モーターファン・イラストレーテッド Vol.186より一部転載
ノートe-POWER 4WDで氷上の定常円旋回コースをそろりそろりと走り出す。ステアリングを切り込むと、かろうじてコース中心のパイロンの周りを旋回するが、クルマの描く軌跡に対しステアリング操作量は明らかに過大。典型的なアンダーステアの状態だ。こうした状態に陥ったらステアリングをゆっくりと戻しながら、アクセルペダルの踏力を優しく抜く、というのが定石のはず。しかし、そこからアクセルを踏み込むと、ノートe-POWER 4WDはほどよいオーバーステアへと、その表情を変えてみせた。
こういうと、さも最初から華麗に乗りこなしたかのようだが、じつはこれを初めて体験したのは、オーテックジャパンで評価ドライバーを務める高沢氏が運転するノートe-POWER 4WDに同乗したとき。当初、筆者はどのように運転したら良いのか判断できずにいたのだが、今回の取材に同行いただいた神奈川工科大学の山門教授の「今回の試乗の狙いについて、開発者の意見を聞くべき」という助言から、同車のAWDシステムを開発した日産の富樫氏に“助け”を乞うたところ、提案されたのが高沢氏による“模範運転”への同乗だった。
試乗会場となった長野県女神湖の氷上コースは、当日の晴天と度重なる走行によりミラーバーンとなっており、直線であってもわずかなカントに進路が流されるという極低μの状態。おそらく摩擦係数はμ=0.1を下回っていたはずで、山門教授のスキルをもってしても手を焼くというコンディション。そこで“アンダー”が出るなかさらにアクセルペダルを踏み込むとは、これまでの常識にはなかった選択だ。前後の車軸がプロペラシャフトで機械的に連結している一般的なAWDなら、前輪と後輪はほぼ同じ回転数でしか動かないため、後輪でより“掻こう”とすれば、前輪もさらに掻くことでアンダー状態を強めることになってしまう。高沢氏の披露した運転操作は、前後独立で駆動を制御できるe-POWER 4WDだからこそ可能となる独特なものであり、いわば新しい“乗り物”の新しい操作。これも電動技術がクルマにもたらすとされる変化のひとつである。