今回、AiPを取得した水素焚きDFエンジンは、水素と従来の低硫黄燃料油を燃料として自由に切り替えが可能なエンジンとなっている。水素燃料の選択時は、本船の液化水素用タンクから自然発生したボイルオフガスを主燃料として95%以上※2の比率で混合のうえ発電し、船内へ電力を供給することで、船舶から排出される温室効果ガスを従来から大幅に削減する。
川崎重工は、これまでに200台以上の天然ガス専焼エンジンを販売した実績を保有している。今回、天然ガスに比べ燃焼速度が速く逆火しやすい、かつ燃焼温度が高いという水素の特性に合わせた燃焼技術を開発することで、異常燃焼や燃焼室部品の過熱などの技術課題を克服し、単筒試験機による実証試験で安定した水素燃焼が可能であることが確認された。川崎重工は、今回の水素焚きDFエンジンの開発をNEDOグリーンイノベーション基金事業※3の一環として進めており、2020年代半ばの実用化を計画している大型液化水素運搬船に本エンジンを搭載し、実船試験による実証を進める予定としている。
川崎重工は、脱炭素社会に向けた水素エネルギーの普及を見据え、水素サプライチェーン(つくる・はこぶ・ためる・つかう)の技術開発を進めている。本エンジンの技術は、水素を「はこぶ」「つかう」といった需給両面を担っている。
【水素焚きDFエンジン仕様】
定格発電出力 | 2,400kWe(水素燃料使用時) |
シリンダ径 | 300mm |
※1 基本設計承認(AiP:Approval in Principle):
設計初期の段階あるいは特定の実装対象船舶が決定する前の段階で、国際条約や船級規則など既存の規制に基づき、設計を審査し、要件への適合の証明として発行されるもの。
今回のAiPは、IGCコード(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying Liquefied Gases in Bulkの略称で、液化ガスのばら積運送のための船舶構造および設備に関する国際規則。1986年以降に建造された全ての液化ガス運搬船に強制的に適用され、日本海事協会鋼船規則にも織り込まれている。)およびHAZID解析法(システムの潜在的危険因子の発生頻度を専門家間の討議により決定し、その発生頻度を減少させるための対処方法を抽出するリスク評価手法の一つ)を用いたリスク評価結果に基づき、日本海事協会から付与された。
※2 水素燃料と低硫黄燃料油の合計カロリーに対する水素燃料カロリーの割合を示す。
※3 NEDOの「次世代船舶の開発/水素燃料船の開発/舶用水素エンジンおよびMHFSの開発」にて実施。