「出身地最適」な性能を備えたアルカナE-TECH HYBRID【’22上期、最も刺さったこの1台】

今年の上半期は技術的にユニークなクルマが多く、なかなか1台に絞れなかった。特に、ルノーがアルカナとルーテシアに搭載したE-TECH HYBRIDと、日産がエクストレイルに搭載したVCターボエンジンのふたつは甲乙付けがたい。しかし、理由は最後に述べるけれど、アルカナE-TECH HYBRIDを“上半期ベスト”に選定した。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto)

「高速領域で特に強みが生きる」と安藤 眞が太鼓判を押したのはアルカナE-TECH HYBRID

直4 1.6L NAエンジンに、2基のモーターを組み合わせてフルハイブリッドシステムを構成する。

E-TECH HYBRIDは、本国では19年にキャプチャーPHEVに搭載されていたが、日本市場へはブランニューモデルのアルカナに搭載され、プラグインでないHVとして投入された。

正直言って、このタイミングで新しいHVシステムが出てくるとは思っていなかった。というのも、THS-IIを使用するトヨタを除き、世界はシリーズ式か、それに直結クラッチを付けたものに集約されはじめていたからだ。

そこに現れたのが、エンジン側に4速、モーター側に2速のギヤボックスを持ったE-TECH HYBRID。初見では「なんじゃこりゃ?」と思ったのだが、よく見れば、シリーズ式+直結クラッチとTHS-IIのメリットを総取りしようという狙いがわかってきた。

走行用E-モーター(写真右側)の最高出力は36kW(49ps)、最大トルクは205Nm。

まず、「システムのベースはシリーズ式」と考えるとわかりやすい。発電機はフライホイールの外周ギヤで駆動されるため、エンジンがかかっていれば、いつでも発電する。モーターはファイナルドライブギヤをエンジンとは反対側から回すレイアウトで、三菱のPHEVと同じトルクフローだ。

エンジン側のトランスミッションは4速で、もちろんニュートラルもある。ニュートラルにしておけば、エンジンからの駆動力はファイナルに伝わらず、発電した電気で走るシリーズ式運用となる。

ここでいずれかのギヤをエンゲージすれば、シリーズ式+直結クラッチ付き(三菱PHEVやホンダe:HEV)と同じトルクフローとなる。しかし直結クラッチだけだと、ギヤ比はICE(内燃機関)の4〜5速相当となり、使える速度はおおむね70km/h以上。上も120km/hより速くなると、エンジン負荷は燃費最良点より上に外れ始める。

発電用モーター(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)の最高出力は15kW(20ps)、最大トルクは50Nm。

そこで、有段ギヤボックスの出番だ。70km/hより低い速度でも、電気に変換して使うより、エンジン直結で走ったほうが効率の良い負荷状態はある。アルカナE-TECH HYBRIDのオーバーオールギヤレシオは、2ndがキャプチャーEDC(7速)の3rdよりわずかにハイレシオで、3rdはキャプチャーの5th相当(オーバードライブ)、4thは同キャプチャーの6thとまったく同じレシオとなっている。すなわち、2ndから下は市街地走行から使え、3rdから上はバイパスや高速走行時にエンジン回転数を落として効率よく巡航できる、というわけだ。

しかも、モーター側にも2段の変速機構が付く。これはなぜかと言えば、エンジン負荷とモーターアシストのバランスを柔軟に変えるため。組み合わせは双方のニュートラルを入れて5×3=15通りあるが、その中から12通りの組み合わせを選び、適宜切り替えて使用する。すなわち、トヨタのTHS-IIが、遊星歯車式の動力分割機構を使ってシームレスに行っていることを、有段ギヤでステップ的にやろうというわけだ。

ならば、シームレスに行えるTHS-IIのほうが効率は良いのでは? と疑問に思って当然で、市街地走行領域なら、確かにその通り。

ただし、THS-IIにも弱点はある。エンジン回転数と車速の関係は、遊星歯車の“共線図”によって制約されるため、発進加速など車速の遅い領域では、エンジン回転数を最高出力域まで上げられず、電池から持ち出す電力が多くなる。しかも増速はできないから、高速走行時にエンジン回転が上がりすぎて、高速燃費がイマイチ伸びない。

アルカナのプラットフォームは、ルーテシア、キャプチャーにも使われるCMF-Bを採用。

一方で、アルカナのE-TECH HYBRID。ローギヤは同クラスガソリン車の2nd相当なので、低速からの加速時でも最高出力発生回転数までエンジンが使え、高速巡行時には3rd以上を使って効率よく走行できる。

日本の市街地走行のように、それほど大きな加速度は要求されず、バイパスの制限速度もせいぜい70km/hという環境ならば、THS-IIの良さが生きてくるが、ときには全開加速もし、最高速度域で走ることもある欧州では、E-TECH HYBRIDの強みが生きる。言うなれば、どちらも「出身地最適」な性能を備えている、ということだ。

E-TECH HYBRIDは、エンジンとギヤボックスの間の摩擦クラッチを廃止し、シャフトとギヤの嵌合もドグクラッチにしてしまったというのには驚かされた。発電機の制御で回転同調できるから、摩擦クラッチもシンクロナイザーも不要なのだ。だから軽量にできるだけでなく、コストも安い。

実は何年か前に、良く似た機構を某社に提案したことがある。それはHVではなく、AMTの変速ショック対策だったのだが、エンジン制御とACG負荷制御で伝達トルクのニュートラル状態を作れれば、クラッチを切ることなく変速できるはずで、AMTで嫌われる変速時のヘジテーションが解消できる。それは実現されることはなかったのだが、E-TECH HYBRIDを見たときに、間違いではなかったと確信できた。そんな理由もあって、22年の上半期No.1は、ルノー・アルカナE-TECH HYBRIDに決定。試乗時の燃費も4.3L/100km(約23.3km/L)と優秀だった。

著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…