日産・新型フェアレディZのVR30DDTT:ターボを極限まで使い切れ!

一般に効率と出力はトレードオフの関係とされるが、そこに一石を投じる存在が7代目フェアレディZのVR30DDTT型エンジン。 同機は清々しいまでの高回転高出力でありながら、優れた環境、燃費性能も併せ持つ。 その背景にあったのは、最新世代の制御技術を最大限に生かす作り込みだ。エンジンだけでもこれだけのことができるという好例である。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) FIGURE:Nissan PHOTO:MFi

7代目フェアレディZに搭載されるVR30DDTT型エンジン。298kW(405ps)の最高出力を6400rpmで発揮するという、近年には珍しい高回転高出力のスポーツカーらしいスペックがじつに印象的だが、その一方で、WLTCモード試験において国土交通省の定める低排出ガス車認定「平成30年基準排出ガス50%低減レベル」を取得(9M-ATx車)、WLTCモード燃費では10.2km/Lと、高出力を実現しながら優れた効率との両立にも成功している。

出力と効率の両立においてカギとなる要素のひとつが、ターボの回転数を捉える回転速センサー。先にVR30DDTT型エンジンを採用したスカイライン400Rにも同様のセンサーが搭載されていたが、フェアレディZはドライバー回路までをセンサーと一体化した新型に変更(前者は別体式)。センサーは渦電流式で、コンプレッサーホイールのブレードがセンサーの磁束中を通過する際に発生する電気的な損失(渦電流の発生に伴うもの)を観測する。

VR30DDTT型エンジンのターボ。左右バンクそれぞれに1基ずつ、計2基のツインターボだ。回転部のイナーシャを抑えるための選択だが、実物を目の前にすると、思いのほか小さいことに驚かされる。ターボ、とくにコンプレッサーホイールの径と出力は基本的に比例関係にあるが、VR30DDTT型のそれではコンプレッサーホイールの回転数をセンサーで捉えながら、許容回転の上限まで使い切ることでピークパワーを確保している。

ターボ(ギャレット製)の基本的な諸元はスカイライン400Rとほぼ共通だが、フェアレディZでは電子制御式のサーキュレーティングバルブ(上写真中央付近に並ぶ黒い樹脂部品のうち右側)が新たに追加されている。アクセルオフ時のタービン/コンプレッサーにかかる負荷を抑えることで、再度アクセルを踏み込んだ際のレスポンスが向上する。

コンプレッサーハウジングに取り付けられた回転速センサーと、従来のドライバー回路別体型センサー(上側)の比較。センサーヘッド部はドライバー回路を内蔵しない従来型のほうがコンパクトだが、ドライバー回路を収めるカプラー部が大きくなっており、ハーネスもノイズ防止のために太いシールド線が用いられている。

すべてが高い応答性をもって素早く“表情”を変えるというVR30DDTT型エンジン。上の図は吸排気バルブのタイミングの変化と運転状態、そしてトルク出力のグラフを重ねたもの。低回転低負荷の状態ではエミッションと効率に有利な運転を選択、パワー/トルクが必要な際には吸排気バルブを大きくオーバーラップさせる。この極端なまでの“メリハリ”こそが、高出力と高効率の両立という要素を生み出す“秘訣”。電動VTC、水冷式CAC、小径ターボ、すべてが噛み合った結果である。

インテーク側カムシャフトには電動VTCを採用。油圧式と比べ飛躍的に向上する応答性を生かし、バルブタイミングをタイムラグなく常に最適な状態とすることで、定常運転ではミラーサイクルや内部EGRにより最大限の効率を確保しながら、いざ踏み込めば瞬時に吸気バルブのタイミングが変化、レスポンスよくパワーが立ち上がる。
左右バンクそれぞれのターボからサージタンクへと向かう配管にCAC(チャージエアクーラー=インタークーラー)を装備。CACに水冷式を採用することで、ターボとサージタンクの間は最短距離で結ばれるかたちとなっており、応答性の確保において大きく貢献。VR30DDTT型エンジンを特徴づける要素のひとつである。

エキゾーストマニフォールドはシリンダーヘッドに内蔵。ターボはシリンダーヘッドに直接取り付けられるかたちで、触媒もまたターボに直付け。ターボが小型で熱容量も大きくないことから、冷間始動後の触媒は極めて短時間で温度が上昇。この“素性の良さ”により、空燃比をリッチに振って触媒の温度上昇を“補助”する必要も最小限で、CO2排出と燃費にも有利に働く結果となっている。エンジンオイルは高出力エンジンとしては異例ともいえる0W-20だ。

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