JFEスチール:ニッケルフリー合金鋼粉『FM1300S』を開発

JFEスチールは、ニッケル(Ni)の含有無しでありながら、引張強さ1300MPa級の高強度と、Ni含有合金鋼粉と同等以上の靱性および疲労強度を備え、被削性にも優れた粉末冶金用途向けのNiフリー合金鋼粉『FM1300S』を開発した(図1)。

 顧客工場での焼結部品製造時に、特殊な炉を用いた1200℃を超える高温焼結(※1)ではなく、普通焼結(※2)で部品を製造することができるため、大幅なコスト低減だけでなく、エネルギー使用量やCO2排出量の削減も可能となる。

 焼結部品には、Niが4%含まれる合金鋼粉が広く使われているが、焼結後に被削性が悪化して加工費が増加するだけでなく、Niの市況影響を受けやすいという課題がある。JFEスチールは、多彩なラインナップを持つNiフリー合金鋼粉『FMシリーズ』を開発・販売し、顧客の製品品質向上およびコスト低減に貢献してきた。一方で、1300MPa級の引張強さが要求される部品には、4%Ni合金鋼粉およびNiフリー合金鋼粉のいずれを用いる場合でも、高温焼結が必要になってしまうことから、部品製造時のさらなるコスト低減が求められていた。

 そこでJFEスチールは、モリブデン(Mo)粉を拡散付着させた高純度純鉄粉に、微細な銅(Cu)粉を混合した合金鋼粉『FM1300S』を開発した(図2、図3)。微細なCu粉および粒子表層のMo粉が焼結を促進するため、普通焼結でも、引張強さ1300MPaを超える高強度化に成功した(図4)。さらに、高純度純鉄粉により、圧縮成形時の高密度化が可能となるため、4%Ni合金鋼粉と同等以上の高強度、高靱性および高疲労強度を実現した(図5、図6)。

【図2】『FM1300S』の粒子構造
【図3】『FM1300S』の組織構造
【図4】焼結密度と引張強さの関係
【図5】焼結密度と衝撃値(靭性)の関係
【図6】FM1300Sの疲労強度(686MPa成形)

 これにより、従来の高温焼結で製造された引張強さ1300MPa級焼結部品に比べて、大幅なコスト低減だけでなく、エネルギー使用量やCO2排出量の削減も可能。今後は、高強度が要求されるスプロケットをはじめとする自動車部品や、耐摩耗性が要求される建設機械部品などへの適用を目指す。

※1 高温焼結
耐熱性の高い特殊なトレーに部品を並べて載せ、1,250℃前後の焼結炉内に、プッシャー装置で1トレーずつ挿入する焼結方法。
※2 普通焼結
最も一般的に使用されているメッシュベルト炉(最高温度1,150℃)を用いた焼結。ベルトコンベヤで連続的に部品を挿入できるため、高温焼結に比べて生産性が高い。

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