、3.7LV6)をターボエンジンに置き換えた結果、車両重量は最大で約80kg重くなっている。重量増の約8割をパフォーマンスに使っているという。

19インチは、ブリヂストン・ポテンザS-007(前 255/40R19、後 275/35R19)。Version S、Version STに装着される。
18インチは、ヨコハマ・アドバンスポーツ(前後 245/45R18)。ベースグレードとVersion Tが採用する。

主にエンジン(インタークーラーなどの補機類を含む)が重くなった影響で、前後重量配分は1%フロント寄りになったという。何の手も打たずにいれば前輪の負担が増えてアンダーステア傾向の運動特性になってしまうので、まずはフロントタイヤのキャパシティを引き上げた。18インチ仕様は225/50R18を245/45R18にサイズアップ(リヤは245/45R18で変更なし)。19インチ仕様は245/40R19から255/40R19に変更した(リヤは275/35R19で変更なし)。

ただサイズを変えただけではない。プロファイル(断面形状)を変更することで接地面の中央部分が前後方向に長くなるようにし、転舵時の接地長が長くなって手応えが良くなるようにした。表現を変えると、セルフアライニングトルク(SAT)は強くなる方向だ。接地面形状が楕円になることで、接地部分の内側と外側のストレートグルーブの長さが変わり、気柱共鳴音の周波数が分散されてロードノイズのレベルが下がる効果も得られた。18インチ(ヨコハマ)、19インチ(ブリヂストン)ともに吸音スポンジを採用しており、ノイズには相当気を配っていることを窺わせる。

プロファイル(断面形状)を変更することで接地面の中央部分が前後方向に長くなるようにした。
タイヤは18インチ、19インチともにスポンジ入り。音対策だ。

シャシーはどう進化した?

フロントがダブルウィッシュボーン式、リヤがマルチリンク式のサスペンション形式に変わりはないが、フロントはキャスター角を1度寝かせたという。直進安定性向上が狙いだ。ダンパーはツインチューブからモノチューブに変更して容量をアップ。開発に携わる技術者は、初期の応答性を上げることが狙いだと説明する。

「ばね下をいかに路面に接地させるか。ピークの減衰は下げても、応答性がいいので上屋のコントロールは充分できる。旧型はわりと硬めでしたが、新型は乗り心地が良くなったかと。ポテンシャルの高いダンパーとタイヤに合わせ、受け詰める側の車体もしっかり補剛しています」

ステアリングのアシスト機構を油圧式から電動式(デュアルピニオン式)に切り換えたのも大きな変更点だ。新型フェアレディZは発進させると、レスポンスのいいスムーズな反応と刺激的なサウンドに感動する。全開加速を試みればもちろんのこと、軽~く踏み込んでも120km/hなど気分的にはあっという間だし、通過点に過ぎないことを意識させられる。前後の車両に1分程度のインターバルがあるのをいいことに、急減速~急加速を繰り返したが、反応がいいし、安定しているし、加速時は音がいい。

1.5kmばかり直線を走ってようやく緩い右旋回を迎え、そこで初めてステアリングを切った。気持ち良く、思いどおりに向きを変えるし、そのときの姿勢もいい。(意図的に作り込んだ)荒れた路面では、タイヤがしっかり接地して路面の凹凸に追従しているのがわかる。ドタバタせず、落ち着いている。

ウエット路面だったこともあってカントリーロードでは70km/hに車速の上限が定められていたので、気分良く飛ばすまではいかなかった。それでも、曲率の小さなコーナーではメーター読みで0.7G程度の旋回Gが発生していた。コーナーに進入する際のアクセルオフで旋回外側が前下がりの姿勢になるため、安心して飛び込んでいくことができるし、加速時はグッと路面を捉えつつ、不必要に前上がりになることなく加速する。

要するに、気持ちいい。相応のマージンを保ちながらも、405馬力を操っている感じがする。新型フェアレディZの開発コンセプトは、田村ブランドアンバサダーの言葉を借りれば、「ダンスパートナー」なのだという。600馬力のパワーを4輪に分散することでコントロールするのがGT-R。Zは後輪駆動。現代のストリートタイヤが1輪で受け持つことのできるパワーが1輪あたり150馬力だとすると、約400馬力のZは2輪で受け持つには100馬力キャパオーバーということになる。

だから、ダンスパートナーを相手にするように、相手の動きと呼吸を感じ取りながらリードしなければならない。きちんとリードしないと痛い目みるぞ、ということだ。短いセッションではあったが、このダンスパートナー、相当な手練れのフェアレディであることがわかった。さすが、50年超の伝統を受け継いでいるだけのことはある。相手の呼吸を読んでいたつもりが、逆にこちらの動きを読まれていたようなフィット感を感じた。

Zのほうが一枚上である。「顔洗って出直してらっしゃい」と言われた気がしないでもない。それでも充分、楽しかったけど(強がり)。

価格は
ベースグレード(6MT/9AT):524万1500円
Version T(9AT):568万7000円
Version S(6MT):606万3200円
Version ST(6MT/9AT):646万2500円
日産フェアレディZ Version ST
全長×全幅×全高:4380×1845×1315mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1620kg
乗車定員:2名
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
エンジン
形式:V型6気筒DOHCターボ
型式:VR30DDTT
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm/1600-5600rpm
燃料供給方式:DI
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:62ℓ
トランスミッション:9速AT

WLTCモード:10.2km/ℓ
 市街地モード6.6km/ℓ
 郊外路モード10.9km/ℓ
 高速道路モード12.6km/ℓ
車両本体価格○646万2500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…