連載コラム「酷道を奔り、険道を往く」Vol.2

恐怖! クルマで渡れる驚きの吊り橋!【井川湖、奥大井湖上駅、そして接岨峡へ(酷道険道 :静岡県)】ダイハツ・コペン ローブ

静岡県の北部、南アルプスにめり込むように位置する奥大井エリア。
険しい山々に阻まれ、長野県側に抜けることは出来ない。
日本屈指の秘境をダイハツ・コペンで訪ねた。

TEXT:小泉建治(KOIZUMI Kenji) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)
ただでさえ足がすくみそうな吊り橋をクルマで渡るなんてどうかしている。

この「行き止まり感」が秘境そのもの

静岡県は東西に長い。例えば東京から名古屋に行くにしても、その道程のほとんどは静岡県に占められる。神奈川との県境から愛知との県境まで、東名と新東名を使った場合の距離は約160kmもある。「まだ静岡県か」とは、多くのドライバーが東名を使って関東から関西へ、あるいは関西から関東に向かうときに一度は口にする言葉だろう。

しかしその静岡県が、実は東西方向と同じくらい南北方向にも長いことはあまり知られていない。それもそのはず、南アルプスの山々が険しすぎて、静岡県の北端には道が通じていないからだ。古くから東海道という日本を代表する街道が発達し、現代も東名と新東名という大動脈を擁する東西方向に対し、南北方向の交通網はあまりに脆弱なのである。だから自ずと、南北の長さを実感する機会も得られないわけだ。

だからこそ、冒険心をおおいにかき立てられるエリアとも言える。なにしろ北側に接している長野県には通り抜けることが出来ないのだ。この行き止まり感こそ秘境そのもの。

そんなわけで今回は、一般人がクルマで行ける静岡県の事実上の北限とも言える井川湖、接岨峡の周辺、いわゆる奥大井と呼ばれる一帯を目的地とした。東京からでも日帰りで行こうと思えるギリギリの距離である。

右も左も白髭神社? 

スタート地点は、新東名の新静岡インターチェンジである。新東名の開通によって、寸又峡を含む奥大井エリアは関東に住む人間にとってずいぶんと身近になった。東名の静岡インターチェンジを使う場合と比べ、短縮できる距離は片道で20kmほどに過ぎないが、東名よりも新東名のほうが流れがスムーズであるのに加え、インターチェンジを出た後に交通量の多い静岡市内の中心部を通過しなくてすむのが大きい。

まずは安倍川沿いに県道27号を北上する。交通量は比較的多いが、流れはスムーズで走りやすい。そして中河内川との分流点に合わせるように左折し、さらに4kmほど進んだ後に県道189号に入る。センターラインが途切れ途切れに消えたり、急に道幅がググーッと狭くなる部分があったりと、いよいよ県道ならぬ険道の空気が漂い始める。

ほどなくして、鳥居に蔦の絡まった寂しさ極まりない神社が現れる。社殿もだいぶ傷んでいるようだ。鳥居の中央には白髭神社と記されている。神社の管理運営は、例えばお寺と比べてもかなり難しく大変だと聞く。「せめてお賽銭を」と思ってポケットから財布を出すも、お賽銭箱が見当たらない。二礼二拍手一礼をして、旅の無事を祈った。

面白いのは、この近辺には白髭神社がたくさんあるということ。後に地図で確認してみると、クルマで10分以内で行けるであろう範囲内だけで7ヵ所もある。いったいどんな由来があるのだろう? 熊野神社、北野神社、諏訪神社、氷川神社などは全国各地にたくさんあるけれど、こんなに狭い範囲内に同じ名称の神社が密集している例はなかなかないのでは? 地元の人はどうやって呼び分けているのだろう? ネットでサクッと検索してみても、詳細はわからない。道行く人に教えてもらえば良かった。今度行くときは、ぜひ聞いてみよう。

白髭神社密集地帯(?)を過ぎると、道幅はさら狭まり、路面も荒れてきた。対向車とのすれ違いにも気を遣い、場所によってはどちらかが後退する必要も出てくる。今回の旅の伴侶であるダイハツ・コペンは言うまでもなく軽自動車だから、そんなギリギリのすれ違いでもストレスは最小限ですむ。おまけに屋根を開け広げておけば、後方も含めて360°の視界が得られるから、こうした酷道険道での後退も容易だ。

余談だが、ここ10年ほど、欧州車を中心として全幅の拡大が著しい。Cセグメントで1800mm超えはもはや当たり前だ。「ヨーロッパだって道が狭いのになぜ?」と疑問に思ってしまうが、かの地は一方通行が多く、実はそれほどすれ違いに気を遣う場面は少なかったりする。路上駐車が許容されている社会では、全幅の狭さよりも全長の短さのほうが重要でもある。そして幅が広くなっても、そのぶん前輪の切れ角が増えていて、意外にも回転半径は小さくなっていたりもするのだ。

しかし我が国のこうした酷道険道を走ると、全幅の狭さのありがたさが身に沁みる。それにヨーロッパにだって縁石の飛び出た曲がり角や狭い駐車場などは多く、控え目な全幅を喜ぶユーザーは少なくないはずだ。今や日本車もグローバルモデルはどんどん肥大化し、5ナンバー枠も有名無実化しつつある。広すぎない全幅こそ「酷道険道の国、ニッポン」のクルマの大きな魅力として、グローバル市場でも堂々とアピールしたらいいのに。

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著者プロフィール

小泉 建治 近影

小泉 建治

 小学2年生の頃から自動車専門誌を読み始め、4年生からは近所の書店にカー アンド ドライバーを毎号取り…