AD/ADAS検証用シナリオ作成を助ける強力なツール

ZIPC GARDENが自動運転システム開発現場のさらなる効率化を実現する[NTTデータ オートモビリジェンス研究所]

AI技術など最先端のテクノロジーが可能にしたAD/ADASだが、開発にはいまだエンジニア達の地道で膨大な苦労なしには成立しない要素が存在する。AD/ADASの動作検証に必要不可欠な“シナリオ”の作成がそのひとつだが、新たなツールの登場が状況を大きく変えようとしている。
TEXT:髙橋一平(IPPEY Takahashi)  PHOTO:MFi  FIGURE:NTT DATA Automobiligence Research Center

デモ操作を行なう浜田氏が、交差点付近を拡大した地図上に小さな長方形で表示される走行車両の位置をドラッグして決定、それぞれの車速などを数値入力欄に記入……。あっけないほど簡単な操作で始まったのは、ZIPC GARDEN Automationによる、自動運転シナリオの生成と検証だ。

ここまで時間にしてほんの数分、数値の入力も数ヵ所程度のもの、入力だけであれば素人の筆者にもできそうにも見える。なるほど自動運転の開発にもなると、ここまでツールも進化したかと思ったのだが、それは大きな勘違いだった。じつはZIPC GARDEN Automation、いままでになかったまさに画期的なものなのだ。

ZIPC GARDEN Automationとは、NTTデータ オートモビリジェンス研究所が開発した自動運転検証用シナリオ作成ツール。シナリオとは自動運転車(以下ADASも含む)が走行中に遭遇するであろう状況を指す。運転を司るシステムの動作は安全性確保が必要不可欠で、それを確認すべくさまざまな状況を網羅し動作検証が行なわれる。この“さまざまな状況”がシナリオである。

ZIPC GARDEN Automationのシナリオ設計時ルート設定画面

そして現在、シナリオの網羅的な検証に用いられるのがシミュレーションだ。車両を使った実走行テストも行なわれているが、各研究機関が喧伝している数百万kmにも及ぶ実証実験をもってしても“網羅”というには程遠く、再現性の確保(同じ状況、あるいは似たような状況を繰り返し検証すること)が困難という問題もある。シミュレーションなら再現性の確保はもちろん、時間を早送りするような検証も可能だ。

こう言うと “魔法のツール”のようにも聞こえるが、いかに高度なシミュレーションであっても、人間の入力と指示なしには動作しない。シナリオもそのひとつだが、それらは “右直”や“飛び出し”のように、人間の使う言葉で抽象的に表現される。AI技術が進化している近年にあっては意外に思うかもしれないが、じつはコンピューターにこうしたシナリオで使われる人間の言葉の意味を、正確に理解させることは現在もなお不可能。極論するならコンピューターの内部は、数学的な処理のみで動作するからだ。

これまでは、個々のエンジニアがコンピューターが理解できるように、シナリオを数学的に記述してきたのだが、そこには膨大な手間がかかる計算が必要なうえ、“安全でない状況(Unsafeな状況)”を選択していく検討作業が求められてきた。エンジニア達は表計算ソフトなどを駆使し、なんとかこなしてきたのが実情だ。しかし同社の真喜屋氏によれば、そうやって作り上げたシナリオも、“右直”のような言語で表現される抽象的な部分との紐付けは作業を担当したエンジニア個人のみが知りうるという“属人化”の問題も見受けられ、リソースとしての再活用の面でも課題も少なくなかったという。

こちらは走行車両や歩行者などシナリオに登場する「ACTOR」の設定用画面

膨大なシナリオを重要度で分類し、リリース後のインシデントにも迅速に対応

ZIPC GARDEN Automationはこうした自動運転開発のニーズに応えるもので、冒頭で紹介したように、簡単な操作による設定から、シナリオの探索に必要な膨大な計算をこなしていく。またUnsafeな状況をシミュレーションシステムで実行可能なフォーマットとしてシナリオを自動生成、OpenSCENARIOなどの記述規格にも対応しながら“属人化”の問題にも対応、将来も活用可能なリソースとして蓄積できる。

冒頭の操作から、シナリオが自動生成されるまでの時間はわずか10分足らず。同ツールはオンラインで提供されるため、当然ながらサーバー側ではパワフルな最新のシステムが用いられている。こうした環境を最大限に生かしながら、独自のアルゴリズムを採用することで高速な探索を実現している点も、ZIPC GARDEN Automationの特徴だと同社の矢竹氏は解説する。

最大の魅力はシナリオの作成にかかる手間(時間)を大幅に削減できることだが、それ以外にも専門的な知識が求められることのない優れた操作性や、シナリオを今後も活用できるようにするリソース化など注目すべき点は数多い。同社では次のステップとして市場から実走行データを収集、シナリオ検証などに活用するシステムや、ZIPC GARDEN Automationからシームレスに連携可能な、独自のシミュレーターの開発を進めている。ZIPC GARDEN Automationは、自動運転開発の次世代を切り拓くという、こうした取り組みの第一歩となるものである。

ZIPC GARDEN Automationの画面表示

赤の直方体が自車で交差点前で車線変更しながら進入、右折という軌跡をとり、対向車線からは他の走行車両(青)が直進状態で同交差点に進入というシナリオを表している。いわゆる“右直”に分類される事例だが、シミュレーションの検討には動作すべてを数値と数式で表現することが必要。従来はエンジニアが表計算ソフトなどを駆使し手作業で作成していたが、同ツールを用いればポインターのドラッグなど直感的で簡易な操作と、いくつかの簡単な数値入力だけでこれが可能になる。とくに画期的といえるのが、下のような衝突や接触を伴う“安全でない状況(Unsafeな状況)”の自動探索機能だ。

独自のアルゴリズムにより“Unsafeな状況”を高速で探索

上で例に挙げている“右直”であっても、右折する自車と直進車両、それぞれが交差点に進入する速度やタイミングにより、Unsafeな状況となる衝突や接触が起きるとは限らない。そこでシナリオを構成するあらゆる数値を少しずつ変化させながら探索(絞り込み)していくのだが、従来はこの部分に多くの工数が必要でエンジニアの技量に大きく依存していたことから、“属人化”に繋がりやすいという問題があった。ZIPC GARDEN Automationは、ASAM規格によるシナリオ記述の枠組み(OpenSCENARIO)などにも対応したシナリオ生成が可能だ。なお同ツールはAWS(Amazon Web Services)を用いた、クラウドベースのサービスである。

数理モデルに基づく軌跡を自動生成

ZIPC GARDEN Automationにはプレビュー機能も用意されており、作成したシナリオの動作をチェックすることも可能だが、基本的には自動車用途に特化したシミュレーションシステム上での検証が目的(主要なベンダーのシステムに対応)。それゆえに、自動車が描く軌跡(トラジェクトリ)は自動車の運動特性に基づくものであるが、専門的な知識がなくとも同ツールが備えている数理モデルを利用して自動的に生成される。

次世代の自動運転開発の扉をひらく第一歩

NTTデータ オートモビリジェンス研究所は、車載用システム開発やツールを手掛ける研究者集団。ZIPC GARDEN Automationはこうした業務で集まった現場の声に応えるかたちで開発され、V字で示される開発プロセスの比較的“上流”にあたる左側の仕様決定を担うものだ。シミュレーションシステムのZIPC GARDEN Simulator(2023年リリース予定)や、市場(公道を走行する一般車両)から実走行データを収集、シナリオ検証に活用するシステムZIPC GARDEN DevOps(2024年リリース予定)など、今後に投入予定のツール群とともに次世代の開発環境を支える。

PROFILE

矢竹 健朗(Kenro YADAKE)
株式会社NTTデータ オートモビリジェンス研究所
第1事業部 テクニカルエンジニア 博士(工学)
真喜屋 龍(Ryu MAKIYA) 
株式会社NTTデータ オートモビリジェンス研究所
第1事業部 テクニカルエンジニア 博士(理学)
浜田 洋(Hiroshi HAMADA)
株式会社NTTデータ オートモビリジェンス研究所
第1事業部 テクニカルエンジニア

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