極低μの氷上走行で体感「e-POWER 4WDはまったく新しい乗り物」

2022年の1月下旬に開催された報道関係者向けの試乗会「NISSAN Intelligent Winter Drive」。そこでもっとも印象的だったのが、e-POWER 4WDシステムを搭載するノートシリーズの走りだ。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) PHOTO:MFi PHOTO&FIGURE:NISSAN

モーターファン・イラストレーテッド Vol.186より一部転載

ノートe-POWER 4WDで氷上の定常円旋回コースをそろりそろりと走り出す。ステアリングを切り込むと、かろうじてコース中心のパイロンの周りを旋回するが、クルマの描く軌跡に対しステアリング操作量は明らかに過大。典型的なアンダーステアの状態だ。こうした状態に陥ったらステアリングをゆっくりと戻しながら、アクセルペダルの踏力を優しく抜く、というのが定石のはず。しかし、そこからアクセルを踏み込むと、ノートe-POWER 4WDはほどよいオーバーステアへと、その表情を変えてみせた。

オーテックジャパンでシニアエキスパートドライバーとして実験評価を担っている高沢仁氏。ニスモやCROSSOVERバージョンの開発を通しe-POWER 4WDのキャリブレーションに深く関わってきた、同システムの振る舞いをもっともよく知るひとり。難易度の高い路面状況をものともせず、ノートを手足のように扱う様はさすが。

こういうと、さも最初から華麗に乗りこなしたかのようだが、じつはこれを初めて体験したのは、オーテックジャパンで評価ドライバーを務める高沢氏が運転するノートe-POWER 4WDに同乗したとき。当初、筆者はどのように運転したら良いのか判断できずにいたのだが、今回の取材に同行いただいた神奈川工科大学の山門教授の「今回の試乗の狙いについて、開発者の意見を聞くべき」という助言から、同車のAWDシステムを開発した日産の富樫氏に“助け”を乞うたところ、提案されたのが高沢氏による“模範運転”への同乗だった。

ミラーバーン状態の定常円旋回コースを、ステアリング中立状態で回るノートe-POWER 4WD。我々が参加した当日は晴天のもと気温が高めだったということもあり、走行により表面が磨かれたコース上でこの状態に持ち込むには若干の“慣れ”が必要だった。その“慣れ”とはアンダーステアが出ているところから、さらにアクセルペダルを踏み込むという、これまでは禁忌とされていた操作を使いこなすこと。e-POWER4WDはまったく新しい乗り物なのだ。

試乗会場となった長野県女神湖の氷上コースは、当日の晴天と度重なる走行によりミラーバーンとなっており、直線であってもわずかなカントに進路が流されるという極低μの状態。おそらく摩擦係数はμ=0.1を下回っていたはずで、山門教授のスキルをもってしても手を焼くというコンディション。そこで“アンダー”が出るなかさらにアクセルペダルを踏み込むとは、これまでの常識にはなかった選択だ。前後の車軸がプロペラシャフトで機械的に連結している一般的なAWDなら、前輪と後輪はほぼ同じ回転数でしか動かないため、後輪でより“掻こう”とすれば、前輪もさらに掻くことでアンダー状態を強めることになってしまう。高沢氏の披露した運転操作は、前後独立で駆動を制御できるe-POWER 4WDだからこそ可能となる独特なものであり、いわば新しい“乗り物”の新しい操作。これも電動技術がクルマにもたらすとされる変化のひとつである。

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