ジャイロは前1輪、後2輪の3輪車ですが、車体の前部と後部をスイング軸でつなぎ前部のみスイングするというユニークな機構です。
まず、ホンダが「スリーター」(スリーホイール+スクーター)と呼んでいたストリームにはじまるこのユニークな3輪MCの歴史をおさらいします。
ホンダ・スリーターの原点は1981年11月に発売されたストリームでした。いま見てもカッコいい未来的なデザインです。
車体前後をスイング軸でつないだ構造や、停車時にスイング軸を固定させリヤにブレーキを掛けるパーキングロックは最新のジャイロe:にまで引き継がれています。
リヤのトレッドは、たった300mmしかなく不安定に思えますが、このトレッドでも転倒しない巧妙な仕掛けがホンダ・スリーターの賢いところです。
ちなみにストリームという名称は再び2000年からスタイリッシュ・ミニバンの車名として使われましたね。
ホンダ・ストリームのパッケージです。
図に書き加えた赤い破線がスイング軸で、車体前部がこの軸回りにスイングするとともに、防震(防振?)リンクとかかれた点を中心に車体後部が上下して路面からの振動を吸収します。
また5kgまで搭載できるトランクがフロント部に、ハンドルバーの下方にもグローブボックスが設置されています。フロントサスペンションは、片持ち構造のリーディングアーム式ボトムリンクです。
ケーブルがパーキングロックレバーからスイングジョイントユニット経由でリヤブレーキにつながっていて、レバーの操作でスイング機構とリヤブレーキが同時にロックされることがわかります。
ストリームの次に登場したのがジャイロX(1982.10)です。これが現在まで40年近く続くジャイロシリーズの原点です。
リヤのスイング機構はストリームと基本的には変わりませんが、ストリームが都市型の未来的スクーターとして位置づけられていたのに対し、ジャイロXはアウトドア・レジャーバイクのような位置づけをされていました。
フロントサスペンションはストリームと同じ形式のリーディングアーム式ボトムリンクですが片持から両持式になって耐久性を高めているようです。
ホンダは1983年から1984年にかけて、さらに3車種を追加します。
ジョイは女性を、ジャストは男性をターゲットにして装備を簡素化した廉価版、またロードフォックスは軽量な車体とファット・タイヤでスポーティーなバギーのような仕立てとなっていました。
スイング機構は共通ですがフロントサスペンションは様々でジョイとロードフォックスは簡易的なテレスコピック式、ジャストはリーディングアーム式のボトムリンクとなっています。フロントサスペンションはその当時のスクーターから流用されていたようです。
この時期ホンダは、このユニークな全く新しいジャンルであるスリーターの位置づけを色々と模索していました。
そして、1985年9月に発売されたジャイロUPが、「はたらくジャイロ」の先駆けとなります。
このジャイロUPの最大の特徴はそれまでのスリーターシリーズとは異なり、後部駆動ユニットの上が荷台になっていることです。そのため荷台は旋回時も傾きませんが、荷物ごとリヤが飛び跳ねないようにサスペンションで支えられる構造が必要になりました。
このため後部ユニットにトレーリングアーム式のサスペンションが置かれ、前後の車体をつなぐスイング機構はスイングの回転だけを受け持つ構造に変更されています。
興味深いことに、この構造は最新のジャイロe:シリーズに受け継がれています。
1990年11月に画期的なモデルが登場します。ジャイロ キャノピーです。
構成としてはジャイロXに風防と屋根を取り付けただけなのですが、これによりジャイロのイメージが一新されました。
たしかに全く別の乗り物にみえますね! そして宅配ピザ屋さんの配達に多数導入された結果、一気に街の光景になりました。
後軸まわりの機構はオリジナルと基本的に同一でしたが、フロントサスペンションはグレードアップされアシストリンク付きのトレーリングアーム式ボトムリンクになりました。このサスペンションは当時一世を風靡していたスクーターの「リード」からの流用と思われます。
余談ですが、ホンダリード80SS(1985年)にはフロントにディスクブレーキが装着され、そのブレーキ・トルクロッドを利用したアンチダイブ機構が備わっていましたが、このディスクブレーキはリードとジャイロで互換性があるようで、ジャイロキャノピーをカスタム化するときに使われています。
2008年3月、ジャイロシリーズは排ガス規制対応のため空冷2ストロークエンジンから水冷4ストロークエンジンに変更されました。
また車体は前・後輪にアルミ製ホイールを採用、後軸のトレッドを原付枠いっぱいの495mmに拡大するとともに、後輪のサイズを6インチから8インチに大径化するなど様々変更されましたが、このモデル以降も基本構成は大きく変わらないまま現在まで作り続けられており、ジャイロ Xで39年間、ジャイロ キャノピーは31年間にわたって生産され続け、超ロングセラーとなっています。
2021年ホンダは、e:ビジネスバイクの一環として新世代の電動ジャイロシリーズを発売しました。
電動ビジネスバイクとして2021年同時投入されたベンリィe:と共通のフロント部にジャイロUPで用いられた後部ユニットを電動化して結合した構成です。
交換式のバッテリー2個がシート下に搭載され、走行距離や運用時間が比較的長いビジネス用に適応させています。
ジャイロ キャノピーe:はガソリンエンジン版と同じく荷台が車体前部のスイングする側にありますが、後部ユニットの構成は荷台が車体後部側にあるジャイロe:と共通になっています。
荷台が車体前部に一体であればガソリンエンジンのジャイロのようにスイングユニットの部分にサスペンションを付ければいいのですが、これはユニット共通化のためと思われます。
ここで簡単にジャイロe:、ジャイロキャノピーe:の車体構成について紹介します。この構成はジャイロUPとも共通です。
車体は前後に分かれていてジョイントケース(スイング機構)の部分で赤い一点破線のまわりに回転だけできるようになっています。 UPとe:以外のジャイロと異なりスイング機構の部分では上下動しません。
車体後部にはリヤフレームにピボットで回転支持されたスイングアームとリアクッション(2本)があり、その上にモーターとリヤアクスルが搭載されています。
つまり車体前部と後部の回転はスイング機構で、上下動は車体後部のスイングアームとリヤクッションで路面からの衝撃をいなすわけです。
UPとe:以外のジャイロは車体後部がいわゆる「バネ下」になっていて図のAのあたりにスイングアームピボットがあります。つまり車体後部はジョイントケースごと上下動と回転をするわけです。
この方が構造がシンプルなのですが車体後部に荷台を取り付ける構成では荷物にじかに衝撃が加わることになってしまいます。荷台を取り付けたため車体後部にサスペンションが必要になったわけです。
現時点のホンダ・ビジネス e: スクーターシリーズです。
こうしてみるとベンリィe:も含め、シートより前方の部分はコンポーネントの組み合わせで大幅に共通化していることがわかります。
次項の「ホンダ・ジャイロ②~その機構と特性」ではジャイロキャノピーを素材にジャイロの秘密を明らかにしていこうと思います。