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ほんの数年前まで、トヨタ/レクサスのAWDモデルはランドクルーザー系を除けば、強い存在感があったとは言い難い。しかし2019年に発表された現行RAV4は4WD統合技術として「AWD Integrated Management(AIM)」を四駆全車に採用。AWDでも、もっといいクルマをつくろう!という意識が商品に結実し始めた。
エンジン横置きのFF車をベースとしたオンデマンド四駆、そして後輪を駆動する専用モーターを配したハイブリッドのE-Fourを数多くのモデルに幅広く展開しているトヨタ/レクサス。しかしこれらのAWDモデルに対する市場の評価は数年前まであまり高いものではなかった。いわゆる生活四駆として雪道での発進や登坂性能を確保し、燃費を可能な限り悪化させない。まず「安く・軽く」作ることを重視する……。こういった考えが社内でも主流で、AWDを活かしたハンドリングの向上などは「過剰な技術」との声が多く、あまり重要視されていなかったという。
だがいまやトヨタ/レクサスのAWDモデルはモデルチェンジのタイミングで大きく変わりつつある。ハイブリッドのE-Four、電制多板クラッチを使ったカップリングによるオンデマンドAWDのどちらも「すべてのタイヤを駆動することで生まれるしっかりとした接地と、しなやかでキビキビした走り」を目指して開発されている。モーターファン・イラストレーテッドvol.185の特集「AWD Paradigm Shift」ではデビューしたばかりの新型ノア/ヴォクシー ハイブリッドE-FourとレクサスNX350“F SPORT”のAWD開発エンジニアにお話を伺った。
Mサイズミニバンとして人気のノア/ヴォクシーは1月13日に新型が発表された。使い勝手やシートアレンジにもさまざまな工夫が凝らされているが、弊誌が注目したのはハイブリッドE-Fourの存在だ。先代ノア/ヴォクシーのハイブリッドはFF車のみの設定だったが、新型ではE-Fourを初設定しただけではなく、同社が「第5世代」と呼ぶ最新ハイブリッド技術を世界初採用し、高出力のリヤモーターを活かしてAWD作動領域や後輪へのトルク配分を拡大。コーナリング中の前後輪トルク配分を最適化し操縦安定性を高め、雪道だけではなく舗装路においてもクルマの向きが変えやすいと感じるハンドリングをAWDで実現したという。
こうした制御のみならず、ミニバンの使い勝手を犠牲にしないよう後輪用モーターのサイズ縮小にも気を配った。プリウスAWD車のリヤモーターユニットと比較しても、搭載性にあまり影響を及ぼさない横方向のサイズ以外はほぼ同寸としているのは驚異的だ。このミニバンの走りを変えるE-Four開発陣に、制御の構築、サイズ増を抑える工夫、燃費悪化を抑える細かな積み重ねの数々を語っていただいた。
カップリングを用いたAWDの最新事例としては、2021年10月に発表されたレクサスNXの中から、ターボエンジンを搭載するNX350“F SPORT”のみに設定された電子制御フルタイムAWDを取り上げた。このシステムはスタビリティコントロールが介入するような緊急時以外、常にすべてのタイヤに駆動力を配分する「フルタイム」AWDをカップリングで実現している。
応答性とトルク容量を高めたこのカップリングは、先に登場しているGRヤリスの仕様を参考として強化されたという。前後のトルク配分比は75:25から50:50の間でシーンに応じて最適にコントロールされ、高い接地感とリニアなステアリングフィールを実現した。また開発にあたっては、スバルとの協業で得た知見も大きかったという。チーフエンジニアと四駆システム全般を取りまとめたエンジニアに、レクサスNX350”F SPORT”フルタイムAWDの詳細と、駆動力制御の持つ可能性をご説明いただいた。
モーターファン・イラストレーテッドvol.185巻頭特集「AWD Paradigm Shift」ではこれらトヨタ/レクサスのほかに三菱、日産、マツダのAWDによる車両運動と姿勢制御の最新事例を解説した。今後のモーター駆動でより重視されることは間違いない「オンロードでこそ発揮する全輪駆動の新しい価値」を御覧いただきたい。
モーターファン・イラストレーテッド Vol.185 特集「AWD Paradigm Shift」 CONTENTS Introduction 新しいAWDが姿勢制御を変える! Chapter 1 Basics 目指すは「日常から限界まで」 前後軸を繋ぐ方法の変換 「いまの四駆」のシステムを整理する Chapter 2 Method [File 1 トヨタ] ノア/ヴォクシー:E-Four 出力増のリヤモーターを積極活用し高μ路での操安性をレベルアップ [File 2 三菱自動車] アウトランダーPHEV:S-AWC 一瞬たりとも2駆にしない理由 [File 3 日産] ノート:e-POWER 4WD/e-4ORCE 欲しかったのはリヤ50kWの出力 Column1 e-4ORCEは月を走れるか? ─JAXAと日産の共同研究─ [File 4 マツダ] CX-30/MX-30:i-ACTIV AWD サスペンションジオメトリーとの組み合わせでばね上の姿勢を考える [File 5 レクサス] NX350 “F SPORT”:電子制御フルタイム4WD 駆動力「大」&横G「大」で後軸トルクを増やす Column2 電動AWDでニュル最速を目指すSTI E-RAコンセプト Chapter 3 Vehicle Dynamics & Control 車両姿勢制御とはなにか? 車両運動力学のアップデートと駆動力による車両姿勢制御 ——神奈川工科大学 自動車システム工学科 安部正人名誉教授/山門誠教授 発売日:2022年2月15日(火) 定価1760円 (本体価格1600円) ISBN:978-4-7796-4561-7 ※全国の書店、 コンビニエンスストア、 ネット書店にてお求めいただけます。