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いかに外気をダイレクトに取り込めるか
空気の体積は温度が上がるほど膨張する。
同じ排気量でも空気の温度が高ければ膨張したぶんだけ酸素は減り、出力は下がってしまう。逆に温度が低いほうがたくさんの酸素が取り込める。クルマ側では吸気温度を測定していて、その温度にあわせてガソリンの噴射量や点火タイミングをコントロールしている。
つまり吸気温度が低いほうがパワーもトルクも出しやすい。吸気温度が上がってしまうとパワーダウンしてしまうということで、吸気温度はできるだけ低いほうが良い。
ではどうすれば吸気温度を下げられるのかというと「いかに外気を取り込むか」に尽きる。
エンジンルーム内は走行中高温になるので、その空気ではなく外の空気を取り込みたいわけである。レーシングカーのルーフにダクトがあったりするのも、外気を取り込むためだ。
ちなみに、エアコンを作動させて冷やした空気を吸わせる手もなくはないが、エアコンのロス馬力を考えると旨味は少ないだろう。
「空気抵抗」と「雨」も問題だ
ならば、思いっきり外気を吸えるダクトを配置すればいいのだが、市販車ならではの難しさがある。
まず、大きなダクトは空気抵抗になりやすい。燃費にも多大なる影響を与える空気抵抗はできるだけ減らしたいもの。
これは余談だが、燃費にこだわるプリウスではフロントガラスとルーフの段差を極力なくすため、ワイパーもボンネットの影に隠れるようになっていたりと随所にこだわりが見られる。空気抵抗、それだけ燃費への影響が大きいのだ。
そのため、大きなダクトをつけるのは難しい。また、ラジエーターへの空気の流入を邪魔すると水温が上がってしまいやすくなるので、それも避けたい。
そして、市販車では雨による問題がないようにという厳しい制約がある。これがクセ者。
レーシングカーは、大雨ではレースが中止になるし、クルマを知り尽くした人が走行中止という判断をすることも少なくない。しかし、市販車は一旦市場に出てしまえば、あとはユーザーに委ねるしかない。だから、至極当然なハナシではあるのだが。
どんなゲリラ豪雨でも走る人はいるし、そういったときに壊れるわけにはいかない。そうなると外気導入口を前方に向けるということは、かなりリスキーなのである。ゲリラ豪雨中にそれなりの速度で走ったら、エアクリーナーボックスまで浸水しかねない。
そこからエンジンにまで水が回ると大変なことになる。具体的にはウォーターハンマーが起きる。
ウォーターハンマーとはエンジンに多量に水が入り、ピストンが水を圧してしまう現象。そうなると水は空気と違って圧縮されないので、あっという間にコンロッドが折れてしまう。そして、エンジンは一瞬にしてブロー。再起不能なダメージを負ってしまう。
市販車の純正部品は、外気を導入したいけどもリスクは抑えなければいけない、という大きなジレンマを抱えているのだ。
GR86は外気を導入しつつ横から吸う理想的レイアウト
では、GR86ではどんな外気を導入レイアウトになっているか? バンパーを外してみた。
エアクリーナーボックスへは横方向のダクトで外気を導くレイアウト。まず外気は、バンパーから取り込まれる。ラジエーターの影響しないその手前の部分で、そこから横向きのダクトに入る。このときに雨などは入りにくいようになっているのだろう。
ダクトは先端がファンネル形状になっていて、効率を追求していると思われる。そこからエアクリーナーボックスへの若干距離があるが、ある程度管長があり、空気に勢いをつける慣性を持たせているようだ。
速度がついた状態でエアクリーナーフィルターにぶつかることで、スムーズにフィルターを越え、エンジンに空気が吸い込まれていくようである。
このレイアウトは先代からほぼ共通だが、さすが現代は令和の純正。ちょっと手を加えてこれ以上に良くなるとは思えないデキである。
実際、パーツ開発をした担当者に訊くと、先代86のダクトに、外気が直接入るようにホースを差したらパワーダウン。ラジエーターと吸気ダクトを仕切るプラスティックを外しても、パワーダウンしたとのこと。おいそれとパワーアップはできないほどに純正は優れたレイアウトなのだ!
ならば、純正の良さを伸ばすべく、エアクリーナーボックス自体を遮熱するような加工ならば、デメリットなく吸気温度を下げられるのでは? これについては、いずれ検証してみたいと思う。いや、スゴいな! GR86!