日本の自動車技術も決して欧州に劣っていないことを知らしめたマツダのスカイアクティブ・テクノロジー。ハイブリッドや過給機などの「飛び道具」を使わずとも、ガソリンエンジン車で3リッターカーを実現できることを示した。それに続けとばかりに、ダイハツが2011年に発表したのが、この「ミラ イース」だ。アナウンスする30km/ℓの成績はJC08モードでの計測値であり、コンベンショナルなエンジン車の燃費値において堂々のトップを誇った。
驚くべきはもうひとつあり、車両価格が最廉価グレードで80万円を切ること。これは某HEVの半額を目指した数字であり、非常に挑戦的かつ意欲的である。幾多もの障害を乗り越え、最高峰レベルの性能を実現できたのは、全社が一丸となって「ミラ イースをいい車にする」という強い目的意識を共有したから。そのためにダイハツは「バーチャルカンパニー」を設けてチーム/メンバーのベクトルを一致させた。まったくぶれない全員の想いが、ミラ イースを産んだのだ。
そもそも低燃費車とは自動車の維持費を抑えられることが魅力であり、その意味からすれば車両価格が低いのは理想。“ガソリン料金を節約できるのは富裕層だけ”ではいけないのだ。しかし当然ながら、安い車に高価な技術や素材を盛り込むことは困難。世界でいちばん進んでいる車を目指しながら、ありとあらゆるポイントで「無駄の節約」と「機能の見直し」がなされた。
ベースとなったエンジンはKF-VE型。ダイハツの軽自動車用ユニットとしては2006年にデビューしたロングストローク型のエンジンで、そこからさらにさまざまな改良がなされた。「いまある技術とリソースを最大限に活用し、リッター30キロを目指すプロセスは、非常に楽しくやりがいのある仕事でした」と、エンジニアは当時のインタビューで語っている。
吸気側に備わる可変バルブタイミング機構・DVVTは、EGR作動時には25度程度、非作動時には50度程度で作動する。排気側にも備わればさらに燃費の取り代は増えるがそこはコストの問題が浮上した。フューエルインジェクターはPFI方式で、ノズルを従来品から長くして噴射位置を燃焼室に近付け、ポート内の燃料付着を低減させた。燃料噴射圧は294bar、噴孔数は8。
機械抵抗の低減策は多くが盛り込まれた。そのひとつとして、タイミングチェーンの構造を5×4枚から4×3枚へと薄幅変更した。それにともなってテンショナーを最適化し、従来構造から余剰張力を削減することに成功している。さらに運動系の機械抵抗低減を図り、ピストンリングの張力を下げている。圧縮比は従来の10.8から11.3へ向上。シリンダーヘッドの点火プラグ周りの水路を変更拡大するなどして、耐ノック性を高める措置をとっている。
燃焼状態は「イオン電流燃焼制御」によって点火プラグによって検知する。燃焼室内の異常な圧力(たとえばノッキング)を検知できることで、EGRの量をぎりぎりまで増やしポンピングロスを低減、燃費の向上に結びつけた。そのEGRについては、シリンダーヘッド内に連通路を設ける高圧式。EGRガスは連通路を経由し、樹脂製のインテークマニフォールド内へ放出される。コストと効能をうまくバランスさせたレイアウトだ。