ホンダS07Aのツインインジェクター仕様。2本にすると何がいいのか。[内燃機関超基礎講座]

ホンダは2011年に新世代の軽自動車用エンジンを開発したが、2年後に早くも大がかりな効率向上策を施した。技術上のハイライトは1気筒あたり2本のインジェクターを備えるツインインジェクター。効率向上に終わりはない。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也/HONDA

日産(1.5ℓ・直4)、スズキ(1.2ℓ・直4)につづき、ホンダもツインインジェクターを取り入れた。2013年11月に発売したN-WGNに搭載するエンジンで、0.66ℓ・3気筒自然吸気である。型式はS07A。「走りと燃費を高次元で両立させる新世代パワートレーン群『EARTH DREAMS TECHNOLOGY』の1バリエーションとして2011年12月のN-BOX発売を機に投入されたエンジンと同じ型式名で、その発展形という位置づけだ。

ベースとなるS07AはDOHC+VTC(連続可変バルブタイミングコントロール)、ハイドローリックラッシュアジャスター、高タンブルポート、パターンピストンコーティング、2段リリーフオイルポンプなどの技術を採用することにより、従来0.66ℓエンジン比で13%トルクを向上させると同時に、JC08モード燃費を10%向上させた。S07Aツインインジェクター仕様は、43kW/65Nmの最高出力/最大トルクはそのままに、JC08モード燃費をベース仕様比で8%向上させている。有り体に言えば効率を向上させたわけで、圧縮比はベース仕様の11.2から11.8に高めている(レギュラーガソリン対応)。

インジェクターの位置はシングル時と変わらないが、吸気バルブに近づけるため、長くした。長くするとインジェクター内にある動弁系の出力を上げる必要があり、応答性が悪化する。ゆえに、長くするにも限界はあるが、「割と伸ばしたほう」とは開発にあたったエンジニアの弁。ヘッド側に内蔵物があるため短くするにも限界があるため、長くする手法を選んだという。
ベース仕様は1本のインジェクターから二股に噴いていたが、ツインインジェクターはそれぞれ1つの吸気バルブに向けて噴けばいい。1本あたりの流量は半分になるが、4kPaの最大噴射圧は変更なし。4つの噴孔に、粒径を細かくするための工夫があるという。

1気筒あたり2本のインジェクターを装備したのは、燃料の霧化を促進させるためだ。インジェクター1本あたりの流量を半分にできるため、微粒化したうえでペネトレーション(噴霧の直進性)を弱くできる。結果、ポート壁面への燃料の付着が少なくなり、燃料消費量を抑えるメリットを享受できる。

ベース仕様は吸気側のVTCを利用した内部EGRを採用していたが、ポンピングロスの効果などをより高めるため、外部EGRを採用した。その構造がユニーク。一般的な外付けクーラーを採用せず、EGRガスの冷却機能をヘッドに組み込んでいる。ヘッドの再設計が必要になるが、ツインインジェクターを採用する時点で必要なので一石二鳥。EGRパイプを冷却水の流路内にレイアウトしたうえで広く接触させることで、効率良く燃焼ガスを冷却する。広く一般的なEGRクーラーが不要なため、軽量・省スペース・低コストにつながる。

S07Aベース仕様は吸気側に搭載しているVTCを利用した内部EGRを採用しているが、ツインインジェクター仕様は外部EGRとした。外部EGRの場合は外付けのクーラーを装着するのが一般的だが、S07Aツインインジェクター仕様は、EGRパイプをヘッド内に取り込んで冷却水の流路で挟み、冷やす仕組み。ナトリウム封入排気バルブの採用はノッキング回避に、10km/h以下で機能する減速時アイドリングストップ機構は燃費向上にダイレクトに貢献する。

実はホンダの乗用車用エンジンでは初採用のナトリウム封入排気バルブ。中空バルブの内部に封入したナトリウムがバルブの開閉にともなって移動し、傘~軸~バルブガイド~冷却水へと熱を効果的に伝える。結果、排気バルブ近傍の温度を下げる効果を発揮。
クランクシャフト両端のオイルシールを改良することにより、十分なシール性能を確保しながら、締め付け量を低下。ジャーナルを鏡面仕上げとしたのに加え、ベアリングにモリブデンコートを施し、摩擦抵抗を低減させた。

燃費に利くのはエンジンの進化だけではない。CVTも進化を遂げた。ベース仕様はアイドリングストップした際の油圧確保に電動オイルポンプを使っていたが、進化版はアキュムレーターで油圧を確保する。さらに、エンジン冷却水を循環させてフルードを温めるCVTウォーマーを追加して、始動直後のフリクションを低減。ロックアップ領域を拡大させたが、これによって従来よりも低い回転域での振動対策が必要になり、新型のダンパーに切り換えた。大から小まで、効率向上のためのアイテムが満載である。

三元触媒の横にあるEGRパイプが外観上の特徴。エンジンだけでなく、CVTの進化も大きい。ケース薄肉鋳造技術や軽量デフケース&ファイナルギヤの採用、アキュムレーターを採用したことによる電動ポンプレス化などにより、2011年に発売のN-BOXが搭載するCVTと比較して約3.9kgの軽量化を図っている。約10km/hからアイドルストップさせることで、燃料カット後のアイドル時間をなくし、燃料消費量の低減を可能にした。

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