日産BEVの対中国戦略「制御技術は簡単に追いつかれない。上質感を高めることがライバルに対する勝ちシナリオだ」

日産のBEV戦略はどうなっているのだろうか?
3月9日にモジュール化した新開発電動パワートレイン「X-in-1」の試作ユニットを公開した日産。日産でパワートレイン開発を統括する専務執行役員の平井俊弘氏に、日産の電動技術と戦略についていろいろ訊いてみた。

先に登場するのは、BEV用の「3-in-1」

日産が発表した新開発電動パワートレイン「X-in-1」の試作ユニット
平井俊弘専務執行役員 パワートレイン & EV技術開発本部 担当

MF:次世代の「X-in-1」は、ここにe-POWER用の「5-in-1」とBEV用の「3-in-1」が展示されています。両方とも同じタイミングで登場するんですか?
平井氏:BEV用の方がちょっと早いと思います。

MF:「X-in-1」では、従来のSi(シリコン)を使ったパワー半導体に代わってSiC(シリコンカーバイド)を採用するとお話しになりました。SiCに関してはまだまだコストが高いと思うのですが、2026年にはSiと同等までコストが下がるという見通しなのですか?
平井氏:SiCは歩留まりが非常に悪い。その生産技術の革新がないと、いまのSiよりコストはなかなか下がらないと思っています。2026年時点のある想定では残念ながらSiより高いかもしれません。しかし、スイッチングロスの低減や効率を上げることで、たとえばBEVですと、全体の効率を上げられますので、バッテリーの容量を下げられます。このコスト低減が、SiCとしてのコストの落ち着き度合いよりも上回りますので、2026年くらいからは採用ができると考えています。

MF:日産は革新的な燃焼のエンジン、STARC(スターク)コンセプトで熱効率50%を目指しています。将来の電動化とSTARCはどういう関係になりますか?
平井氏:STARC燃焼コンセプトを紹介させていただいたのは、1年前、2年前だったでしょうか(編集部註:2020年10月のアーヘン・コロッキウムで発表)。熱効率50%を実機で達成しておりまして、その要素技術、たとえば燃焼効率を高める技術のひとつひとつを、いま製品に織り込んでいるところです。最近発表したe-POWERも熱効率が40%超えて45%に近づいております。2026年までに出そうとしているe-POWERについても熱効率はさらに高める。STARCエンジンのコンセプトを剥ぎ取りといいますか、それを確実に製品に活かしている、そういう段階でございます。

STARCコンセプトが目指すのは熱効率50%という領域だ。
その技術はすでに現行パワートレーンにも活かされているという。

日産の電動車両は、一般的な永久磁石式モーターと、アリアで初採用した巻線界磁式モーター(ブラシがあるタイプ)をラインアップに持つ。巻線界磁式モーターは、将来的には「非常にプレミアムといいますか、モーターとしての品質、性能レベル、特に音振動、効率を高めることができます。我々の位置づけは上位機種のクルマに巻線界磁式モーターを採用するというひとつの持ち玉ができたと思っています。ふたつのラインアップを持ちながら、車格、お客さまの要求に応じて使いわけていく。X-in-1についても両方の技術が収納できるようにしております。」(平井氏)だという。

MF:3-in-1は永久磁石式と巻線界磁式モーターも同じサイズでいけるんですか?
平井氏:巻線界磁式は少し大きいので、このままでは入りません。後ろにブラシがある関係で、もう少し横方向が長くなります。しかし、それは小改造で対応できます。

MF:以前、栃木工場で見せていただいた巻線界磁式モーターの組立のキャパシティは将来的にはもっと拡大させるんですか?
平井氏:今日ご説明させていただいた永久磁石モーターが主流になると思います。巻線界磁式は、プレミアム、あるいは特殊なクルマ向けですね。いかんせん、ちょっとコストが高い。とはいってもクオリティも高いので。

MF:永久磁石モーターの重希土類の使用を2011年比で99%減とおっしゃっていましたが、そんなに減らしてできるようになるんですか?
平井氏:なります。もうできています。

MF:競合他社と比べても99%減はかなりのところまでいっているのでしょうか?
平井氏:どうなんでしょうね。皆さん、もちろんコストもありますが、地政学的な問題もありますから。調達できなくなることを考えて代替材料を使うというのが必然だと思います。

全固体電池はいつ出てくる?

全固体電池のエネルギー密度は、リチウムイオン電池の2倍を想定している。
全固体電池搭載のBEVは2028年度に登場する予定だ。
充電時間は3分の1になる。

日産は2023年2月27日の「日産自動車 ビジネス戦略アップデート」のなかで2030年に向けてパワートレーンの種類を
2020年:49種(e-powertrainが4、ICEが45)
2026年:27種(e-powertrainが4、ICEが23)
2030年:19種(e-powertrainが3、ICEが16)
まで減らす計画だ。

また、全固体電池に関しては、2028年度に市場投入するとしている。2028年度ではリチウムイオン電池のコストは1kWh=75ドル以下まで下がっていると予想している。エネルギー密度が2倍で充電時間が3分の1になる全固体電池は登場時点でリチウムイオン電池より安価で将来的には1kWh=65ドル以下まで下がるとしている。

アリアに採用されている巻線界磁式モーターのローター部分。
ステーター部分
製造は栃木工場で行なわれている。

MF:全固体電池については、いままでも発表なさっています。2028年に出てくることになっています。エネルギー密度が倍になりますよね。だからバッテリーの単価は上がってもその分少ないバッテリー量で済むからコストが下がるということですか? それとも全固体電池になると、そもそもコストが下がるものなんでしょうか?
平井氏:ふたつあります。容量50kWhは全固体電池でも50kWhです。しかし、エネルギー密度が上がればコンパクトにはできます。コンパクトにできることで構造体のコスト低減は間違いなくあります。もうひとつは、使っている材料そのものに、ニッケル、マンガン、コバルトといった高価な材料を使わない。材料改革が全固体電池の一番のポイントですので、それが達成されることによって材料単価を下げてコスト削減を図るということで、コストを半分にしようと考えています。

MF:全固体電池のパイロットラインが2025年にできるんですよね。
平井氏:はい。2024年にほぼできるようにいますでに工場準備を始めています。

日産の全固体電池のパイロット製造の様子

MF:プレゼンを伺って日産は進んでいると思ったのですが、最近は中国勢のBEV技術がけっこう進んでいるという見方もあります。彼らをライバルだと思ったらどれくらい優位性があるとお考えですか?
平井氏:特許を持っていることもあり、制御技術はそう簡単には追いつかれないと思います。BEVでただ走るということであれば、彼らもそれなりに頑張っていますし、どちらかといえば、彼らはクルマ全体の価値観を創出しています。しかしこの技術に関していえば、そう簡単には届かないと思います。我々10年間かかってここまで来ていますので。

MF:あとはマーケット、買う人がそこをちゃんと感じ取ってくれるかどうか?ですね?
平井氏:おっしゃる通りです。ドライビングのストレスゼロってわかっていただける方にはわかっていただけるし、価値を認めていただける方には認めていただけると信じてやっているところはあります。一番、お客さまに訴えるんじゃないかなというところは、クルマ酔いしないクルマにあると思っています。自動運転になると運転する意思がない。運転の意思があれば、自分でクルマの挙動に備えられますが、そうでないのが当たり前になってくる2030年以降のモビリティの世界で、じつはストレスフリーは大事だと思っています。移動空間としての必要性が全然違うという状態にしておくことが、モビリティとしての新しい価値をより生んでいく。パワートレーンとしては出しゃばるというよりは、当たり前のものでありながら、上質感を高めるということが中国やその他のライバルに対する勝ちシナリオだと思っています。

キーワードで検索する

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…