GOODYEAR新作 Vector 4 Seasons GEN3 / GEN3 SUVを雪上で試してみた

今年こそオールシーズンタイヤはいかが?

常にクルマを使う必要があるが、雪国に行くわけではない。あるいは、たまに雪国の温泉やスキー&スノボに行きたいという感じの人にとっては、毎年スタッドレスに履き替えるのは億劫だ。ここではグッドイヤーより発売された最新のオールシーズンタイヤを紹介しよう。まず、今回は雪道編をレポートする。

雪が降っても走れる夏タイヤ

真夏から雪道まで走れるオールシーズンタイヤ。それが魅力的でないはずがない。デトロイトに住む人に話を聞くと、一般の人がラジアルタイヤといえば、普通はこのオールシーズンタイヤのことを示す。アメリカで販売されるクルマでは、特にスポーツ性の高いモデルを除いて、オールシーズンタイヤが標準装着されているのだ。デトロイトの冬の時期は降雪も多いが、よりイージーにいつものように車を使えるオールシーズンタイヤは必須となっているようだ。

その背景には即座に行なわれる除雪作業など、インフラ面での徹底ぶりもないわけではない。しかし同時に、ユーザーのオールシーズンタイヤや積雪に対する向き合い方もあるように思う。

冬の時期、デトロイトのとある大学に用事があり、帰りに頼んだイエローキャブは除雪の行なわれていない道では、割と滑らせながらも平気な顔で運転する。もちろんタイヤはオールシーズンだ。またその時期、深夜からの降雪では朝の渋滞は発生するし、スピンした車による事故渋滞や交通規制なども朝のニュースで見聞きすることも少なくない。もちろんウインタータイヤというものも販売されているのだが、チェーン規制のあるような地域の住民かウインタースポーツを楽しむ人以外はそれほど需要がないのだという。

しかし注目なのは、日本のように降雪によっていきなり街に出るクルマが減ることはないし、また乗り捨てられたクルマがあるわけでもない。ましてや、立ち往生というニュースはあまり聞かないことだ。ここにこそ、オールシーズンタイヤを注目してみる価値があるんじゃないだろうか、と思うポイントがある。

夏タイヤなのに、雪道も走れる。その価値はいまの日本では見逃せないかも。

実はこのオールシーズンタイヤだが、1977年に初めて北米で実用化したのはグッドイヤーだった。その後、欧米での展開を進め日本に上陸したのは6年前。老舗がやっと日本にも登場したことで、その後注目度は徐々に高まり、現在では多くの日本メーカーもオールシーズンタイヤを日本市場に投入するようになってきた。

べクター4シーズンズの最新モデルが登場

今回雪道で試乗したオールシーズンタイヤは、グッドイヤーの新製品ベクター4シーズンズのGEN3(ジェンスリー)およびGEN3 SUV(ジェンスリー・エスユーブイ)だ。実はこれ以前の4シーズンズ・ハイブリッドに次ぐ新作となるのだが、これにて刷新ということではない。このGEN3は、オールシーズンタイヤのプレミアムゾーンという位置づけに据えられた。そして今までのハイブリッドは、ベーシックブランドとして引き続き販売されるという。

手前がGEN3、奥がGEN3 SUV。既存のHybridとともに
グッドイヤー・オールシーズンタイヤの選択肢が増えた。

オールシーズンタイヤと言えば、選択幅が狭く車種やサイズで限定されてしまい好みで選ぶことが難しかったが、グッドイヤーではGEN3の登場によって製品の層をより厚く構えることができるようになった。

左がGEN3で、右がHybrid。ともにVシェイプで排水性などをアピールするが、Hybridにあったセンターグルーブがなくなり、
センターの円周方向には深い溝が掘られる。

さてではこのタイヤとはどんな特性を持っているのだろうか。実はこの性能を試すため、今年初春に長野県の女神湖で試乗会が開催された。ここでの模様をお伝えしよう。

試乗車はカローラツーリング (FWD) で、コースは女神湖上の特設コース。圧雪路やアイスバーンなど、さまざまなシーンが再現されている。

現行モデル 4シーズンズ・ハイブリッドもなかなかの性能を発揮

まずはこれまでの4シーズンズ・ハイブリッド。冬道の流儀に従った優しい操作では、思う通りの確実なグリップを示しながら加速してくれる。そんなマナーはコーナーでも同様で、切り出しの確かな応答が印象的。その後フルブレーキを試してみても、制動感なども信頼性の高いものであることを実感。ぐぐっと食いつくことから、ABSの作動はごく最小限だ。(もちろん一般的な走行での話だが)

継続販売されるGEN3 Hybridを装着。これだけでも、なかなかのポテンシャル。

ところが、鏡のようなアイスバーンの円旋回路では、ごくゆっくりの歩くような速度でないと旋回ができない。そんなに滑るのかと試しに降りてみると、車体につかまっていなければ歩けないほどのツルツル路面で、むしろこんな場所ながら辛うじてであっても走れるのか、と感心したというのが正直なところだ。

今回のアイス路はこんな感じ。パウダースノーは氷面を覆っているだけ。外に出て歩こうと思っても、腰が引けるほど滑りやすい路面とされていた。

かつて夏タイヤを氷上に持ち込んだテストを行なったことがあるが、2WDであれば氷上はもちろん圧雪路面でもまともに走れたものではなかった。発進で空転させると、わずかでも傾斜のある方向に車体が流れていってしまう。どんなにゆるりと走ろうと思っても、進行方向などに進めるものではなかった。今はトラクションコントロールがあるのでまだましだが、止まることに関してはABSがあろうとも過酷だ。

こういったことは夏タイヤで突然の雪に出くわしてしまった経験のある方なら、少なからず実感していることだろう。全然止まらないし登れないので、たとえ橋くらいのわずかなカントであっても、走りたくないと切に思ったに違いない。

今回の試験路のアイスバーンの状況は、極めて広い範囲でなおかつ磨き上げられたように鏡面状。一般路の路面ではこのようなシーンは部分的には存在しても、それほど出くわすことは少ないと思われる極端なステージでもある。特性として似たシーンがあるとすれば、降雪地域の信号手前のミラーバーンの状態がこれに近いかもしれない。ただしそんなシーンは、たとえスタッドレスタイヤであったとしても要注意エリア。そこでも、かろうじて走れる性能があることを実感できた。

プレミアムに位置付けられる最新モデルGEN3

そんな現行タイヤに対して、最新モデルGEN3はどんな性能を見せてくれるのだろうか? 

走り出しの加速は同じような食いつきに感じるのだが、コーナーへ入るときの手応え、というか動きが違って感じられる。これはすぐに乗り換えたから実感できるものだとは思うのだが、切りはじめからの応答性に違いが感じられる。当然、じわっとゆっくり切っていくのだが、その時の頭の向き方にリニアリティがある。

普通に走る分には頼り甲斐のあるGEN3。写真のアイス路では、かろうじて走れる程度だが、これにより脱出できるケースは相当に増えると思う。

よくサーキットなどでは「走るラインが見えてくる」なんて言い方をするが、ちょっとそんな感じに似ているかもしれない。現行タイヤは割とコーナーの想定ラインがぼんやりと感じられるのだが、GEN3はそのラインが細く鮮明になってきた印象だ。カーブの途中でも微操作に応答を感じ取りやすいので、細い道でも安心感は高いと感じられる。

性能向上に大きく貢献しているのがトレッド中央に大型のサイプを配置したことで、サイプ交差部が広がることで排雪性能を高めて雪上グリップが向上しているという。実際の社内測定値では、雪上の制動性能において現行のHybridに対してGEN3は5%向上させているという。

大型サイプを配置して、排雪性を高める。夏タイヤとしての特性はトレッド面を支える株のカバー層を強固なものにすることと、
強固なショルダーブロックによって、ドライ路面でのタイヤの変形を抑えている。

アイス性能に関してもやや向上しているというが、フィーリング的には同等レベルか。いずれにしても、「かろうじて走れる」というレベルであることは特性として忘れてはいけない。

安心感の高いGEN3 SUVとAWDとのコンビネーション

そしてここからは、トヨタ・ハリアーによる一般公道での試乗を行なってみた。こちらは比較ではなくGEN3 SUVのみの試乗となる。

コースは女神湖周辺の一般道で、所々路面が見えたりするところもあった。しかしアイスバーンに出くわすことはなかった。

ハリアーを用いて、一般道でGEN3 SUVを走らせてみる。普通に流れに乗って走ることができ、かなり安心感は高い。ただ急ブレーキなどの性能は、スタッドレスに劣ることを意識しておかなければならない。

圧雪路の多いエリアでは、AWDとのマッチングに正直言って驚いてしまう。加速など荒っぽいアクセルワークにも、リアルなピックアップを示してくれる。右へ左へとカーブの続く道でもその滑らかなフットワークを披露。登坂路であえて停止してフル加速を試みても、AWDのポテンシャルと相まって大きなぐずりもなく加速する。まさに、スタッドレスと見間違えてしまうほどだ。ただし絶対的なグリップはスタッドレスではないので、いずれにしても用心して走ることは肝要だ。

ブレーキ性能についても、流石にすべてのシーンでスタッドレスタイヤと同様とはいかないまでも、制動距離を少し長く想定しておけば不安感はない。通常の安全マージンを、しっかりとっていればいいのだ。

こうしてさまざまなシーンのある完全な雪道でGEN3シリーズを体験してみると、これが夏も普通に使えるタイヤなのか? と思ってしまうほど、雪道でも確かな走りができることに驚く。もちろんスタッドレスタイヤのようにガンガン走る、ということができるものではないが、普通に使うのに不自由を感じる部分は少ないだろう。

ただし、スタッドレスタイヤに対するメリットもあると思う。たとえばスタッドレスでは調子に乗って走ってしまうと、いきなり現れる水たまりにひやっとした経験のある人も少なくないのではないだろうか。今回はそれほどまでのウエット路はなかったが、社内試験ではウエットブレーキ性能などは夏タイヤと同等の性能が確認されているという。そんなことから、ウエット性能はスタッドレスタイヤに対するアドバンテージと言える。

オールシーズンタイヤの隠れた魅力は、高いウエット性能ではないだろうか。夏タイヤ同程度で、スタッドレスのように水に乗ってしまいひやっとするケースが少ないようだ。

個人的にもオールシーズンタイヤに高い関心を持っている身からすると、今回の雪上試乗は自分自身の背中を押してくれるものとしても非常に価値のあるものだったと感じる。

もしアメリカのようにオールシーズンタイヤが標準化されていたのならば、
ということをふと考えてみる。そんな時、きっと突然の雪でクルマを乗り捨てなくてはいけない人は大幅に減るだろうし、翌日に突然クルマを使えなくなってしまうリスクも回避できる。さらには、立ち往生による交通麻痺もかなり防げるのではないだろうか。 

8月末には夏路面での試乗を予定しているので、今度はアスファルト上での特性や寿命、そしてさらにウエット性能についても話が聞ければと考えているので、ご期待いただきたい。

今回同時に試乗が行なえたバン、小型トラック、ワゴン向けのVector4Seasons Cargo。積載重量を意識してか空荷の軽
バンだと荒れた圧雪の一般道では、ややタイヤの打音が気になったが、走破性は十分。試乗コースにあった坂道での発進も不
安なくこなした。
Vector4Seasons GEN3 サイズ表
Vector4Seasons GEN3 SUVサイズ表

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…