フォーミュラE、いよいよGen3/Season9突入[ZFとモータースポーツ]

M9Electro(PHOTO:Mahindra Racing)
自動車関連製品および自動車関連システムのグローバルサプライヤーであるZF(ゼット・エフ)は2019年に、フォーミュラEに参戦するマヒンドラ・レーシング・チームの「オフィシャル・パワートレーン・パートナー」になった。この契約にともない、2016年から続いていたヴェンチュリー・フォーミュラEチーム(モナコ)との技術提携は終了した。マヒンドラの本拠はインドだが、レーシング・チームのファクトリーはイギリス・バンブリーにある。
TEXT:世良耕太(Kota SERA)

ZFによるマヒンドラ向けシャシー開発のサポートは2019/2020年シーズン(シーズン6)から始まっており、新たな提携によって2020/2021年シーズン(シーズン7)向けに新たに電動パワートレーンの供給が始まった。ヴェンチュリーでの実績(2018/2019年のシーズン5で初優勝)が評価された格好である。電動パワートレーンはモーター、シングルギヤの高性能トランスミッション、パワーエレクトロニクス(インバーター)で構成される。

シーズン6のマヒンドラ・レーシング(PHOTO:Mahindra Racing)
シーズン7のマヒンドラ・レーシング(PHOTO:Mahindra Racing)

マヒンドラの車両に搭載する電動パワートレーンは、ヴェンチュリーに供給していた電動パワートレーンをベースに磨きをかけたものだ。量産車の電気自動車(BEV)で一般的な400Vのシステム電圧ではなく、効率と将来の量産技術への転用を見込んで800Vの高電圧システムを採用。トランスミッションは規則上6速まで選択が可能だが、1速と2速を比較検討した末に、1速(変速なしのシングルギヤ)を選択した。

パワーエレクトロニクスに用いるパワーデバイスには、やはり、効率と量産分野への技術の適用の観点から、低損失かつ高速スイッチングが可能なSiC(シリコンカーバイド)を選択している。ZFはフォーミュラEに電動パワートレーンを供給するにあたり、「800VシステムとSiCパワーデバイス」の組み合わせにこだわった。シーズン7の車両には電動パワートレーンに加え、特別に設計したショックアブソーバー(ダンパー)とエンジニアリングサービスを提供している。

2020/2021年のシーズン7は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、イレギュラーな開発が強いられた。シーズンの開幕も年明けにずれこみ、2021年2月26日にディルイーヤ(サウジアラビア)で行なわれている。コロナ禍での開発は困難を極めたが、ZFには2016年からの開発で築き上げた経験と専門知識があったため、新たなパートナーであるマヒンドラとの共同開発はスムーズに進んだという。

シーズン7に臨むにあたり、ZFのウォルフ=ヘニング・シャイダーCEOは次のようにコメントしている。

「モビリティの未来は明らかにエレクトリックです。それはモータースポーツにもあてはまります。電動ソリューションの主要サプライヤーとして、ZFはフォーミュラEで効率とスピードの競争に立ち向かいます。レーストラックと新しい技術開発の両分野で、優れた能力を示す所存です」

このコメントに対し、マヒンドラ・レーシングのチーム代表、ディルバー・ジル氏は次のようにZFとの関係を次のように説明した。

「マヒンドラ・レーシングとZFのエンジニアは、最高のパフォーマンスと効率を提供するという共通の目標に向かって協力しています。このプロジェクトは、コラボレーションの重要性を相互に理解したうえで成り立つ、真にユニークで特別なパートナーシップであることを示しています」

ZFが開発した電動パワートレーンとダンパーを搭載したマヒンドラのフォーミュラE車両、M7Electroは、アレックス・リン選手のドライブにより、第13戦ロンドンでマヒンドラとZFのコラボレーションに初めての勝利をもたらした。

マヒンドラ・レーシング:M7Electro(PHOTO:Mahindra Racing)

その後もマヒンドラ・レーシングとZFのパートナーシップは継続。大きな転機は2023年1月14日にメキシコシティで開幕するシーズン9で訪れる。なぜなら、まったく新しい車両が導入されるからだ。ZFがフォーミュラEに電動パワートレーンの供給を始めたシーズン5からシーズン8までは「Gen2」と呼ぶシャシーを参戦全チームが使用。電動パワートレーンを独自に開発し、技術力を競ってきた。

シーズン8のマヒンドラ・レーシング(PHOTO:Mahindra Racing)

シーズン9からは、Gen3車両が導入される。Gen2からGen3への変化は大きい。アピアランスが一新されるだけでなく、電動コンポーネントの構成とスペックも大幅に変更される。リヤに搭載するモーターの最高出力は250kWだったが、Gen3では最大350kWに引き上げられる。さらに大きな変更は、フロントにも最高出力250kWのモーターを搭載することだ。フロントとリヤ合わせて最高出力は600kWに達する。

ただし、フロントのモーターは回生専用で力行は行なわない。強力な回生パワーを手に入れたことにより、リヤの油圧(摩擦)ブレーキは廃止される。これまでもレース中に多くの運動エネルギーを電気エネルギーに変換していたが、Gen3では回生能力が飛躍的に高まることになる。車両の安定性を担保したうえで効率良くエネルギーを回生し、効率良く力行に使って速さに結びつけたい。

電動パワートレーンを構成する個々のコンポーネントを効率高く、軽く、小さく開発することも重要だが、同時に、エネルギーマネジメントもより重要となり、テクニカルサポートの真価が問われることになりそう。

マヒンドラ・レーシング:M9Electro(PHOTO:Mahindra Racing)

マヒンドラ・レーシングは2022年4月28日、シーズン9に投入するGen3車両、M9Electroを発表。6月23日〜26日にイギリスで開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで実車が公開され、デモンストレーション走行が行なわれた。サイドポッドにはしっかり、ZFのロゴが確認できる。

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…