トヨタ新型プリウス:なぜ大きく変わったのか、ふたつのパワートレーンの意味

全高を下げたことでスタイリッシュなデザインと空力性能を両立させた。リヤデザインには緩やかな絞り形状を与えて空気の流れをスムーズに収束させている。テールランプは薄型の一文字というデザインで車両エンブレムをセンターに配置する。イメージはご覧のようにより先進的な印象となった。
11月にワールドプレミアされた新型プリウスには2.0lと1.8lのエンジンが用意されることとなった。このことは、これまで排気量バリエーションを持ってこなかった同車において、史上初となる大きな変化だ。その背景にあるのは、時代とともに変化してきたプリウスの在りかたと、それを取り巻く状況である。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)/MF PHOTO&FIGURE:TOYOTA
『モーターファン・イラストレーテッド』 Vol.195より一部転載

プリウスのフルモデルチェンジが話題を集めている。なんといっても目を引くのは、インパクトあふれるそのスタイリングだが、驚くべきはPHEVではない通常のHEV仕様のシステムで、おそらく先に登場しているモデル(ノア/ヴォクシー、カローラ)にすでに搭載されているものと基本的に同じシステムだという点。これまで常に燃費性能を進化させる象徴的な存在であったプリウスには、モデルチェンジのたびに新たな変更が盛り込まれたシステムが搭載されてきたわけだが、その流れが大きく変わったということは、プリウスというモデルの持つ役割が変化したことを意味する。

このことについては、2022年11月16日に行なわれた同車のワールドプレミアに登壇したサイモン・ハンフリーズ氏(デザイン領域・統括部長)も言及していたことではあるが、各部を構成する要素を見ていくと、さらに明確なかたちで浮かび上がってくる。もっともわかりやすいのが、リチウムイオンセルによって構成されるというバッテリーパックである。トヨタに留まらず、パワー密度が求められるハイブリッドシステムにおいて、おそらく現在最適と思われるバイポーラ型ニッケル水素セル(2021年のアクアに搭載)の採用が見送られている模様だ。

バイポーラ電極式ニッケル水素セルについては、MFi-182で詳細解説しています。

エネルギー効率を最優先とするのであれば当然と思われる選択を採らなかったのは、理由があってのこと。ひとつの要素として考えられるのは、バイポーラ型ニッケル水素セルが現状においてリチウムイオンセルよりも高コストである点。5代目となる新型プリウスはこれまでのような効率や燃費で“一番”を取りにいくクルマではなく、「みんなの手が届くエコカー」(ハンフリーズ氏)を目指すのだという。ハイブリッドが当たり前のように搭載されるようになったいま、幅広い人々の手に渡りCO2削減効果の裾野を広げていくという戦略である。

この点については、従来からのプリウスと同様ではあるが、これまでよりも重点を置くかたちになるということ。そしてプリウス史上初となる2種類の排気量がラインアップが用意されたのはこのためだ。ちなみに2.0LにはM20A-FXS型、1.8Lに2ZR-FXE型エンジンを採用。組み合わされる第五世代のハイブリッドトランスアクスルは、すでにノア/ヴォクシー、そしてマイナーチェンジ後のカローラに採用されている。M20A-FXS型を用いる第五世代ハイブリッドトランスアクスルの組み合わせは国内初出だが、後者の1.8L版については、少なくともパワートレーンのハードウェア的にはカローラに搭載されていたものがほぼそのままとなるようだ。

2.0L版はHEVに加えて大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載したPHEVを用意。こちらは164kWものシステム最高出力を発揮するということで、これまでのプリウスになかったパフォーマンスを強調している。どちらかというと1.8LのHEV版(こちらは103kW)がこれまでの流れを汲んだものになるはずで、燃費で一番を狙わないといっても、プリウスだけにそれなりの燃費性能をみせてくれると思って良さそうだ。第二世代に進化したTNGAと相まってどんな走りを見せるのか、とても楽しみである。

プラットフォームは第2世代TNGAへと進化した。先代から採用がスタートしたGA-Cプラットフォームをベースに高度な結合技術を組み合わせてボディをより高剛性化。また先代PHEVでは荷室床下に搭載されていた大型電池パックを新型では後席下に移動し燃料タンク位置も変更するなど改良して荷室容量を拡大している。
ボディサイズは下の図のように全長4600mm(先代+25mm)、全幅1780mm(+20mm)、全高1430mm(-40mm)となった。ホイールベースは先代+50mmの2750mm。乗員のヒップポイントは前席/後席どちらもさらに低くなり、スタイリッシュなローフォルムの実現に貢献している。
詳細はまだ発表されていないが、前ストラット、後ろダブルウィッシュボーンの形式を踏襲しつつ、プラットフォームの進化で設計の自由度が上がり、車両応答性や乗り心地、静粛性の向上を実現したという。タイヤサイズは195/50-19という細幅+大径タイプ(発表会場の撮影車)。クロスオーバーのようなオーバーフェンダーを備える。
コックピットは「アイランドアーキテクチャー」というコンセプトでデザインされており、圧迫感のない空間と運転に集中しやすいディスプレイまわりで構成。プリウス伝統のメーターのセンター配置は刷新され、一般的なドライバ-正面に変更されており、ステアリング径は少し小さくなっている。シフトレバーは一見ストレートゲート風だが現行と同じくジョイスティックタイプ。

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