新開発1.5ℓ直列3気筒圧縮比ターボエンジン[KR15DDT]の実力を初乗りで試す

エクストレイルに搭載。1.5ℓ3気筒ターボ可変圧縮比(VCR)ターボ 日産の切り札第2弾 KR15DDT型

KR15DDT可変圧縮比ターボエンジンを搭載するエクストレイル
日産が世界で初めて量産化した可変圧縮比エンジン(VCR)は、圧縮比を14.0から8.0まで連続的に可変制御できる。内燃機関の夢を実現した革新的なエンジンだ。このVCRを使ったターボエンジンの第2弾が次期エクストレイルに搭載される。中国ではすでに、北米でも搭載予定だ。もちろん、国内デビューが待たれるエクストレイル(次期型日本仕様)にもe-POWERと組み合わせて使うはず。その注目エンジン搭載車をテストコースで試乗した。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎NISSAN

日産自動車が電動化に力を入れているのは間違いないが、決してエンジンをないがしろにしているわけではない。その証拠のひとつが新技術の「VCターボ」である。マルチリンク可変圧縮比機構(VCR)を搭載した世界初の可変圧縮比エンジンで、圧縮比を14.0から8.0まで連続的に可変制御できるのが特徴だ。

圧縮比を上げれば熱効率は上がるが、ノッキングが発生してしまう。現在、量産ガソリンエンジンでもっとも圧縮比が高いのはマツダのSKYACTIV-X(15.0)だ。

高い圧縮比と低い圧縮比を可変制御できると何がいいのか。燃費とパワーを両立できるのだ。ガソリンエンジンでは主にノッキングの問題から、燃費を追求して圧縮比を高く設定するとパワーは諦めなければならず、パワーを追求すると燃費を我慢しなければならなかった。技術の進化によってだいぶ両立を図ることができるようになっているが、圧縮比の高いエンジンは燃費追求型、圧縮比の低いエンジンはパワー追求型に分類することができる。

日産のVCターボは運転状況に応じて圧縮比を可変制御することにより、パワーもあって燃費もいいエンジンにする狙いだ。VCターボ第1弾のKR20DDET型、2.0ℓ直4ターボは3.5ℓV6自然吸気エンジンの置き換えとして開発された。いわゆる過給ダウンサイジングターボだが、VCRを備えているため従来の過給ダウンサイジングよりも高い価値を備えている。実用燃費は3.5ℓV6比で27%向上したと日産は説明する。

世界で初めて量産化に成功した連続可変圧縮比エンジン、KR20DDET型。
KR20DDET
シリンダー配列 直列4気筒
排気量 1970〜1997cc
内径×行程 84.0mm×94.1mm
圧縮比 8.0〜14.0
最高出力 200kW
最大トルク 390Nm
給気方式 ターボチャージャー
カム配置 DOHC
ブロック材 アルミ合金
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 直接駆動
燃料噴射方式 PFI+DI
VVT/VVL In-Ex/×

VCターボのマルチリンク可変圧縮比機構は、圧縮比を可変制御するにとどまらない優れものだ。アクチュエーターとつながった複数のリンクを動かすのでフリクションが増えそうだが、実はそうではないところに特徴がある。通常のエンジンはピストンが下降するときにコンロッドが斜めになるため、ピストンを横に押す力が働き、これがフリクションになる。VCターボの場合はリンクが真っ直ぐ下降するため、フリクションが小さい。また、VCターボはピストンがきれいなカーブを描いて動くので振動が少なく、そのおかげで4気筒エンジンに不可欠なバランサーシャフトが不要。これも、フリクション低減につながる。

KR20DDET型2.0ℓ直4VCRターボエンジンを搭載するインフィニティQX55。
全長×全幅×全高:4732mm×1902mm×1621mm ホイールベース2800mm プラットフォームはCMF-C/Dを使う。
現状、KR20DDET型は、横置きレイアウト(FF)用で縦置き(FR)で搭載しているモデルはない。
KR20DDET型はVQ35(3.5ℓV6自然吸気)を代替するダウンサイザーの役割を担っている。
圧縮比は8.0から14.0に無段階に変化する。

VCR第2弾はエクストレイルに搭載する1.5ℓ直3KR15DDT型

VCターボの第2弾は1.5ℓ3気筒のKR15DDT型で、2021年に登場した新作だ。北米ではニッサン・ローグ(に搭載予定。現時点では2.5ℓ直4NAのみの設定)、中国ではエクストレイルに搭載され、新開発のCVTと組み合わされている。KR15DDTは2.5Lℓ直4自然吸気エンジンの置き換えを念頭に開発されたエンジンで、C/Dセグメントをカバーする。

直噴とポート噴射を併用するKR20DDETに対し、KR15DDTは直噴のみとしている。これは、直噴インジェクターの最大噴射圧を200barから350barに高めることで混合気の霧化を促進できたためだ。また、KR20DDETでは適用していなかった低圧クールドEGRの適用によって、高圧縮比側での運転領域を拡大している。インタークーラーはKR20DDETが空冷なのに対し、KR15DDTは水冷とした。クールドEGRの適用によるレスポンスの悪化を改善するのが目的だ。

神奈川県横須賀市追浜にある日産のテストコース、GRANDRIVE

VCターボ第1弾と第2弾が載ったクルマに、日産自動車のテストコース、GRANDRIVE(神奈川県横須賀市)で試乗した。

2.0ℓL直4のKR20DDET型、VCターボ第1弾が載ったのは2021年に北米で発売になったばかりのインフィニティQX55とニッサン・アルティマで、1.5ℓ直3のKR15DDT型、VCターボ第2弾はやはり発売になったばかりのニッサン・ローグで味見をした。3モデルともCVTとの組み合わせだ。

KR20DDETとインフィニティQX55の相性は抜群だ。大柄のボディを軽々と、静かに、そしてスムーズに加速させ、気づいたら100km/hに到達している。高級車ブランドにふさわしい上質なエンジンという印象だ。精度高く組み上げられた機械部品が整然と、ほとんど振動を伴わず、リズミカルに動いている様子が伝わってきてなんとも心地いい。

メーターの中央にはブースト(過給圧)計とコンプレッションレシオ(圧縮比)計がある。圧縮比計にはEco(エコ)とPower(パワー)の目盛りがあり、針がエコを指しているときの圧縮比は14.0、パワーを指しているときは8.0だ。アイドリング時はエコを指しているが、少し強めにアクセルを踏み込むと針は素早くパワー側に移動する。弱めのアクセル開度で走っているときは、エコとパワーの間をフワフワと漂うように針は動く。圧縮比の変化はまったく感じ取れない(感じ取る必要もないが)。エンジン回転数と負荷(アクセルペダルの踏み方)によって圧縮比は自動的に決まる。

1.5ℓ直列3気筒VCRエンジンにVCR、KR15DDET型。中国仕様は新開発のCVTと組み合わせる。
エクストレイルのコックピット。
レッドゾーンは6000rpmから。

なかなか迫力のあるローグを目にすると、「1.5ℓエンジンで満足に動くの?」という疑問が先に立つ。さすがに200kW(272ps)/390Nmの最高出力/最大トルクを発生するKR20DDETと同じ力強さというわけにはいかないが、150kW(204ps)/300Nmの最高出力/最大トルクを発生するだけあって、動力性能的には充分だ。3気筒エンジンに特有の振動はうまく抑え込んでいる。

「高周波のハーモニック成分が出るおかげで高回転域では6気筒のような音がする」という触れ込みだったが、「うーん、悪くはないけど、それはちょっと言い過ぎ?」という気がしないでもなかった。それより、むやみに回転を上げなくても大柄のボディを加速させる力強さが印象的だった。

日産は1.5ℓ直3ターボのKR15DDTをe-POWERの発電用エンジンとして使い、商品化を目指すと発表している。従来のエンジンで高い出力を出そうとすると、高回転で回す必要があった。圧縮比を可変制御できるVCターボなら、圧縮比を下げると同時に過給圧を上げることで、低い回転域で高い出力を発生させることができる。例えば、120kWの出力を発生させるのに従来のエンジンでは5600rpmまで回す必要があったが、VCターボなら4000rpmで済んでしまうという具合。高速連続走行時はそのぶん静かで、快適になる。

日産は過給ダウンサイジングターボと48Vマイルドハイブリッドに向かわず、高効率なVCターボでその領域をカバー。ハイブリッドではなくe-POWERで電気自動車との橋渡しを行なう考えだ。そのe-POWERも高効率なVCターボを上手に活用する。エンジンの技術を磨きながら電動化に向かうのが、日産の考えだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…