パリから北西に40kmほど行ったセルジー(Cergy)にヴァレオのパワートレーンのR&Dセンターがある。今回、パリ・モーターショーに先立って、ヴァレオの取材を行なった。取材相手のミシェル・フォリシエ博士に会うのは今回で3回目である。目的は、電動スーパーチャージャー(以下、電動SC)と48Vマイルド・ハイブリッド・システムである。
電動SCは文字通り12Vあるいは48Vで駆動するモーターを使った過給機だ。従来の機械式SCと違ってクランクから動力を取り出すこともないし、エンジン回転数にも依存しない。しかもレスポンスが非常に優れている。ターボのラグが1〜2秒あるのに対して電動SCは250〜350ミリ秒で作動する。だから、ダウンサイジング過給エンジンのラグ解消に効果的だ。……と思っていた。つまりターボにプラスしないと威力が発揮できないデバイスなのだ……と。
それについて博士に聞くと笑顔で答えた。
「電動SCの用途はとても多いのです。まず、ひとつ目はあなたが言うとおりダウンサイジング過給向けです。燃費・レスポンス両方に効果があります。ふたつ目はダウンスピーディングです。同じ性能を保ちながらギヤ比を長くでき、燃費を改善できます。これはターボは必要ありません。3つ目がミラーサイクルで電動SCを使うことです。現在のミラーサイクル・エンジンより進んだことができます。4つ目がディーゼル・エンジンに使ってNOxを下げるのに使います。電動SCを使えばSCRシステムなしで規制にミートできます。これには特にアジアのメーカーが興味を持ってくれています。5つ目は、パフォーマンスです。ハイパフォーマンスカーにターボに電動SCを加えてさらに性能を上げられます。ドイツのメーカーはパフォーマンスのための電動SCを考えています。最後は、ハイブリッド・ブースターとしての組み合わせで48VマイルドHEVと組み合わせるというのがあります」
なるほど。博士に促されてテスト車に乗る。ダウンスピーディングのための電動SCの使い方の例だ。想像以上の効果を体感できた。高温の排ガスに対応する必要があるターボチャージャーと違って電動SCは、素材も構造もシンプル。ターボと比べてコストも低いという。
試乗後に質問を投げかけた。電動SCというアイデア自体は決して新しいものではない。それがいま、注目を集め実際に採用されようとしている。なぜなのですか?と。
「電動SCについては、自動車メーカーも長い間研究してきました。しかし、当時は高度な自動車の電気システムがまだなかったし、エネルギー回収システムもありませんでした。新しいバッテリーも電子制御システムもありませんでした。電動SCの実現には、きっかけがあります。ひとつがアイドルストップ機構の標準化。これでクルマの電気系システムのキャパシティが上がりました。それからバッテリーとエネルギー回収システムの進化。そしてダウンサイジングが本当にトレンドになってきたことです。ダウンサイジング過給の最大の問題はターボラグでした。ダウンサイジング、ダウンスピーディングというニーズが高まったことで、電動SCの可能性は大きく広がりました。130g/kmというCO2規制は従来技術を組み合わせればよかったのですが、今後はそれだけでは間に合いません。フルハイブリッドを使うことももちろん良いのですが、我々ヴァレオはそれ以外の代替案を提案したいのです」
ヴァレオの電動SC。市販化は間もなくだ。最初はドイツから。これはハイパフォーマンスカー向け(注:アウディSQ7で採用)。次はアジアから。これは燃費志向の使い方。これ以外にも日米中欧で19ものプログラムが進んでいるという。電動SCに今後も注目していく必要がありそうだ。