スバルFB16DITとはどんなエンジンだったのか。CB18先代にあたるダウンサイジングユニットの特徴[内燃機関超基礎講座]

2020年にデビューしたスバルの二代目レヴォーグは新エンジンCB18に注目が集まった。では、2014年の初代レヴォーグ誕生時に登場したFB16の直噴ターボ仕様とはどのようなエンジンだったのか。当時のレポートから追ってみよう。

FB16は2010年に登場。それまでスバルBOXERの特徴であったビッグボア&ショートストロークを、一気にロングストローク化した当時の新世代エンジンだった。

ご存じのように、水平対向エンジンは直列やV型より全幅が大きくなるため、排気量アップのためにストロークを伸ばすことが搭載の都合上難しい。しかし、ビッグボアだと冷却損失が大きいばかりか、ヘッドをコンパクトにできず、燃費や軽量化には不利となるため、今日のエンジンに要求されるトレンドに沿わなくなる。長くスバルの主力エンジンであったEJ型を代替するにあたって、FB型では思い切ってロングストロークに振ってきた。その後、FB型はNA2.0ℓと2.5ℓのスケールアップ版が登場したのだが、初代レヴォーグ登場にあたって、シリーズ初の過給、さらに直噴化を伴った仕様が開発された。

フロント搭載の水平対向でネックとなるのは何といってもターボの置き場所。写真を見れば如何に余裕がないかがわかる。シャシー&サスペンションとのせめぎ合いでスペースを確保するのは旧型と変わらない。
直噴&ターボ化という大改変に伴って、自然吸気版とは全く違う、いわば新規エンジンともいえる開発設計が行なわれた。NA版と同じなのはクランクシャフトのみ。過給による増加した燃焼圧力を受け止めるための強化と、主に燃費向上のためのフリクション低減策が大きな改良ポイントの柱となっている。

FB16DITは、従来NA2.5ℓが載っていたクラスを担うのが目的で、テーマはやはりというべきか燃費の向上。100km/h巡航で航続距離1000kmを超えることを狙っている。また、国内専用車種ということで、要求の高いレギュラーガソリン仕様としていることも注目される。

その中身であるが、ベースとなったNA仕様から、クランクシャフト以外はほぼ新規起こしという大改変を行なっている。燃焼圧が2割以上アップしていることに伴い、オープンデッキシリンダーをセミクローズにするなどのシリンダーブロックの剛性アップ。ターボ化により厳しくなるノッキングへの対応として、片バンクのみに設置していたノックセンサーを両バンクに装着。コンロッドやピストンピンなど、燃焼圧を直接受ける部分の強化。さらに摺動部分のラッピングなど、手のかかるチューニングまで施して、高トルク対応と抵抗軽減に注力した。

小径のターボチャージャーを1kPa(絶対圧)というハイブーストで回す。インターセプトポイントは最大トルク発生点の1800rpm。それ以上はツインスクロールでカバー。ダウンサイジングターボの常套手法である。

直噴化については、BRZ用FA20で採用された直噴&ポート噴射併用のD-4Sを使う手もあったと思われるが、直噴ターボ化において最重要視されたのは、いかに吸気流動を高めて素早い燃焼を行なうか、ということであり、その目的を達成するためには直噴の採用だけで十分で、あえて高コストのD-4Sを使う必要はなかったらしい。過給エンジンで11.0という高圧縮比、しかもレギュラーガス仕様となれば、ノッキング対策はどうするのだろうか?という問いには、意外にもEGRクーラーだけでかなりの部分クリアできるのだという。

ピストンの比較。左がFB16DIT、右がFB16。上側の窪みに燃料を直接噴射して濃い混合気で着火、その下側の部分は吸気を受けてタンブル流を発生させトータルでストイキ前後の混合気を急速燃焼させる。同じ直噴のFA20と比べて大分設計思想の異なるピストンである。
コンロッドの比較。右のNA仕様と比較するとI断面の肉厚が多い。小端部から下部もすぐに絞らずにそのままの断面形状を延長、大端部へつながる部分はなだらかなテーパー上にして、ターボ化による燃焼圧の向上を受け止めるように改良されている。
ピストンピンを受けるボスを下側に向かってテーパー形状に、また、コンロッドの小端部の先もテーパー加工。往復慣性重量の軽減は性能面すべてに効くだけに、こうしたグラム以下の微細な削り取りが行なわれる。
吸排気バルブ。下がFB16DIT。バルブステムをラッピング加工しているの表面の光り具合でわかる。生産工程が明らかに増え、手間のかかる技法だが、バルブ駆動の抵抗は着実に軽減される。過給のためというより燃費対策に敢えて採用した部分だろう。

レヴォーグにはFB16DITの他に、2.0ℓターボのFA20DITも搭載された。こちらはすでにフォレスターに採用されていたが、巷間「本当にFA20がベースなのか」という疑問があるので、それを開発者にぶつけてみたところ、高出力を狙うために必然とボア86mmになり、ボア&ストロークがFB20と違うことから、届け出上の問題でFAという名称になっただけで、技術的な内容はFAよりFBに近いということだった。

ちなみに、FA20DITはボア径が小さくなったにもかかわらずボアピッチは前任のEJ型と同じ。生産上の都合もあるだろうが、その余裕はクランクウェブを厚くすることに充てている。これは取りも直さずクランク剛性が上がることを意味し、NA比5割もの出力アップでも、クランクは流用できることになった。

「でも、もうこのクランクは『カミソリ』じゃないんですけどね」

スバリストはこの言をどう捉えるのだろうか。

クランクシャフト。NA版と唯一同一な部分。ボアが小さくなってもボアピッチをEJと同じにしているため、その差をクランクウェブの厚みに充てた。それでクランク剛性は飛躍的に上がり、ターボ化に際しても余裕は十分というわけだ。
シリンダーブロック。完全バランスのBOXERといえど、クランク支持はブロックに頼るためその剛性は重要だ。オープンデッキ形状ながらつっかえ棒でライナーを支えて剛性を上げている。ここは音振にも確実に効いてくる部分だ。

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