NEDO: 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を開始

図1 第3段階の石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証試験に用いる燃料電池設備
NEDOと大崎クールジェンは、革新的な低炭素石炭火力発電技術の確立を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」の第3段階に入った。具体的には、CO2分離・回収型酸素吹石炭ガス化複合発電(CO2分離・回収型酸素吹IGCC)設備に、MW(メガワット)級の燃料電池設備(SOFC)を組み込んだCO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を、4月18日に開始した。

本実証試験では、第2段階のCO2分離・回収型酸素吹IGCC実証設備に燃料電池を組み合わせて、石炭をガス化したガスからCO2を分離・回収後、得られる高濃度水素ガスを燃料電池に供給し、燃料電池の発電特性や燃料電池内部の温度分布を把握する。また、燃料電池モジュールを並列運転した時の運用性、さらに高圧運転した場合の挙動を調べるなど、CO2分離・回収型IGFCシステムの実現に向けた試験が行われる。

実証試験の目標は、本実証試験の成果を500MW級の商用機に適用した場合に、CO2回収率90%の条件で47%程度の送電端効率(高位発熱量基準)の見通しを得ることとする。今後、高効率な石炭火力発電とCO2分離・回収が両立する技術を確立し、CO2排出量抑制(地球温暖化対策)への貢献を目指す。

1.概要

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と大崎クールジェン※1は、石炭火力発電から排出される二酸化炭素(CO2)を大幅に削減するため、究極の高効率石炭火力発電技術とされる石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)※2とCO2分離・回収技術を組み合わせた革新的な低炭素石炭火力発電の実現を目指す「石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業※3」に取り組んでいる。

本実証事業は、

  • 酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹IGCC)実証(第1段階)※4
  • CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証(第2段階)※5
  • CO2分離・回収型IGFC実証(第3段階)

の順に実施し、中国電力株式会社の大崎発電所構内に建設した実証試験設備で、システムの基本性能やプラント運用性・信頼性・経済性を検証するもの。

2017年3月から開始した第1段階の実証試験では、170MW規模の実証プラントとしては世界最高レベルの効率となる送電端効率40.8%(高位発熱量基準※6)を達成し、実用化後の商用発電プラント(1500℃級IGCC)に換算して送電端効率約46%(高位発熱量基準)の達成に見通しが立った。

また2019年12月から開始した第2段階の実証試験は継続中だが、CO2分離・回収設備におけるCO2回収率90%以上、回収CO2純度99%以上の目標を達成している。

そして今般、第3段階として、燃料電池(SOFC※7)設備が完成し、4月18日から実証試験を開始した。第3段階では、CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証設備において石炭をガス化したガスからCO2を分離・回収後、得られる高濃度水素ガスに対する燃料電池の発電特性や燃料電池内部の温度分布を把握し、2基の燃料電池モジュールを並列運転した時の運用性が検証される。さらに、ガスタービン系統との連係※8を想定して燃料電池の運転圧力を高めた場合の挙動などを調べることで、将来の500MW級商用機に適用した場合にCO2回収率90%の条件で、送電端効率47%程度(高位発熱量基準)の見通しを得ることを目標とする。なお、本実証試験は「MW級のSOFCを組み込んだCO2分離・回収型IGFC」として世界で初めて[2022年4月大崎クールジェン調べ]。

図2 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証事業の概要

2.実証試験の内容

(1)目標: 石炭ガス化ガスに対する燃料電池の発電特性や運用性を見極め、将来の500MW級商用機に適用した場合にCO2回収率90%の条件で、送電端効率47%程度(高位発熱量基準)の見通しを得る。
(2)実施期間: 2022年4月18日から2023年2月28日まで
(3)実施場所: 中国電力大崎発電所構内
(4)実証試験項目: 下表参照

燃料電池の基本性能検証:
燃料電池(SOFCモジュールを2基並列)において、高濃度水素ガスによる運転・制御方法を確立するとともに、発電特性を把握する。

燃料電池の運用性検証:
燃料電池モジュールの並列拡張の検証、CO2分離・回収設備との連係運転に係る協調性の検証、ガスタービン連係を想定した高圧運転試験およびシステム全体効率に関する検討を行う。

燃料電池の信頼性検証:
累積時間3000時間程度の運転を行い、高濃度水素ガス運転における電圧低下率を確認する。

CO2分離・回収型IGFC実現に向けての検討:
CO2分離・回収型IGFCの技術確立および商用化に向けた課題や技術動向を整理するとともに、経済性を検討する。

本実証試験を実施し、さらに本事業とは別に開発が進められているCO2の利用※9・貯留技術と組み合わせることで、CO2をほとんど排出しない石炭火力発電が実現できる。本技術を確立させることで、CO2排出量抑制(地球温暖化対策)への貢献を目指す。

※1 大崎クールジェン 中国電力と電源開発の共同出資会社。
※2 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC) IGFCは、Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycleの略。石炭をガス化して、燃料電池、ガスタービン、蒸気タービンの3種類の発電形態を組み合わせて発電する方式のこと。
※3 石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業
事業名:次世代火力発電等技術開発/石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業/CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証
事業期間:2012年度~2022年度(2012年度~2015年度は経済産業省事業)
事業規模:助成金約500億円、事業費約1300億円
※4 酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹IGCC)実証(第1段階) IGCCは、Integrated Coal Gasification Combined Cycleの略。石炭をガス化して、ガスタービン、蒸気タービンの2種類の発電形態を組み合わせて発電する方式には、石炭ガス化炉に酸素を供給する酸素吹方式と空気を供給する空気吹方式がある。CO2分離・回収設備と組み合わせる場合には、エネルギー効率の面で酸素吹方式が優れているとされる。
※5 CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証(第2段階)
※6 高位発熱量基準 燃料が燃焼した時に発生するエネルギー(発熱量)を表示する際の条件を示すもので、燃料の燃焼によって生成された水蒸気の蒸発潜熱も発熱量として含めたもの。高位発熱量は、総発熱量とも呼ばれる。高位発熱量から燃料の燃焼によって生成された水蒸気の蒸発潜熱を除いた低位発熱量(真発熱量)に比べ、見かけ上の熱効率が低く表示される。高位発熱量基準は、政府のエネルギー統計、電力会社の発電効率基準、都市ガスの取引基準などに用いられている。
※7 SOFC 固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell)。電解質に固体酸化物を用いた高温作動タイプの燃料電池。
※8 ガスタービン系統との連係 ガスタービンと燃料電池を連係運転して高効率発電するには、燃料電池で発電した後の排燃料と排空気をガスタービンに送るとともにガスタービンの圧縮機から燃料電池へ空気を供給するシステム構成が想定される。その場合、ガスタービン系統と燃料電池を同じ圧力で運転する必要があるが、現状の燃料電池はガスタービン系統より低い圧力での運転となっている。そのため、本実証試験では、燃料電池の圧力をこれまでより高めた運転をして、その挙動を確認する。
※9 CO2の利用


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