e-POWERもBEVも 低コスト化に勝算あり 日産のモジュール技術「X-in-1」をじっくり観察してみる

日産が発表した「X-in-1」電動モジュール
日産自動車は、2023年3月7日に新開発電動パワートレーン「X-in-1」の試作ユニットを公開した。電動車両の最大の課題とも言える高コストな車両価格をエンジン車並みにしていくうえで重要な技術となるモジュール化。日産が出した回答である「X-in-1」」をじっくり眺めてみる。

発表された「X-in-1」
モジュール化とともに、e-POWERとBEV用の要素技術(モーター/インバーター/ギヤ)の共用化もコスト削減に大きく寄与する。

「X-in-1」の「X」は、シリーズハイブリッド技術であるe-POWERの場合は、「モーター/ジェネレーター/インバーター/増速機/減速機」の5つのユニットを指す。BEV(電気自動車)の場合は、「モーター/インバーター/減速機」の3つのユニットだ。これをひとつのモジュールにするのがX-in-1である。

X-in-1を見る前に、まずは第一世代e-POWERを見ていこう。

第一世代e-POWER

エンジンコンパートメントはぎっしり。インバーターの搭載位置に注目。
前型ノートe-POWER
前型ノートで初搭載された第一世代e-POWERユニット。左は1.2L直列3気筒DOHCエンジン(HR12DE型)

初代e-POWERを搭載したのは2016年のノート(前型)が最初。こちらは、インバーターは車体付けになっている。モーター/ジェネレーターがあって、リデューサー(減速機)とインクリーサー(増速機)が入っていてギヤボックスがある。それぞれが別々のボックスに収納されている。したがって2本のオレンジ色の強電ケーブルでつながっている。当然その分重量もあるし、スペースもとる。

第二世代e-POWER

第二世代e-POWER。前型とエンジンコンパートメントの様子を比較してほしい。
現行ノートは、e-POWER専用車となった。
第二世代e-POWER。発電用エンジンは引き続きHR12型1.2L直3エンジン。オレンジ色の高電圧ケーブルは1本だけ見える。
インバーターは、エンジンの振動を受けやすくなるため、さまざまな対策が必要になった。

次に第二世代のe-POWER。
これは現行ノートe-POWERのものだ。インバーターが40%小型されている。そして、モーターと一体化された。サイズは20%小さくなった。インバーターは車体付けだったのが、1個のユニットになっている。強電ケーブルも1本だけになった。

次世代e-POWER用「5-in-1」

e-POWER用の5-in-1では現行型よりサイズが10%小さくなる。技術陣は「サイズでいうと10%減。10%というと大したことないように見えるんですが、エンジンコンパートメントにちゃんと入れてあげるというところは非常に大事になる。エンジンコンパートメントの効率化ももっと攻められる。もっと小さくできるようになります」と語った。

そして5-in-X(次世代e-POWER用)
次世代e-POWER用の「5-in-1」は、「モーター/ジェネレーター/インバーター/増速機/減速機」がひとつのボックスに収まっている。したがって、強電ケーブルはなくなった。

側面視
エンジン側から見たカット
後方(車載された場合のバルクヘッド側)から見たカット。こちらからの方がサイズがコンパクトになったことたわかりやすい。
日産の広報カット
左側に発電用エンジンの出力軸が繋がる。
現行型よりも10%コンパクトになる。
「モーター/ジェネレーター/インバーター/増速機/減速機」がモジュール化される。
それぞれがどう収まるかの解説図

単に、別々の箱に収められていた部品をひとつの箱に収めればいいというわけではない。単純に詰め込めばいいわけではない。統合するときにそれぞれの機能間でいろいろな技術的なトレードオフや干渉が起きる。たとえば、音/振動や電磁気的な干渉も生じる可能性がある。日産技術陣は、これまで積み上げてみたノウハウをフィードバックしながらX-in-1を成立させた。

公開されたモジュールは、「あるモーター出力を前提としてCセグメントくらいのクルマに載せる想定」のもので、実用化の際には「もう少し小さくなるかもしれない」とのことだった。

3-in-1(次世代BEV用)

CセグメントのBEVを想定した3-in-1モジュール
発表会で展示されていた「3-in-1」
後方視
インバーターはここに収まる。想定ではSiCパワー半導体を使うことになっている。
側面視
反対側
こちらも日産の後方カット
右斜めから見たカット
現行型よりも10%コンパクトになる。
3-in-1はBEV用のモジュールだ

こちらは次世代BEV用のモジュール。「モーター/インバーター/減速機」をひとつの箱に収めた。これは、現在主流の「永久磁石式モーター」を収めた場合の3-in-1モジュールで、アリアが使う「巻線界磁式モーター」を収める場合は、もう少しサイズが大きくなる(横方向に伸びる)という。ただし、主流はあくまでも永久磁石式モーターで、巻線界磁式モーターはプレミアムクラスなど、限られた車種にのみ載せられる見通しのようだ。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…