ガソリンはどうやって原油から作られるか。重油/軽油/灯油/ナフサ/LPガスの違い、わかりますか?[内燃機関超基礎講座]

油井から採取されたままの石油を「原油」と呼ぶ。原油は炭化水素を主成分として、微量の硫黄、窒素、酸素、金属などを含む。これを分離して製品にする最初のプロセスが蒸留だ。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:新日本石油 ILLUSTRATION:熊谷敏直(Toshinao KUMAGAI)

精油所の心臓部とも言える設備が、高さ数十メートルに及ぶ常圧蒸留装置である。沸点の違いを利用して原油を分離させる装置で、大気圧に近い圧力で行なわれるため「常圧」。原理はシンプル。基本的には水とアルコールの沸点の違いを利用してアルコールを取り出すウイスキーの蒸留工程と同じである。原油はまずタンクから加熱炉に送り込まれ、360°Cに加熱される。ここで蒸気となった原油は常圧蒸留装置の下から吹き込まれて内部に入る。蒸気は上昇するに従って温度が下がるため、沸点の低い成分から液体になる。これを回収する仕組みだ。

加熱炉では、バーナーによる火炎または高温燃焼ガスによる輻射熱を対流管に当て、原油を加熱する。吸熱効率を上げるため、対流管の外面にフィンを取り付ける場合が多い。一連の精製装置の運転の中では、加熱炉における燃料費の占める割合が最も大きい。

■ LPガス留分
塔内には不等間隔にトレイを設置。上昇してくる油蒸気とトレイ上の液が接触することで熱交換が行なわれて液体となり、回収される。LPガスの蒸気は冷却器によって凝縮・冷却されて抜き出される。
■ ナフサ留分
沸点範囲が30〜80°C程度のものを軽質ナフサといい、石油化学工業でエチレン分解原料として多く使用される。沸点範囲が80〜180°C程度のものを重質ナフサといい、ガソリンや芳香族製造用の原料として使用。
■ 灯油留分
沸点が150〜250°Cの留分。トレイの材料は一般に炭素鋼が使われ、腐食の激しい部分はステンレス鋼が用いられる。油蒸気と液の接触効率を上げるため、セラミックス、ステンレス鋼などの充填物を塔内に入れた充填塔にトレイを入れる場合がある。
■ 軽油留分
沸点が250〜350°Cの留分。軽質軽油、重質軽油に分けて取り出す場合もある。灯油、軽油の各留分には軽質分が混入しているので、ストリッパーに送り、過熱水蒸気によって軽質分を蒸留塔に戻したのち、抜き出す。
■ 残油留分
蒸発しなかった留分。高沸点炭化水素の複雑な混合油で、重油、潤滑油、アスファルト材となる。一部は流動接触分解装置にかけられてガソリンとなる。混入する軽油分を除くため、塔底に過熱水蒸気を吹き込んでいる。

ウイスキーの場合は約80°Cで沸騰するアルコールを取り出すだけだが、原油の場合は5種類の留分に分けて取り出す。沸点30°C以下のLPガスに、30〜150°Cのナフサ留分、150〜250°Cの灯油留分、250〜350°Cの軽油留分、そして、最後まで残る沸点350°C以上の残油(重油やアスファルトになる)である。発酵の度合いによって取り出せるアルコール分が左右されるウイスキーと違い、原油から各留分がどれくらいの割合で取り出せるかは、基本的には原油の種類によって決まってくる。

常圧蒸留装置からは5種類の留分を取り出すが、そのうち最終製品がガソリンとなる製造工程だけを抜き出したのが上図である。

LPガス/ナフサ/灯油/軽油/残油の5種類の留分のうち、ガソリンに直結するのがナフサ。だが、ナフサ=ガソリンではなく、何段階もの手が加えられて初めてガソリンになる。例えば、蒸留塔から取り出されるナフサ留分のうち、重質ナフサは接触改質装置を経由してガソリン調合装置に送り込まれる。これは、オクタン価を高めるため。ナフサはオクタン価が低いので、加熱炉で高温にしたナフサを触媒の入った反応塔に送り込み、炭化水素の分子構造を変える=改質する、のである。分子構造が変えられたナフサを改質ガソリンと呼ぶ。

接触分解装置の反応で得られたLPガスも無駄にはしない。炭素原子の数が少なく軽い炭化水素をつなぎ合わせることで、オクタン価の高い炭化水素を合成する。これがアルキレーションだ。沸点の高い留分のうち、重質軽油は流動接触分解装置に送り込まれてLPガスと分解ガソリンに分けられる。また、残油に含まれている炭化水素は分子量が大きいため、これを触媒の作用によって切断し、ガソリンとして使える軽い炭化水素を作り出す工程も開発されている。

重くしたり、軽くしたり、性質を変えたり……。原油からさまざまな工程を経て生まれた“生”ガソリンは調合されて、最終的に製品としてのガソリンになる。

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