ダイハツ・ロッキーのWA型エンジン:ガソリン/ハイブリッド両方に最適な設計に

HEV用:WA-VEX型エンジン+ハイブリッドトランスアクスル
ダイハツが新世代エンジンとして登場させたWA型エンジンは、現在ふたつの仕様を用意する。ガソリン車用とハイブリッド車用。これらふたつは機械的構成を大きく違えていない。高効率をひたすら追求していくとゴールはひとつになる――という例を見た思いである。
TEXT:小笠原凛子(Linko OGASAWARA) PHOTO:山上博也(Hiroya YAMAGAMI)/MFi FIGURE:DAIHATSU

モーターファン・イラストレーテッド vol.190より一部転載

ダイハツ工業からストロングハイブリッドが出たとき、トヨタ自動車の「THS II」ではなく独自開発のシリーズハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」だと聞いて驚いた方もいるだろう。ダイハツの主戦場となる日本とASEANで環境規制により電動化が進むという想定の下、トヨタグループとしてAセグメントの台数拡大を担うハイブリッドシステムだ。

e-SMART HYBRIDに搭載する「WA-VEX型」はエンジン車としてもハイブリッド車(HEV)としても高効率な「真のエンジン」を目指す中で生まれた。WAエンジンに共通するのは、エンジンの寸法や骨格で決まる部分、つまり基本の素性によってベストな動力性能や燃費を実現するという方針だ。可変バルブタイミング機構(VVT)など可変機構はその次、という位置付けだ。

WA型のコンセプトは1.2L、3気筒、ロングストローク。Aセグメントの車両の動力性能と燃費のバランスから、排気量を1.2Lに決めた。冷却損失低減の意味から気筒数は3気筒でロングストローク……というようにして、素性が決まった。従来のエンジンと同等の体格に収まる範囲でのロングストロークとしたが、これはDNGAが「軽自動車を起点に上位のセグメントに上げていく」というコンセプトであるためだ。

ダイハツでもモデルベース開発(MBD)の活用が進んでおり、エンジン開発でもまずは目標のトルクや燃費を決めてから素性を逆算する格好で開発した。その素性のためにどんな燃焼の素性が、燃焼速度が必要かを求めた。

WA-VE型

タンブルの乱れのエネルギーを最も高くできるようにした高タンブルストレートポートは、CAEで60〜70種類の候補の中から選定した。上死点にピストンがくるときに一番エネルギーが高い状態で、そのまま燃焼に変えられるような仕様のポートにした。これはHEV用のWA-VEX型と、エンジン車用のWA-VE型で共通だ。「コンパクトな燃焼室で冷却損失をとにかく減らすという思想で開発した。効率のいいところでピストンを押すために、強タンブルによる高速燃焼により耐ノッキング性を高めたい。そのために、ポートを寝かせながら、バルブが立った状態で、バルブの傘のあいているところを狙えるような形状を見出した。これにより、燃焼室の表面積を大きくせずに冷却損失を抑えながら、高い乱流エネルギーを作ることができた」(開発担当者) 

ASEANへの展開が前提なので直噴はコスト的に難しかった。WAエンジンは、「タント」でも搭載したデュアルインジェクターと、ふわっとした噴霧が可能な低ペネトレーション噴霧を採用している。ノッキング対策をしながら、直噴と同じような効果が得られる。デュアルインジェクターにすることで噴射期間を短くし直噴と同様のノッキング抑制効果を得ながら、低ペネトレーション噴霧でボアに燃料をつきにくくした。直噴のオイシイところをとりながら、直噴の苦手なところを克服し、価格も抑えた。

 WAエンジンは圧縮比12.8で熱効率を高める一方で低速でトルクを出すエンジン素性になっている。HEV用のWA-VEX型では中低速域のトルクと燃費性能が必要となったため、同じ圧縮比12.8に着地した。最高熱効率は40%を達成し、熱効率のよい領域で連続的に発電できるようにした。

e-SMART HYBRIDはCVTのエンジン車から乗り換えても違和感が少ないと評判だという。エンジンの回転数を高効率なポイントに持っていくのを、車両優先ではなく、ドライバーともシンクロするようにして、違和感をなくした。ただ、排ガス性能の面でペダル操作に対するスロットルの開き方はエンジン車とは異なっている。エンジン車であれば、動力の要求に対して即座にスロットルを開けるが、シリーズハイブリッドではアクセルペダルに合わせて動くのはモーターだ。スロットルはじわっと開けることで、振動やノイズや環境性能に影響しないようにチューニングしている。

エンジンがかかり始めたときの振動やノイズを解消するため、製品化に至るまで車両とエンジンの開発部隊が一体となってノイズや振動の改善に取り組んだ(開発担当者)という。

特徴的なのが、HEVのみに搭載するフレキシブルフライホイールだ。フライホイールのウエイトとクランクシャフトの間で周波数を低くし、他の振動の周波数からずらすことで、ノイズや振動を打ち消す。また、3気筒エンジン開発のノウハウを生かしてクランクシャフトの高剛性化、ピストンやピストンピン、コンロッドの軽量化など素性を磨いて3気筒エンジン特有の偶力を1l並みに抑えた。これはHEV用のWA-VEX型とエンジン車用のWA-VE型で共通だ。ピストンピンに至っては、軽自動車用のエンジンよりも細いのだという。

エンジンが再始動したときのショックを抑えるため、回転上昇レートのチューニングも行なった。時間軸に対してどういうレートでエンジンの回転数を狙ったポイントに持っていくか、どんな速度帯であげるか、スロットルの開け方は……と運転要求や運転点に応じて制御を作り込んだ。振動やノイズの解消だけでなく、ドライバビリティも考慮している。

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