目次
なぜ、直6・3.3ℓか?
まずは、SKYACTIV-D 3.3の基本スペックを見ていこう。
■SKYACTIV-D 3.3 Specification
形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:3283cc
ボア×ストローク:86.0mm×94.2mm
圧縮比:15.2
最高出力:254ps(187kW)/3750rpm
最大トルク:550Nm/1500-2400rpm
である。排気量は3.3ℓだ。ライバルとなる欧州プレミアムブランドの直6ディーゼルは、BMW(B58型2992cc)、メルセデス・ベンツ(OM656型2927cc)、ジャガー(DT306型2996cc)とすべて3.0ℓだ。マツダはなぜ3.3ℓを選んだのか?
ひとつは、SKYACTIVD 2.2と同じボア×ストロークを選んだからだ。D 2.2のボア×ストロークは86.0mm×94.2mm。D 3.3もこれにならった。単筒容積547cc×6で3.3ℓというわけだ。
マツダが考える理想の燃焼のためにはシリンダーに空気をたくさん入れなければならない。そしてEGR(排ガス再循環)をできるだけ使いたい。そこで設定された最大トルクが550Nmだったという。
グラフを見てわかるとおり、3.3ℓの排気量の直6ディーゼルターボとなれば最大トルク550Nmは、控え目な数字だ。
ここで、ベースとなったSKYACTIV-D 2.2と比べてみよう。
一部推測の部分もあるが、注目はBMEP(正味平均有効圧)だ。BMEPとはピストンを上死点から下死点までどれだけの圧力で押したかを図る指標で、排気量に依らずシリンダー内の圧力を平均的に示した数字。これによれば、さまざまなエンジンを同一指標で比較することが可能だ。算出方法は以下のとおり。
BMEP=最大トルクNm ÷ 排気量cc × 4π(パイ:円周率) × 10
だ。
これで比較すると
SKYACTIV-D 2.2=25.84bar
新開発SKYACTIV-D 3.3=21.05bar
となる。確かにだいぶ控え目だ。SKYACTIV-D 3.3もBMEPで26bar程度にしたら、最大トルクは680Nmになるはずだ。
それをあえて550Nmに抑えたわけだ。
開発陣は
「必要なトルク(CX-60の車重を考えて)を確保したうえで、余剰の部分を燃費やエミッションに使った。EGRは排気量で決まってくる。我々は550Nmの全開トルクまでEGRを入れられる排気量というところ3.3ℓを定めた。空気をたくさん入れると理想燃焼ができる領域が広がる。実用負荷領域を高効率な燃焼でカバーできる排気量3.3ℓ。トルク、出力はもちろんだが、リーンな排気と燃費を高次元でバランスさせるところが3.3ℓの狙いだ」
と語る。
DCPCIとはなにか?
理想の燃焼をために、開発陣が考えたのは、「リーンな混合気を上死点TDCで燃やす」ということ。だから、燃料と空気の混合を促進させるのが一番重要だ。
それが今回のDCPCI燃焼だ。Distribution Controlled-PartiallyPremixed Compression Ignitionの略語で、「空間制御予混合燃焼」という意味だ。
理想の燃焼は、上死点で充分に混ざったリーンな混合気がきれいに燃え切ることだ。しかし、従来は、最初の燃料の噴霧で火種を作るのだが、そこに次の燃料噴射の噴霧がぶつかってしまって、きれいに混ざる前に燃えてしまう。今回は、燃焼室の形状を工夫することで、混合気を上下に分割して配置できるようになった。そうすることで、空間ができて、そこに次の燃料を噴いて入れていくことができる。つまり、空間を無駄なく使う発想で、全体にリーンな状態を作ることに成功した。
別の言い方だと、これまでは噴霧の干渉を時間で回避していたということだ。1回燃料を噴霧したら、それが混ざるのをまってから次の噴霧をしていた。時間で分けたわけだ。しかし、この場合は、燃焼そのものが、だらだらと長くなってしまい、効率が悪化する。
新型D 3.3では空間を分割することで干渉を回避し、高効率な上死点での燃焼ができるようになった。
DCPCI燃焼を可能にしたのは、大排気量と2段エッグ燃焼室、そして多段燃料噴射である。従来のSKYACTIV-Dの燃焼室がエッグ形状だったと比べると「2段」の意味がわかる。
SKYACTIV-D 3.3の2エッグ燃焼室
SKYACTIV-D 2.2のエッグシェイプ燃焼室
D 3.3のインジェクターは、D 2.2と同じくデンソー製。i-ARTを使う。D 2.2は最大噴射圧200MPa(2000bar)のピエゾ式。D 3.3は最大噴射圧を250MPa(2500bar)まで高めた。
インジェクターの能力は1回の燃焼で最大9回噴射が可能だが、DCPCIの理想燃焼時は5回噴いているという。
過給については、D 2.2が2ステージターボ(ターボは2基)なのに対して、新開発D 3.3のターボは1基。詳細は未発表だが、どうやらひとつのVGターボ(可変ジオメトリーターボ)で過給するようだ。
SKYACTIV-D 3.3 燃焼進化のポイント
排気後処理については、国内仕様はNOx浄化のための尿素SCRシステムは搭載しない。つまり尿素SCRなしで排気規制をクリアするということだ。欧州仕様はSCR付きも準備しているという。
SKYACTIV-D 3.3を搭載したCX-60は、48Vマイルドハイブリッドシステム非搭載でもSKYACTIV-D 1.8を積むCX-3と同等の燃費性能を発揮するという。このサイズのSUVでWLTC燃費が19km/ℓ前後となれば、それは驚異的に良い数字である。48V MHEVがつけばさらによい数値を叩き出すのだろう。
そして、再びカプセルエンジン
美祢自動車試験場で試乗したCX-60のプロトタイプのボンネットを開けてみても、エンジン本体は見えない。SKYACTIV-Xエンジンで採用した、カプセル化をSKYACTIV-D 3.3でも行なっている。直列エンジンにした理由のひとつに「直列の方がV型よりカプセル化しやすい」というものあったそうだ。
カプセル化の理由は、ディーゼル特有の音・振動を抑え込むことと、エンジンの保温である。カプセル化することで、夕方(あるいは夜間)に帰宅し、翌朝、再び出発するときまでエンジンを冷え切らないようにする。そうすることで、暖機に使う燃料を削減し、トータルでの燃費を上げることができるからだ。