基本情報

GRヤリス RZ“High performance”(GR-DAT)

GRヤリスは、GAZOO Racingが手がける3ドアハッチバック型のスポーツカーである。通常のヤリスと車名は近いものの、ボディ構造やパワートレイン、駆動システムなどは大きく異なり、モータースポーツでの使用を強く意識して開発されたモデルだ。

GRヤリスの大きな特徴は、1.6L直列3気筒ターボエンジン「G16E-GTS」と、スポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を組み合わせている点にある。現行型では最高出力224kW[304PS]を発揮し、6速MTに加えて8速ATの「GR-DAT」も選択できる。

2025年に発売された進化型では、GR-DATの制御改良、シャシー部品の締結剛性向上、ショックアブソーバーや電動パワーステアリング(EPS)のチューニング最適化などが実施された。さらに、現行の26式GRヤリスでは、新開発のGRステアリングやEPSの設定変更を採用するなど、モータースポーツで得た知見を反映しながら走りの質を高めている。

代表グレード例

現行の代表的な仕様は、競技ベースとしての性格が強い「RC」、装備と走行性能のバランスを取りやすい「RZ」、より高性能な装備を備える「RZ“High performance”」の3種類。

いずれも1.6LターボエンジンとGR-FOURを搭載し、6速MTと8速ATを選択できる構成となっている。

項目RC / RZ / RZ“High performance”
駆動方式4輪駆動方式 (GR-FOUR)
乗車定員4名
全長×全幅×全高3,995 × 1,805 × 1,455 mm
ホイールベース2,560 mm
最低地上高130 mm
エンジン型式G16E-GTS (直列3気筒インタークーラーターボ)
総排気量1.618 L
エンジン最高出力224 kW [304 PS] / 6,500 rpm
トランスミッション6速マニュアル (iMT) <br> 8速オートマチック (GR-DAT)
WLTC燃費12.4 (6MT) / 10.8 (8AT) km/L

GRヤリス 変遷

GRヤリス:RZ“High performance”(2020年モデル)

GRヤリスは、2020年に発売された比較的新しいモデルである。しかし、その背景にはトヨタのWRC参戦や、モータースポーツを起点としたクルマづくりの考え方がある。

トヨタは2017年にWRCへ復帰したが、競技でさらに高い戦闘力を得るには、市販車をベースに改造するだけでなく、競技で使うことを前提とした車両開発が必要だった。その流れの中で誕生したのがGRヤリスである。

2020年1月、GRヤリスは東京オートサロン2020で世界初公開された。同年6月には日本国内向けのラインアップが発表され、9月に発売。当初は、1.6LターボエンジンとGR-FOURを搭載するRZ、競技ベース用のRC、1.5L自然吸気エンジンとCVTを組み合わせたRSなどが用意された。

初期型のRZおよびRCは、1.6L直列3気筒ターボエンジンと6速MTを組み合わせた本格的なスポーツモデルとして登場した。コンパクトな3ドアボディに高出力エンジンと4WDを組み合わせた、WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデルとして開発された。

2022年にはGRMNヤリスが登場した。GRMNヤリスは通常のGRヤリスをさらに磨き込んだ限定モデルであり、軽量化やボディ剛性の向上、専用チューニングなどが施された。GRヤリスが単なる市販スポーツモデルではなく、継続的に鍛えられるモデルであることを象徴する存在だった。

2024年には、進化型GRヤリスが発売された。新開発の8速AT「GR-DAT」が追加されたほか、最高出力は従来の272PSから304PSへ向上した。6速MTに加えて8速ATを選べるようになったことで、より幅広いドライバーがGRヤリスの走りを楽しみやすくなった。

2025年には、さらに進化したGRヤリスが発売された。GR-DATの変速制御が磨き込まれたほか、シャシーまわりの締結剛性向上、サスペンションやEPSの再チューニング、Toyota Safety Senseの全車標準化などが行われている。

26年式GRヤリス:ステアリング

2026年4月には、「26式GRヤリス」が発売された。新開発の小径GRステアリングを採用したほか、高負荷での旋回時にも適切なアシストを行えるようEPSの設定を変更。RZ“High performance”系では、標準装着タイヤを新開発のブリヂストン「POTENZA RACE」へ変更し、ショックアブソーバーの減衰力特性も最適化された。

GRヤリスの変遷を見ると、一般的なモデルチェンジとは異なり、モータースポーツで得た知見を市販車へ反映し続けることで進化していることが分かる。登場から現在まで、GRヤリスは完成形として固定された車ではなく、走らせながら鍛え続ける車として展開されている。

GRヤリスの魅力

GRヤリスの魅力は、モータースポーツのために生まれた成り立ちを、市販車として味わえる点にある。

まず大きな魅力は、1.6L直列3気筒ターボエンジンとGR-FOURの組み合わせである。コンパクトなボディに高出力エンジンと4WDを組み合わせることで、発進加速やコーナー立ち上がりで力強い走りを得られる。単に速いだけでなく、路面に駆動力を伝えながら走る感覚を楽しめる点がGRヤリスらしい。

2024年以降の進化型では、6速MTに加えて8速ATのGR-DATが設定されたことも大きい。GR-DATは、ただのイージードライブ向けATではなく、スポーツ走行時のギヤ選択や変速応答を重視して開発されたトランスミッションである。MT操作に慣れていない人でも、GRヤリスの走りを楽しみやすくなった点は重要だ。

また、GRヤリスはモータースポーツの現場で得た課題を市販車へ反映している。2025年の進化型では、GR-DATの変速制御の改良、締結剛性の高いボルトの採用、サスペンションやEPSの再チューニングなどが行われた。見た目の変更だけではなく、走行時の応答性や一体感を高めるための改良が重ねられている。

さらに、エアロパフォーマンスパッケージの設定もGRヤリスらしい要素である。ダクト付きアルミフード、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、可変式リヤウイングなどにより、冷却性能や空力性能を高める構成となっている。スーパー耐久シリーズや全日本ラリー選手権で得た知見が反映されており、モータースポーツとの距離の近さが感じられる。

一方で、GRヤリスは万人向けのコンパクトカーではない。3ドアボディで乗車定員は4名、荷室や後席の使い勝手を最優先したモデルではない。価格や維持費も一般的なヤリスとは異なるため、実用性や経済性だけで選ぶ車ではないだろう。

それでも、GRヤリスには他のコンパクトカーでは得にくい魅力がある。モータースポーツで鍛えられた技術、コンパクトな車体を意のままに操る感覚、そして市販車でありながら競技とのつながりを感じられる存在感だ。

まとめ

TGRR GR Yaris M concept

GRヤリスは、通常のヤリスをスポーティに仕立てた派生モデルではなく、モータースポーツを起点に開発された特別なスポーツモデルである。

2020年の登場以降、GRヤリスはレースやラリーで得た知見を反映しながら進化を続けてきた。2024年にはGR-DATの追加や出力向上、2025年には変速制御やシャシーまわりの改良が行われ、完成後も鍛え続けるモデルであることが明確になっている。

2026年にはステアリングやEPS、タイヤなどにも改良が加えられ、GRヤリスは現在もモータースポーツの知見を反映しながら進化を続けている。

走りを重視するユーザーにとって、GRヤリスは今なお特別な選択肢だ。MTだけでなくGR-DATも選べるようになったことで、より幅広い人がその走りを体感しやすくなった。今後もモータースポーツの現場で得た知見をどのように市販車へ反映していくのか、GRヤリスの進化に注目したい。